常初花 3





 市丸と遭遇してから数日、は大人しくしているようだ。

しかし、いつまで持つか・・・

 ルキアの処刑は決まっている。それまでに、助ける手立てを考えているのか?
一人の力では、どうする事もできない。
なのに、なぜ、諦めない?
そして、なぜ市丸と遭遇したのか?
いったい、どこで?
さまざまな疑惑が、を取り巻き白哉の思考を乱す。

――― いっそ、事が終わるまで閉じ込めておくか?

そこまで考えて、白哉の思考は阻まれた。
護廷内の廊下の向こうから、市丸ギンが話しかけてきたからだ。

「お久しぶりです、朽木隊長。」

 人懐っこいが探るような視線がカンに触る。が、相手にする気はなかった。

「最近、別嬪さんを囲われたそうで、えらい噂です」
「・・・兄には、関係のない事だ。」
「冷たいですなぁ。そんな別嬪さんなら、ぜひ、お目に掛かりたいなぁと思て」
「関係ないと、言っている」
「おお、怖っ。・・・・でも、気ぃ付けとかんと、そない別嬪さんやったら、攫われてしまいますよ。
 ちゃぁんと、閉じこめておかへんと」

 市丸はすれ違った白哉を振り返り見つめた。しかし、白哉は無言のまま、行き過ぎる。
当然の結果といわんばかりに、市丸も歩き出した。

『語るに落ちてますよ、朽木隊長・・・』

開かれた市丸の目が光った。











 市丸とすれ違い六番隊隊舎に戻った白哉を、副隊長の阿散井恋次が出迎えた。

「所用ができた。・・・後は任せる」

出迎えた恋次に挨拶をする間も与えず、用件だけ告げると隊舎を後にした。

「・・・隊長・・」

恋次は、術なく見送った。
遠すぎる存在、しかし、いつかは越えたいと願う。思考すら読み取れぬ壁に、己の感情は行き場を失った。

「・・・なぜ俺は・・・・」

自分に無理に納得させている心が、言葉になる。
その名を呼べば、押さえは効かない。

――― ルキア・・・

恋次は、言葉を飲み込んだ。











 邸に戻ると、予想通りはいなかった。
慌てる使用人達に、立ち寄っただけだと伝え、すぐに邸を出た。




 一方、は、白哉の予想通り、白道門(西門)にいた。
西流魂町への通り道であり、西流魂町は、浦原喜助の行動拠点でもある。

 そして、再び、市丸と遭遇していた。

「よう会うねぇ。これって、『運命』ってヤツと違うんかな」




――― 隊長が、わざわざ西門の警備に?





 は、何も答えず睨みつけた。

「そんな怖い顔しんとき。可愛い顔が台無しや」
「・・・ご心配には及びません」
「つれないな〜。ボクは、一目惚れやのに」
「私の霊圧にでしょう?」
「それも在るけど、ボク、欲張りやから」
「?!」

 一瞬にして、唇を奪われた。殺意がない為、察知が遅れたのだった。

「何するの!」

 あげられた右手を、簡単に掴むと腰にまわした腕に力を込めて強く引き寄せる。

「退屈させへんよ。・・・それに、君が知りたい事・・・・・教えてあげてもええ。
 ここへ来たんは、何か掴んだんからやろ?」
「誰が信じると思ってるの?あんな所で会っておいて」
「なら、朽木隊長に何で言わんかった?・・・・ボクを庇ってくれたんやろう?
 それとも、バレたら不味い事でもあるん?」

――― こいつは何処まで知っている?

 表情からは、読み取れない。ただ、人懐っこい笑顔を浮かべているだけだ。
白哉の名を出され、動いた表情を楽しんでいる。

 自分が、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に来たもう一つの理由(わけ)。
その理由は、たとえ白哉や浮竹にも言える事ではなかった。
もっとも、後日、その努力は無駄になるのだが。


「大貴族様や。飼い猫はいくらでも居るさかい、義理立てせんでも、ええと思うよ。
 妹はんから、君に乗り換えた様に」

 市丸の言葉に、の左手が動いた。
パシッっという軽快な音と共に市丸の頬にあたった。

「白哉は、そんな人じゃない!」
「痛いなぁ・・・。左利きやったんか。早ようて、掴み損ねてしもた。
 利き腕を掴ませへんなんて、なかなかや。ますます、気に入ったわ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気の強い女は、嫌いやない」

一瞬、凍りつくような霊圧を感じた。しっかりと開かれた市丸の瞳に、が映る。

「譲って貰えませんか?・・・・朽木隊長・・・」
「?!・・・・・」

 市丸の言葉すぐ後、圧倒的な霊圧を背後に感じた。白哉の物に間違いない。
感情を一切含まないが、とても激しい。

「その手を離して、去れ。」
「別に、拘(こだわ)る必要はないんと違いますか?次の子猫、拾てきたら、いいだけでっしゃろう?
 ・・・・・・本気で、惚れとるなら、別ですけど」
「・・・・」
「だんまりですか?・・・ほんま、無口なお人や」

カチリと、鍔を押し上げる音がした。

「・・・・そう・・ですか・・・・」

市丸は、再びぐっとを引き寄せ、耳元で囁いた。

『本気やから・・・ボクも・・・・』
『?!・・・・・』

市丸は、をゆっくりと離した。二人の霊圧に挟まれて、は動けない。

「今日の所は、これで引かせてもらいます。
 ・・・・・今度は、名前教えてぇな・・・ほな、またなぁ・・・」

市丸は、いつもの人懐っこい笑顔に戻り、そう告げると掻き消えた。






2005/6/6