欠け満つ巡れし夜半の月
近月 4
不安げに見上げるに、優しく触れるだけのくちづけを落とした。
閉じられた瞼から零れ落ちる涙が、枕を濡らす。
「まだ、間に合うぞ・・・・・」
己に戒めるように呟かれた言葉は、赤く染まった頬に薄っすらと微笑みを浮かべて、しかし、キッパリと祓われた。
「・・・・ 大丈夫 ・・・・たぶん ・・・・ あなたなら・・・・・」
最後の言葉は、首筋に感じた柔らかい感触に途切れた。
「ぁっ ・・・・ ん ・・・・・・」
時折、ちりっと微かな痛みが走る。
それが何か解からないが、くすぐったい様な妙な感覚に呼吸が乱れ始める。
衣擦れの音で紐を引き抜き、袷を開いてつきたての餅のような弾力を掌で遊ぶ。
柔らかく指の隙間から零れるソレは、白哉を煽るには十分で。
立ち上がり始めた蕾を唇で摘むと、小さな体が妖しくしなう。
そのまま抱きしめて、丁寧に輪郭をなぞってやると、すぐに固く膨らみ始める。
恥じらいと、初めて感じる快感の狭間に戸惑う初々しい。
触れてみて、初めて己の想いの深さに驚いた。
もしも、この肌に他の者が触れたとしたら、はたして自分は正気でいられるのであろうか?
ふと過ぎる畏怖を振り払うように、深く深くつちづけた。
戸惑う舌を優しく絡めとリ、離れぬように時折やんわりと吸い上げる。
呼吸の苦しさと、絶え間なく続く胸から腰にかけての愛撫に、しなやかな肢体はゆっくりと力をなくしていった。
「・・・・ ぁ ・・・・ あの ・・・・・ 」
「・・・・・ どうした?・・・・・」
「すっ・・・・・すいません ・・・・・・」
呼びかけに怪訝な表情を浮かべてしまった様だ。
ここで止めると言われたなら、今まで経験した事のない理性で己を戒めなければならないからだ。
「止めるか?・・・・・・」
「ううん・・・・・ だって・・・・ その・・・・・」
既に猛る自身は、着物の上からへと熱を伝えていた。
「無理強いする気はない ・・・ まだ、今なら ・・・・・
己の事だけを考えろ。 私への気遣いは要らぬ ・・・・・・・」
白哉の言葉に、細い腕を大きな背にまわして、ぎゅっと抱きしめた。
「・・・・・ ありがとう ・・・・大丈夫 ・・・・ だから ・・・・・・
あなた なら 怖くない・・・・・・」
「そうか ・・・・・」
同じように細い体をしっかりと抱きしめた。
「・・・・・ 名前 ・・・・」
小さく耳元で囁かれた言葉に、腕に力がこもった。
「・・・・・ 知りたいか?」
「・・・・・ ううん 辛くなるから ・・・・・ でも、よびたい ・・・・貴方を ・・・・」
「・・・ ならば、好きな名で呼べ」
「でも・・・・」
「かまわぬ」
「ぁっ・・・・」
の答えを待たずに、唇を白い首筋へと滑らせた。
「・・・・ シロゥ・・・」
「しろ・・・・・か・・・・」
「うん・・・ 」
嫌ですか?と問う瞳に薄い微笑みで答えた。
名を呼びたいと言ったのに、ちゃんと呼べたのは初めだけ。
後は、吐息も途切れ途切れで、白哉がを呼ぶ声だけが部屋に響いた。
ゆっくりと時間を掛けて白い肌に唇と舌を這わせた。
華を散らすのが惜しいくらいの白に、己のモノだと刻みたくて、
まるで模様を描くように、吸い付いては舌で解し、性感帯を解放してゆく。
華芯へと何度も指を這わせ潤みを確かめては、更に、胸や、脇や、指の間をゆっくりと攻めて迎え入れる準備を促す。
自分の手練の全てを使い、優しく優しく、丁寧に丁寧に、決して壊してしまわぬように。
「・・・・ いっ・・・・ いやッ ・・・・・」
ちいさな接吻を繰り返しながら体をずらし、少しでも、交わりが楽になるように、
まずは舌で華芯を解そうと、片腿を手に取った時、悲鳴に近い涙声。
見上げると、涙を浮かべた瞳が見つめ返す。
「ご・・・ ごめんなさい ・・・・・でも ・・・・・・」
閉じた瞳から零れた涙を隠すように、両手で顔を覆った。
その手を優しく掴むとゆっくりと退かす。
「どうした? 怖いか?」
『止めるか?』とは、もう、問えなくて。
首を振るに、小さく安堵の息を吐く。
「見られたら・・・・」
恥ずかしくて死んでしまうと、真っ赤に頬を染める。
そんなもの言いも、愛しくて、とても素直に微笑が浮かぶ。
「解かった・・・ お前の望みなら、聞いてやる・・・・・・ なんでも・・・・」
優しく告げられた言葉が嬉しくて、両足の間に体を滑り込ませる白哉に素直に身を任せた。
啄ばむ様にキスをしながら、花弁に沿って指でなぞり、何度も何度も蜜を絡める。
クチュリと指を沈めた時、小さく体がしなをつくる。
「あっ・・・・ んん・・・・・・」
狭い内部をゆっくりと探りながら、解してゆく。
一つ見つけると柔らかく刺激して、指をもう一本増やす。
三本目を入れた頃には、最初は恥ずかしがって噛みしめて唇から、甘い啼き声が洩れ始めた。
掌まで濡らす蜜を親指に絡めて、すぐ上の茂みに隠れる珠を探る。
簡単に見つかったソレをくりっとなぞると、さらに悩ましい声で白哉へとしがみついてきた。
その細い体を空いた手でしっかりと抱きと止めると、優しく名を呼んだ。
「・・・・・ 少しキツイが、心配するな ・・・・・」
潤んだ瞳で小さく頷く。
ゆっくりと指を引き抜くと、体重を掛けぬように体を支え、
己の想いをあてがうと、慎重に腰を沈めていく。
「ぁぁ ・・・・・ ゃ・・・・っ 」
「何も考えなくていい 全てを、私に委ねるんだ・・・・ ・・・」
痛いのだけれど、とても、痛いのだけれど、ソレだけでは片付けられない何かが一緒に押し寄せてくる。
初めて体験する感覚に狂いそうになる自分を、優しい声が大きな腕が、しっかりと抱きとめてくれている。
「 ・・・・・ ・・・・・」
名を呼ばれるたびに、湧き上がる何かが温かく包んでくれた。
「大丈夫か? 苦しくはないか?」
全てを納めた白哉は、優しく頬を撫でながら問う。
動き出しそうになる欲望を、理性で無理やり押さえて、少しでもに負担を掛けぬ様に。
「・・・・ わかんない ・・・・ いた ・・・くて、 でも・・・それだけ ・・・・じゃ なくて・・・・」
熱いのと、見つめる瞳に映るのが紛れもなく己だと確信した時、愛しさが理性も欲望を押し流す。
「私も、熱いよ ・・・・・ ・・・・・・・・ お前が ・・・ 愛しい ・・・・」
答えを飲み込むように、深くくちづけながら、ゆっくりと腰を動かし始める。
唇を離した時には、もう、の唇からは言葉にならない声しかなくて。
締付けるのではなく、絡みつく様なの膣(なか)は、苦痛ではなく別の感覚が包んでいる事を白哉に教える。
愛しくて、愛しくて
触れたら、それは、形を増す
「・・・ 全てを・・すべてを、私に ・・・・・ お前を ・・・・ 必ず、守ってやる ・・・・」
滴り落ちる汗とともに、己の全てでを愛しながら紡がれた言霊。
零れた言葉は、恐らくには届いていまい。
いや、もとよりに告げる為の言葉ではないのかもしれない。
失くしてはならない大切な何かを再び手に入れた己への、戒めにも似た誓いの言葉なのだから。
こうして、名も告げぬ逢瀬は、二人の心に大きく刻まれた。