8 穏やかな夜







 は志波家で、短い溜息をつく。


「おい、そんな湿気たツラすんじゃねぇよ」
「だって、せっかくかっこつけて、置手紙までして出てきたのに、かっこ悪い・・・・・」
「仕方ねぇだろう」
「でも、これって・・・・・・・」
「あきらめろ。流魂街(ここ) じゃ手に入る方が珍しいんだ」


 贅沢言うなと空鶴は愉快そうだ。


「お前が、地獄蝶逃がしちまうからだろう。自業自得だ」


 更に岩鷲が追い討ちを掛ける。
また、ためいきが一つ零れる。


 現世に戻るには、地獄蝶をつけていないと戻る事が出来ない。
以前のなら、可能だったのだろうが。


「で、これ・・・・いつ蝶になるの?」


 ガラスを、つま先でトントンと横たわる芋虫を見つめる。


「さあな。死神じゃねぇんだ解かる訳ねぇだろう」
「まあ、一年くらいは掛かるんじゃねぇか?」
「そっ、そんなに?」
「だったら、どっかの隊から、自分で盗んで来い」
「そんな事したら、世話係が大変な目にあっちゃう」
「じゃあ、文句言わねぇで、世話しろ」



 寝転んで鼻をほじる岩鷲に、は眉をひそめた。



「見納めにすんだろう?」


 窓から見える瀞霊廷を見上げる。
だったら少しはゆっくりしていけと、空鶴がニヤリ。


 そんなやり取りで夜は更けていった。







 自分で決めた事だ。後悔はしていない。
大切だから、愛しているから、醜く嫉妬する自分を見せたくなくて。
 責める言葉を、ただ悲しそうに聞く瞳が辛くて。



 私とあの人とどちらが・・・・・
どちらの名が返ってきても、心は痛むだけ。


 

 だから、私は別れを決めた。


 貴方を苦しめる私から、守るために。
 それが、今の私に出来ること。


 止らない涙とは裏腹に、心はとても穏やかだった。





 そう・・・・・守ったのは私自身なのだから



 それに気づくのは、もっとさきの事だった。




2006/1/10

副題提供 「モモジルシ」様