10 還らない時間
――― 貴殿なら、どうなさるのですか?・・・・・・海燕殿
「何やってんだ、てめぇ」
海燕の墓の前、手を合わせるルキアを睨みつける。
差し替えられたばかりの花、煙の立ち上る線香。
ルキアは、ゆっくりと立ち上がり、邪魔をしてすまぬと、脇を横切る。
「おい、あの朽木白哉が、、探し回ってるってのは、本当か?」
「?!・・・・・・・・」
噂とは凄いものだ。
「ああ・・・・・本当だ」
「現世は広い。見つかる訳ねぇだろう」
「お前には、関係なかろう」
カチっと頭に言葉が当たる。
パンパンとわざとおおきく手を合わせる。
すーっと息を引き込むと、
「兄貴、やっと、あいつがあっちに戻るぜ。あっちに行く度に心配して立ち寄ってただよ」
「?!」
歩みを止め振り返るルキアを無視して、墓石に向かって喋り続ける。
「ん? そんなこたぁ知らねぇよ。アイツが今どこにいるかなんて。
何でも、芋虫せっと蝶に育ててたぜ。
あと、2〜3日で羽化するらしい」
「がっ、岩鷲殿・・・」
くるっと向き直すとフンと鼻を鳴らす。
「いいか!俺はな、兄貴と喋ってんだ。てめぇとなんかじゃねぇからな!」
のしのしと歩く後ろ姿に、深く礼を下げた。
ぼんやりと白哉の話を聞いていた。
を見つける為の、輿入れ行列。
その為に、ルキアとの婚儀を仕組んだこと。
少々手荒だが、時間がない事が解かっていた。
現世で探す困難さは、身をもって知っているから。
すまぬと再び詫びる。
そして、無事でよかったとも。
「もう、遅いわ ・・・・・」
涙が零れ落ちる。
「遅くはない。始まるのだ、これから」
「私は・・・・・ 私は・・・・ 許せないの・・・」
解こうとする手を、両手でしっかりと握り締める。
「拒まれようが、誹られようが、決して離しはせぬ・・・・ 二度と・・・」
白哉の言葉に、再び涙が溢れる。
「・・・・ 許せないのは・・・ 私自身・・・・・・ 」
醜く嫉妬して、色々な愛の形なんて全く理解できなくて。
比べてどっちが大切か、ただそれだけを求めていた。
身ごもって初めて、比べる事の出来ないものがあると知った。
「一番大切だった貴方を、たくさん傷つけた・・・・・・
誰が許しても、私が許せないの・・・・ごめんなさい・・・・」
「許せぬ・・・・か・・・・・」
白哉の言葉が静かに響く。
「ならば、償え」
凛とした視線で、見据える。
「私を、一人にした事を・・・・ 二度も、同じ悲しみを与えた事を。
・・・・・・・・ その生涯をかけて ・・・ 私の傍で ・・・・」
「・・・・ 白 ・・ 哉 ・・・・・」
小さな手を、しっかりと両手で包むように握り締める。
「そして、私にも償わせてくれぬか?
お前を、追い詰めてしまった事を。
もっと早くに告げていれば、大切な体を一人にする事もなかったろう。
失うのを恐れ、機会を逃したおろかな私に・・・・・
まだ、私を愛してくれているのなら・・・・・」
過ぎた時間は決して還らない。
解くのは簡単で、人は失くしてからその大きさに気がつく。
「・・・・・・・」
「・・・・ ・・・・・・」
「・・・ 名前を ・・・・」
「名前?」
「名前を頂いても良いですか?」
隣に眠る赤ちゃんを優しく見つめる。
「奥方様がいたから、私はルキアに出会って、貴方に出会えた。
この子が、来てくれたから、私は・・・・・・・ 」
見つめる瞳は、白哉へと移っていく。
しっかりと、その瞳をみつめるのは、どれだけぶりだろう。
変わる事無くを包み続けた眼差しは、今でも愛しくその瞳に映す。
「ああ・・・・ かまわぬ・・・・・・ 」
握られた手に、優しく力がこもる。
「・・・・・・・・・ ありがとう ・・・・・・・」
そして、その甲に小さくくちづけた。
「愛している お前と出会えて私は、幸せだ」
人の命は儚くうつろう
めぐり巡って時は廻る
儚い夢に想いを託して
早咲きの梅が、柔らかな香りで白哉を優しく包んだ。
*******
既婚者事件(笑)のその後。
これで、奥方様の事はすっぱり忘れて夢に浸ります。
最後までお付き合いありがとうございました。
次は、明るく楽しい夢頑張ります。
2006/1/20
副題提供 「モモジルシ」様