待ち合わせて、電車に乗って、公園に行く。
ただしいデートだ。


ふ、とゾロがかぼそい息を吐く。
座ったまま前かがみになってすこし震えている。
「大丈夫?」
サンジが聞くと、下を向いていたゾロはサンジのほうへ顔を向けた。目尻が赤い。膜はうるんでいる。大丈夫だ、とかすれぎみの低い声で言う。そう、よかった、とサンジは言った。
窓の外を景色が流れていく。車内はむっとするほど暖かい。向かいの席に座った女性は熱心に本を読んでいた。
「っ!」
がたん、と電車が揺れた。その拍子に、ゾロのふとももがびくついた。靴が床を叩く。前の女性が顔をあげる。サンジはにっこりと微笑んだ。つられるように微笑み、彼女はふたたび本に視線を戻す。
介抱するようにゾロの背中に回した、サンジの長い指はジーンズのなかに消えている。その指を、不規則になかが食いしめていた。
声を殺すためか、ゾロは、歯ぎしりをしている。額に汗のつぶがぷつぷつと浮いていた。顔が真っ赤だ。射精してしまったのらしい。
「かわいそうに。もう着くからね」
気持ち悪いだろうけど、あとすこしのがまんだよとサンジは言った。


つぎの駅で降りて歩いて公園へと向かう。下着がべたつくせいか、ゾロの歩みは電車に乗るまえよりも遅い。
大きな池と、その周りにランニングコースのある公園だった。休日の昼下がり、だだっぴろい広場ではサンジとおそらく同じくらいの年齢の男がこどもとキャッチボールをしている。
のどかな光景だ。犬が元気よく走り回っている。ゾロはたぶん下着を濡らしつづけている。
「……なあ」
サンジが立ちどまってそれを見ていると、ゾロがサンジのジャケットのすそを握って軽く引いた。なに?と言うと、なあ、とだけまた繰りかえす。さっきよりもつよく引っ張る。
「言わなきゃわからないよ」
ゾロはサンジの顔をじっと見た。あんたはいじわるだ、とちいさな声で言う。
「嫌われたかな」
「そうじゃねえ」
だから困ってる、とゾロが言う。無防備なまっすぐな目でサンジを見ている。
サンジはその頭を撫でた。意外なほどやわらかい髪だった。
俺の名前、呼んで、とサンジは言った。
このまえ教えたばかりの。
「――サンジ」
「うん」
「サンジ、」
ゾロはゆっくりといちど瞼をふせた。
それから、はやく、と、もっとちいさな声で言った。


緑の匂いが濃い、日あたりよいその場所で後ろからいれた。散歩道からあまり離れていない木のかげに隠れるようにして。
ゾロのなかはとろけていて、とても気持ちがいい。うわごとのように、サンジの名を呼びながら、ゾロはサンジにあわせて腰を揺らした。短い髪が貼りついたうなじに、淡い葉影がうつっている。
ゆるゆると動いていると、ゾロが身体を支えていた片手で、自分の前をいじりはじめた。
「だめだよ、ゾロ」
ゾロの身体を起こさせぴたりとくっつくと、つながりが深まって、だって、とゾロが甘い声をだした。
だって?とサンジは突きながら、かきまわしながらやさしく聞く。
「はやく、いかねえと、」
「いかないと?」
「でけえ声、で、ちま」
「ああ、そしたら誰かに見られるかもしれないね」
あ、と思わずあえいで、ゾロがサンジをきゅう、と食いしめた。ゾロは素直だ。
「でもね、ゾロ。手はこっちだよ」
サンジは自分の出したものでどろどろになったゾロの手をそっと掴んだ。
「わかる?」
つながっているところを触らせる。めくれたひだをなぞらせた。
「おいしそうに食べてる」
ゾロの背中が撓り、ひくつく先端から芝生につゆがしたたった。そのまま突きあげを強くする。大声をあげかけたゾロの口を片手で塞いだ。そうされるとよけいに感じるのか、なかがサンジを貪欲に吸いあげ、ゾロは身をよじって腰をうごめかせた。
木の幹に、ぼたぼたと白いのが散る。てのひらに感じる熱いゾロの唇は、なんども、うわごとみたいに、サンジを呼んでいた。
「ゾロ」


映画館ではじめて出会った。
そうゾロは思っているけれどほんとうは違う。
ゾロは大学に通うのに電車に乗る。同じ電車に乗るサンジは前からゾロのことを知っていた。
みずみずしい若草色をした髪や、精悍な男っぽい横顔や、意志の強さを感じさせる後ろ姿をいつだって見ていた。
だからゾロの姿のない連休はつまらなくて、映画でも見てひまをつぶそうと思って出かけたら、チケット売り場で見慣れた背中を見つけたのだ。
夢みたいだと思った。
受けいれてもらえたのも、いまでも夢みたいだと思っている。


終わってから、向きあってキスをした。ゾロの唇はやわらかくて甘かった。考えたら、それがはじめてのキスで、そう思ったら、なんだかおかしくなる。
笑ったサンジをどう思ったのか、ゾロはむっとした顔になって、かけていたサンジの眼鏡を奪うようにとった。
じっと瞳をのぞきこむ。
「どうしたの?」
「……べつに」
色が、知りたかっただけだ、とゾロは怒ったような口調で言った。それがかわいくてサンジはよけいに笑った。
こんど、とゾロが言う。言ったまま、固まったように動かなくなったので、サンジは笑うのをやめてどうしたの?と尋ねる。
「こんどは、あんたの顔をちゃんと見ながら、してえ」
こういうのもいいけど。むすくれたままの顔を赤く染めて言う。
やっぱり夢みたいだ、とサンジは思った。





                                         (10.01.18)





わりと変態な二人ですが、愛があるからいいのです。いいのか。
textのパラレルに載せてる、「球体の表面積」に続いています。