持ってて、ください。そう言われ、掬われた膝裏に、両手を導かれる。とうにとろけきったそこに、押しあてられる感覚だけで、腕にぐっと力がこもり、抱え込んだ足が空を蹴った。 尻が、浮きあがる。まるで待ち焦がれているみたいにだ。引き攣った太腿に手がかかって、なおも大きく開かされた。びしょりと濡れたところが、すうすうとして心許ない。自分がいまどんな格好をしているか、考えればまた、体温が上がる感じがした。これを、見下ろす立場だったのだ。だから、自分がいま、どんな格好をしているか、ゾロには、嫌というほどよくわかる。 サンジがそこを見ているのを、視界の隅で捉えていた。汗でところどころ束になって、ゆるくうねった金髪の下、欲情して赤らんだ顔で、広がって、猛った性器を呑み込もうと、勝手にひくつく場所を、見つめていた。 ふう、と息を吐いてゾロは震える。だから正面からは嫌いだ。しやすいのだって後ろからなのに、サンジはやたら前からしたがった。見たい、んだそうだ。これ以上、何を見せればいいってんだ、そう思いながらも、サンジにねだられて、ゾロはろくに抗えたためしがない。せいぜいが埒もない悪態をつくくらいで、結局はすべてを許してしまう。その悪態ですら、面子を保つための虚勢にすぎないのだと、気がついたのはいつだったろう。 ゾロ、ゾロ。 名を呼びながら、サンジが、なかを侵していく。こっちを、俺を見てよ。いやだ、と子供のように首を振りたくなる。 ぐ、と押し分けられる感覚に、慣らされじらされた体は、容易に絶頂を捉えた。意味のない声が出て、視界が白んでいって、体が勝手に痙攣するのに、性器からのはっきりとした射精はなく、ただだらしなく水を漏らすばかりだ。 締めつけるなかを、深く、浅く、穿たれて、ひどい音が立っている。男なら、一度出せば急速に冷えるはずの頭と体は、少しも変わらずまだぐらぐらに熱く、また、すぐに次の波に呑まれていった。 俺の体は、おかしい、とゾロは思う。おかしくなってしまった。腰が、叩きつけるのではなく、貪欲にすりつけ、深く銜え、呑み込む動きをする。 イッてるの、ゾロ。 濡れた頬を撫でる、白いてのひらに、すがりたく、なる。 「――があっ」 思わず吠え声をあげダンと机を叩くと、ちょうど淹れた茶を持って来たらしい、ブルックがわっと声をあげた。よほどゾロが凶悪な面相をしていたのか、どうかされたんですか、何か不手際でも、と上ずった声を出す。 湯呑みを持つ骨ばった指が、カタカタと震えていた。それを見てようやく、ゾロは現実に引き戻された。不動産屋に来ていたのだ。書類関係の手続きをするため、ブルックが奥に引っ込んだわずかなあいだ、小さい音量でついたテレビを見るともなく見ながら、ひととき過去を浮遊していたようだった。 「……いや、なんでもねえ」 軽く手を上げ、は、と息をついた。気を抜くとダメだ。つい思い出す。サンジとは、あれから、一度も寝ていなかった。 五日経った時点で、こんなに空いたのは初めてじゃねえか、と思い、それほどだったのかとわれながら呆れたものだ。ゾロがバイトで不在のときを狙って、サンジが一人でバーに行っていたあの日からずっと、別々の部屋で寝起きする日々が続いている。 「ちっと嫌なこと思い出してな」 「嫌なこと、ですか」 「あーー……違う。嫌、じゃねえな」 嫌なのはこんなふうに、思い返してしまう自分のほうだった。ボリボリと頭を掻けば、ゾロさんらしくない含みですねえ、とブルックはヨホホと笑った。小さな不動産屋をやっている、年齢不詳のジイさんだ。これまでに何度か、格安のアパートを世話してもらったことがあり、すっかり馴染みなゾロの口調はいつのまにかぞんざいになっていた。 奇抜なアフロヘアーに、いつも正装に近いような衣服、大抵はヴァイオリンを携えていて、本業がなんなのか、いまひとつわからない不思議な男でもある。 「らしくねえ、か」 「まあ、私もそれほどゾロさんのこと、深く知ってるわけではないですけども」 年の功、というやつでしょうね。湯呑みを置くと、ブルックはゾロの向かいの椅子に腰掛けた。ず、と茶をすすってから外を見て、すっかり寒くなってきましたねえ、とのんびり言う。ゾロもつられて、外を見た。陽を透かす銀杏の葉が、黄金色にきらめいて、汗を纏って揺れるあの色をまた思い出し、ああ、そうだな、らしくねえ、とゾロは頷いた。 このまま甘えるように、サンジのマンションにいるわけにはいかない。それは以前から漠然と考えていたことだったが、居心地がよすぎてずるずると先延ばしになっていた。いくつかの条件を伝えて、ブルックに物件を探してもらい、見つかった、と連絡があったのは、もう、ひと月ほど前の話である。 出て行くと言ったら、もっと取り乱すかと思っていた。だから、伝える機会を逃し続けて、あのときようやく口に出した。別れるわけじゃねえ。そう、もう一度ゾロが言うと、しばらく黙り込んだのち、わかりました、とだけ、サンジは答えた。 バーからの帰り道だった。人通りが少ない場所に出ると、手を、繋ぎてえんだけど、と言って、返事を返す前に握りしめてきた。ゾロは振り払わなかった。落ち着いた、やけに静かな声で、ずっとこうやって歩いてみたかった、とサンジはつぶやいて、それから小さく笑った。ゾロの言うとおりだよ、俺は、我慢ばっかしてた、と。 俺は、あいつを少し、見くびってたのかもしれねえな、とゾロは思う。ひとの本質を、見抜く目はあるつもりだった。それが曇るほど、惜しみなく注がれて、深く嵌り込んで、依存していたのはよほど、自分のほうなのかもしれなかった。 だからこそ、このままではダメだ、と思ったのだ。そう遠くない未来、関係が破綻する予感を、ゾロは、ガラにもなく恐れた。 「これ、お渡ししておきますね」 ぼうっと外を眺めたままでいると、かちん、と硬い音がして視線を戻した。机の上には、真新しい鍵が置かれている。 「いつでも入れる状態ですよ。引越し業者はもう決まってますか?」 「いや、荷物少ねえからな。自分で運べる程度だ」 「それは『らしい』感じですね」 「なにが」 「荷物が少ない、っていう。なんとなくですけど、身一つ、っていうイメージなんですよ。必要最低限しかそばには置かない」 「……だろうな」 ブルックが何気なく言ったことは、ずばりと核心を突いている。身軽さをなにより好んで、面倒が嫌だから決まった相手を作らなかった。それがよりによって、あんな情の濃い男に捕まって、捕まったほうだと思っていたのに、いまは、自分こそが逃がしたくない、と思っているのだから、どうしようもないだろう。 礼を言って鍵を握り、ポケットに捩じ込んでいると、恋ですか、いいですねえ、とブルックがほう、と長いため息をついた。ゾロはぎょっとして動きを止めた。サンジのことなど、さすがに何も知らないはずだ。 「な、」 「アタリ、ですかね」 「……」 「大昔から、人を狂わせるのは恋だって、決まってるんですよゾロさん」 二の句が継げないゾロを見て、おやおや、とブルックが笑う。近くに鏡がなくてよかった。顔が熱くて、湯気が出そうだった。本当に、アホみてえだとしみじみ思う。 「ところで、その数字はなんですか。日付のようですが」 帰り際、手首の黒い文字を差して、不思議そうに問われた。油性のマジックで書かれたそれは、サンジが今朝がた記したものだ。 「メモだ」 「ああ、手帳も持たないわけですか。携帯の機能は使わないんです?」 「携帯に入れてること自体、忘れるからな。覚えてても持ち歩かねえことがあるしよ」 なるほど、たしかにゾロさんの場合、目に入る自分の体に書くのが一番ですね、とブルックは深くうなずいていた。まるきり小学生のようなやりかただが、これがゾロにとっては唯一、確実な方法なのだった。 「大事なお約束、なんですね」 「……そうだな」 空けておいてほしい日がある。今朝のことだった、そう、サンジが言ったのだ。大学が休講になって、今日は実家のレストランを手伝いに行くと言い、慌ただしく着替えを終えてから、急に思い出したように。ここに書いとけ、とゾロは言って、サンジのほうに手首を差しだした。てのひらは消えやすく、腕だと目に付きにくいから、ゾロがここにメモを取ることを、サンジはもう知っている。 ひさしぶりに、サンジの手が肌に触れた。ぎゅっと強くペンを握って、まじないでもするかのような、どこかやけに真摯な様子で、一文字一文字刻むように、サンジはそこに数字を書き込んだ。 知ってたのか、と少し驚いた。そういう素振りも見せなかったからだ。近いことなどすっかり忘れていたが、その日が何の日であるか、さすがにゾロにもすぐにわかった。 長い前髪から覗く、薄そうなまぶたと、その先の睫毛をゾロは見ていて、サンジが顔を上げたときに青い目と目が合った。逸らさないままで、書き終えたばかりの場所をてのひらで包んでから、空けといて、とひさしぶりに、気負いのない笑顔を見せた。 それは、ゾロがサンジと離れているとき、ときどき、ふいに思い出すものと同じ表情だった。好きです、と何度も、懲りずにサンジは言って、聞き飽きた、とゾロが言うたびに、なぜだか、ひどくうれしそうな顔で笑うのだ。 また思い出して、あーと呻くような声が漏れた。本当に、目を逸らしたくなるくらい、あの表情が好きだった。重症ですねえ。ブルックがまたのんびりと言って、笑う。まったく、そのとおり過ぎて反論もできない。もしこれがシャンクスあたりだったら、うるせえ、とでも怒鳴っているのだろうが、この老人にはそういう気にならないのは、おそらく、からかいが含まれていないのが伝わるからだ。 むしろたぶん、微笑ましい、とすら思われている。この俺が、と思うと、くらりとめまいがするようだった。 手帳など持たない。携帯と財布があれば、とはよくある台詞だけれど、ゾロに至ってはそれさえ所持せず、小銭だけをポケットに突っ込み出かけることもある。そんなときでも、サンジの存在は、すでに体に染みついていた。 いつのまにか、あの男が、必要最低限、になっている。 その日は日曜で、中途半端な時間に目覚めたゾロは、サンジが作った遅めの朝食を取った。こういうのを、ブランチと呼ぶらしい。サンジと住むようになって知った単語のひとつだ。一人で暮らしていたころは、仕事がない日はかなり適当な生活をしていた。うっかり寝過ごして、こうした、朝昼兼用、みたいな怠惰な食事を取ることが多かったのだが、物は言いようで小洒落た感じになるもんだ、と変に感心したものだった。 「夜飯は作りますけど、それまで行きたいとことかありますか?」 「行きたいとこ」 「はい。あるならつきあうし、ないなら家でのんびりしてもいいし」 ゾロが食事をしているあいだ、サンジは洗濯機を回していた。洗濯はこれまで大抵、ゾロがやっていたから少し不思議に思った。シンクに溜められた水に、食べ終えた皿をつけていると、いつも洗濯物を運ぶのに使っている、籠を持ってサンジがリビングの窓を開けている。 なにやってんだ、と問えば、いや、なんか落ち着かなくて、とサンジは言った。笑ってはいるものの、なんとなく緊張した面持ちだ。何を考えているかは知らないが、今日という日について思うところがあるのだろう。意気込み、のようなものだろうか。透けているあたりが、サンジらしいといえばらしいところだ。 何がのんびりだ、とおかしくなった。そういえば二人きりで一日いるのは、あれ以来はじめてのことだった。ゾロの休みはバラバラだし、サンジは学生だから土日休みだが、腕が落ちる、と言って実家を手伝いに行くことが多かった。休みがたまたま合えば合ったで、以前なら終日ベッド、なんてこともめずらしくなく、それもあってサンジは落ち着かないのかもしれない、とゾロは思う。できれば外に出たい、というのが本心なのだろう。 「俺もやる」 「……うん」 二人でベランダに出る。外は今日も晴れて、冷たい風が吹いていた。薄く溶かしたような雲が、青い空の高いところに、太さや長さの違う筋を刷いている。ぱん、とタオルを広げ、洗濯バサミに挟んでいった。これだけからりとしていれば、多少気温が低くてもすぐに乾いてくれそうだ。 視線を感じて顔を向ければ、サンジがぼうっとこちらを見ている。髪が風で乱れて、分け目が逆になっていた。何度見ても、おもしろい眉毛だ、と思う。指を入れて掻き回せば、すでに冷気でしっとりと湿って、サンジは驚いたように固まっていた。 そのときに、ふと思いつく。 「行きてえとこ、あるな」 「どこ?」 「新しいアパート。まだ下見にも行ってねえんだった」 「見もせずに決めたんですか」 まあな、とゾロは答えた。ブルックが勧めるのだし、ゾロとしては屋根があって水が出て、電気が通っていれば上等で、あとは家賃の問題だけなのだ。それと今回は、このマンションから徒歩圏内、という条件だけつけた。 「地図、もらってるしよ」 「俺が見るよ」 「ア?なんで」 「いや、俺が見るから」 やけに頑なにサンジが言い、ゾロは折り畳んだそれを手渡した。洗濯物を干し終えてから、のんびり歩いてアパートへと向かう。 二階建ての同じ建物が二つ並ぶ、古いコーポの一階だった。端の部屋で、なかに入ると、もちろんがらんとした空間が広がるばかりだ。1Kのそこは、ちょうどサンジの寝室と同じくらいの広さに見えた。掃除の手が入ったばかりなのか、よく磨かれた掃き出し窓の近くに並んで立てば、外には丈の低い水色のフェンスがあった。その向こうはすぐ土手になっていて、小さな川が流れている。気がつかなかったが、少し高台になっているらしい。そこそこ陽あたりはよいようで、窓ガラスから冷気が染みても、じんわりとした暖かさを感じた。 「桜だ」 サンジが、土手に植えられた木を見て、どこかうれしげに言う。春は、きっときれいだよ。低めの心地よい声が、耳のそばでふわりと流れた。 「洗濯物、落とさねえようにね。川に流れちまう」 「ああ」 「寝るときと出かけるときは、ちゃんと鍵かけてよ」 「サンジ」 「……はい」 「もう会わねえわけじゃねえ」 「……」 「ダラダラ居ついちまったが、はじめから長く世話になるつもりはなかったし、ちゃんとケジメつけてえだけだ。これからのためにな」 ごく短く、沈黙が流れてから、わかってる、と小さくサンジは言う。それから、誕生日おめでとう、と続けた。こちらを見ない横顔に、おう、とゾロは答える。隣の部屋からだろうか、ひとの話し声がしていて、それが本物なのか、テレビやラジオの音声なのかわからなかった。 「こっち向けよ。……向いてくれ」 ゾロが言えば、ゆっくりとこちらを見る。サンジは、ゾロよりずっと寒がりで、そのせいだろうか、頬がわずかに赤らんでいた。その、頬骨の一番高いところに指を伸ばし触れると、サンジはほんの少し肩を動かした。指をそこに置いたまま、顔を近づけて、乾いた唇をそっと塞いだ。煙草の匂いはもう、すっかり覚えてしまった。ゾロにまで移ったそれに、煙草を吸うようになったのか、とさえ言われるくらいだ。 くりかえしくちづけ、角度を変えれば、サンジも応えてくる。耳のほうへ指先を滑らせると、ふ、とサンジが息を漏らした。痺れるくらい気持ちがよかった。柔らかな、ひさしぶりの舌の感触を、もっと味わいたくて深く絡める。何もない部屋に、唾液の音が響いている。それに、息づかいが次第に混ざって、背中に回した片腕でコートを掴んだ。 唇を離せば、さっきより赤みを増した、いつもの、熱に浮かされたような顔があった。頬を両手で挟んで、もう一度、軽くついばむように音を立ててキスをする。サンジが青い目を細めて、間近で、あの笑いかたをした。ぐら、と視界が揺らいだ気がした。 畜生、好きだ、と、ゾロは、絞りだすように言った。他の誰にも、こんなことを言ったことがない。他の誰にも、こんな気持ちになったことがなかった。声は、どうしても掠れた。下腹が熱く張って、痛いくらいだった。ついでに顔も、まったく、アホみたいに熱い。 「俺は、お前がかわいい。かわいくてたまらねえ」 「……ゾ」 「こんなふうになったこたァ、ねえんだ、これまで、……だから」 だから、どうしたらいいかわからなかった。態度にも、言葉にも、とても出せなかった。それでいてサンジが、自分に見せない顔を他のやつに見せるのは嫌だった。自分のせいだとわかっていても、遠慮されていることに距離を感じた。抱かれてよがって、心も、体も、どんどん夢中になる自分を、ひどく、女々しいと思った。 サンジに言った、女、という言葉は、そのままゾロの恐れと葛藤だった。サンジがそういうふうに思っている、と本気で思っていたわけじゃない。 「――おい!」 いきなりサンジの体ががくん、と下に落ち、反射的に手を背中に回しそれを支えた。ずるずるとそのまま、二人して床に尻をつく。片腕を上げて覆った顔を、サンジは、真横に背けていた。見えている部分の皮膚は、首まで見事に真っ赤に染まっている。 「あー……はは、……腰、抜けた……」 「アホ」 「アホだよ、俺は。でもゾロもだろ」 「まあな」 はあ、と長く、細く息をついて、そりゃあ腰も抜けるよ、とサンジは言った。俺がどんだけ、あんたのこと好きか知ってんの、と震える声で続けた。そりゃこっちの台詞だ。そう返すと、もう、やべえから、勘弁して、とまたか細い息を吐く。 「でもかわいいより、格好いい、がいいけど」 「てめえだって言うだろうが」 「ゾロはかわいいから」 「なあ、そのひでえ顔見せろよ」 「……ひとのこと言えないでしょ」 まるで見えているかのように、横を向いたままサンジは応じる。知っていた。たぶん、自分も同じくらい、ひどい顔をしている。 なあ、ともう一度言い、頑なに上げたままの手首を掴めば、ようやくその指をゾロの首の後ろに回してきた。ぺたりと足を伸ばして座ったサンジの膝のあたりに、ゾロは跨るようにしてしゃがんでいる。手を添えたまま、サンジが、背中から体を倒していった。寝そべったサンジに、覆いかぶさるような形になった。 「えー、と……」 「どうした」 「好きに、してください」 覚悟は決めてます、俺も男ですから、と赤い頬のまま、意を決した、という感じのやけにりりしい顔をする。その意味が腑に落ちた瞬間、ゾロは噴きだしてしまった。腹が震える。あのバーにサンジが居たわけがようやくわかった。何をこそこそしているのかと思ったら、おおかた、シャンクスあたりに要らぬことを吹き込まれたのだろう。 く、く、と笑い続けるゾロを、サンジは、ぽかんとした表情で見あげていた。 「……あれ?……違った……?」 「ま、要らねえとは言わねえが、んな決死みてえな顔されてもな」 「だってあのときも……抱かれるばっかは不満、なんじゃねえの」 あのとき、というのは、この前のトイレでの一件のことに違いない。てめえの女、とゾロが言ったからだろう。ありゃあ言葉のアヤ、みてえなもんだ。そう言うと、え、そうなんですか、と呆然としている。よほど気負いがあったのか、すっかり脱力しているらしい、サンジのコートの袖を引っ張り、脱がせていった。ばさり、と適当に床に投げて体を前に倒し、耳の下に吸いついて、小さな赤い痕をつければ、鼻先で、サンジの髪の匂いが濃くした。 ああ、今日はやべえかもな、とゾロは思う。 「不満だったらな、とうに引っくり返してる。これからも気が変わらねえ、とは言わねえし、抱いてほしけりゃいつでも遠慮なく言え」 「……じゃあ」 「どうせくれる、ってんなら」 お前の好きにされてえ、んだが。 耳に、ひちゃりと舌を捩じ込みながら囁くと、ぶる、とサンジが震えた。 「ゾロ、声、やばい、って」 「ふ、ァ、無茶、言うな、ッ」 聞こえちまう、聞かせたくねえ、そう言うくせに、指の動きを止めようとはしない。慣らすものがないしひさしぶりだから、とサンジは、やけに念入りに後ろをほぐした。前立腺になるべく触れないよう、気をつけてくれているようだったが、すっかり慣らされたそこは、襞の周りも、なかも、すべてが感じるようになっている。 かなりの安普請だから、サンジの言うとおり、声を殺すべきだとはゾロにもわかっていた。けれど、とうてい無理な話だ。両手で口を押さえていても、力が抜けて、すぐに外れてしまう。 テレビでもあればまだごまかせただろうが、それもない。そういえば、さっきまで聞こえていた、ひとの声がもうしていなかった。せめて近隣の住人が、この見事な秋晴れに誘われて、外出しているのを祈るばかりだ。 日なたに寝そべった、サンジの上に跨ったまま、尻を割り開かれている。指が行き来するたびに、音がして、声が漏れ、前が濡れる。暖房がないから、と、ボトムと下着をずりおろし、そこだけを露出していたが、ゾロのほうはすでに汗が浮きはじめていた。見かけより厚みのある体に、しがみつくようになっていた、上体を起こしてゾロは上を脱いだ。一番下に着ていた衣服を歯で噛んで、頭の後ろできゅっと結び目を作る。これで、少しはマシになるはずだ。 ようやく空いた片手を、サンジの体の脇について、ゾロは腰を揺らした。三本、入った指の動きに合わせるように。もう片方の指は、いまにも達しそうに反り返った、自分の性器の根本を握り込んだ。驚くくらい、濡れている。もっと深いところに、早く欲しい。 「ん、ぅ、んん」 「うわ、なんか、エロ、」 猿轡をして、自分を戒めながら腰を動かすゾロを、サンジは目を細め見あげている。うるんだ視界でサンジを見つめた。もういい、はやく。声は出なかったが、サンジには伝わったようだった。 「そこ、握ったままで」 溶けるような甘ったるい声に、ゾロは、うなずくしかなかった。ようやく指が引き抜かれ、先端が、そこに押しつけられるのに、また腰が揺れてしまう。気持よくて、止まらない。サンジも濡れていて、ぬるぬると入り口にこすれる刺激だけで、軽い絶頂感が来た。すっかり水分を含んだ、布をきつく噛みしめる。 「ゾロ、そんなにしたら入らねえ、よ」 「ふっ、う、う」 勝手に動く腰を、サンジが両手で強く掴んだ。そのまま、圧迫を感じたかと思うと、ず、と入ってくる。すげえ、気持ち、いい。鼻にかかったような声に、ゾロは体をびくびくと跳ねさせた。握り込んだままの根本で、拍動を感じる。奥まで挿れてしまってから、ゆっくり、掻き回すように突きあげながら、下から伸ばした手でサンジは、ゾロの反らした胸の先をいじった。 もう片方の指で、腫れきった先端をなぶられて、涙が、こぼれる。 「手、離していいよ。俺も、もう」 指を離した瞬間に、射精した。もし猿轡をしていなかったら、大声をあげていただろう。サンジの腰の動きに合わせて、飛び散らせる性器が揺れて、白濁が周囲に飛び散った。 少し遅れて、サンジも、なかで達した。は、は、と短く息をつき、それから、ずるりと引き抜いて大の字になる。後ろから漏れる感覚に、ぞくぞくする。ゾロも噛んでいた衣服を外し、まだ整わない息のまま、その横にごろんと寝そべった。あーあ、とサンジが嘆息する。 「……恥ずかしいくれえ早かった……」 「まあ、ひさしぶりだからな、しかたねえだろ」 俺だってひでえもんだ。笑いながら言えば、首の下にサンジの腕が差し込まれて、ちゅ、と頭皮に唇が押しあてられるのがわかった。しばらく、そのままでいる。サンジの息づかいが、そこでだんだんと落ち着くのを感じてから、目だけでぼんやりと周囲を見渡して、また、笑いが込みあげた。 カーテンのかかっていない、窓の外には清涼な青空が見えて、さんさんと陽に照らされた床には、それには不似合いな、体液があちらこちらに散らばっている。まだ住んでもいないというのに、ひどい有りさまだろう。サンジも同じことを思ったらしく、顔を見れば苦笑いをしていた。 「なるべく、俺のうちでやらないとマズそうですね」 「だな」 「とりあえず、これはどうしよう」 床の汚れを指さして言う。もう後処理を考えているのに、ゾロはムッとした。てめえもう打ち止めか、と顎を掴んで唇を噛めば、もちろん、そうじゃねえけど、とサンジは笑った。 「なんか、あんたの誕生日なのに」 「だからだろ、アホ眉毛」 ごし、と眉毛の、巻いた場所をこすってやると、やめろよ!とサンジが声を荒げる。怒鳴られたというのに、気分がよかった。柔らかな毛の感触を、指先で感じながら、ふたたび、深く唇を重ねていく。 欲しいものなんて、お前の他にない、だから、あるだけ全部、寄越しやがれ。 (12.11.24) ←前編 12年ゾロ誕!おめでとうゾロ、愛してる!愛してるよ! かつ、暁さんからのリクエストでした。二年以上おまたせしてしまった… だいぶ前に書いた前二作を読んで、あーいまの私がこの二人を書いたらこうはならないな、続きを書いても違和感がでるな、と思い、これを機に手を入れ、かつ納得の行く続きを書けてよかったです。 |