■EPILOGUE







その後の話は全て瑣末事になる。



救命艇にて一命を取り留めたケロロ小隊の面々は、同じ病室にて顔を合わせた。
ひととき和やかに無事を喜びあったものの、気がつくと

『そもそも誰が着陸地点の計算をしたか』
『誰があんな場所にベースを作る事を提案したか』
『最初から機動兵器を出す事をどうして考えなかったのか』
『風土病が存在する惑星に出向く前に、どうしてワクチン接種などの注意義務を怠ったか』
『すぐに病気に負けるという事は日常からの鍛え方が足りないのではないか』
『これから戦場へ行って高揚すべき時に抑制剤などと、何故そういう無意味な気の遣い方をするのか』

等、反省会から詰り合いに発展し、果ては全員が掴み合いの喧嘩を始め、ようやく直った傷口を更に広げてしまうという、どうしようもない結果を招いていた。

「まったく、九死に一生を得た人達とは思えないわ」
これは救命艇にて彼等の看護にあたった、プルル看護士の言葉であった。
彼女は後に看護長としてガルル小隊へ引き抜かれる事になるが、それはまた別の話である。



ケロロ小隊が本国へ帰還してから少しだけ変わった事。

それは主に各員に人数分のフライングボードが支給された事と、軍事物資の次元転送についての研究が進められた事の二点であった。
もしそれらがあの場に存在したならば、状況はもう少しましな物になっていただろう。
また、宇宙船に搭載する精密機器、通信機器の見直しや、各隊へのケロボール携帯の
義務付け等、細かい改革への提案もあったようである。
流石にあの命令が選択肢次第でこんな惨澹たる結果を齎す事を、誰も想像できなかったという事であろう。
何でもない筈の任務でわざわざ死線を越える経験をし、奇蹟的な生還を果たしたケロロ小隊の評価は、上層部で更に分裂する事になる。


「御褒美のMake Loveつったろ?」
そう言ってクルルがギロロに渡したのは試作品の飛行ユニットであった。
「こういうのがあれば、あんたもゼロロ先輩も、あんな苦労する事ぁなかったんだよな」
これもすぐに実用化され、各員に行き渡る装備となるに違いない。


その後も星間テロは起こり続け、あの水の惑星で水没した組織はほんの末端であった事がわかった。
彼等に対して何か感傷があるかと聞かれれば、特にないとしか言えない。
しかしケロロ達は少なくとも、あの惑星の過酷な自然に、自分達と同様に立ち向かった事への敬意は感じていた。
その死を目の当たりにしたゼロロは、何年かに一度あの惑星を訪れ、水に没した彼等の死に場所に向かって花を投げる。
まるでよき好敵手を悼むように。


タママは帰還以降、ケロロに惜しみない敬意と愛情を注ぎ続けている。
あの遠征の殆どを病床で過ごした彼にとって、抑制剤がどうとかいう原因は殆ど問題にならない。
大切なのは神に命を救われたという結果である。

慕ってくる後輩や幼年組の子供達にのみならず、タママは誰彼問わずに「あの日の神々しい隊長」の話を広めて回った。
確かにタママだけではなく、あの日あの場所にいた者ならば皆一様に脅威を感じたであろう。
突如として大気中、そして濁流の水分を我が身に取込み、鋼鉄のような身体を得たケロロの姿。
更に水勢をものともせず、数メートル先に流されたタママの身体に追いつき、抱え上げ、あまつさえ飛翔して機動兵器のコクピットに着地した、超人的な身体能力。
あの日まで降り続いていた雨が、あの瞬間ぱったりと止み、割れた雲の間から光が射すのが見えた事も、タママにとっては嘘のように神がかった出来事であった。

タママはあの惑星で、自分の唯一神を手に入れた。
それは時が流れ、既に様々な事が失われては生まれた今にも至る。

そう、今もタママは敬意と愛情を込めて、あの日の彼をこう呼んでいた。

―――――『あの頃の軍曹さん』と。


そんな神々しいケロロ軍曹は、今日も緑の背中を無防備に晒し、飄々とマイペースで歩き続ける。
時々バナナの皮にわざと滑ったりしながら。





                          <終>