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お医者様でも草津の湯でもD …………
 裕太の腕を掴んだまま、ずんずんとすごい勢いで蓮川は歩き続けている。掴まれた腕が痛くて、裕太は文句を言おうと蓮川の顔をちらりと見上げ、その表情が酷く険しい事に気がついて、口をつぐんだ。とても、軽口や文句を言えるような雰囲気ではない。
 一体全体、何に怒っているのかはわからないが、とにかく、蓮川は怒っている。
 大通りまで引っ張られていき、そこで捕まえたタクシーの中に強引に押しやられる。一緒に乗り込んだ蓮川が機嫌の悪い声で、自分のマンションの住所を告げ、タクシーはそのまま走り出してしまった。
「あの・・・俺・・・自分のアパートに帰る・・・・」
 控えめにそう告げてみても、ジロリと一瞥されただけで、蓮川は全く取り合わない。居心地の悪さを感じながらも裕太は蓮川の剣幕に押されて、しょぼんと黙り込んでしまった。
 一体、何を怒っているのだろうか。
 蓮川が別の人間と浮気をするのがイヤだ、と言っていた事を聞かれてしまったらしいので、その事について怒っているのかもしれない。鬱陶しい奴だと思われていたらどうしよう、と、裕太は見当違いの不安に身を小さくする。
 座りの悪さを誤魔化すように窓の外を眺めれば、色とりどりのネオンや、週末を楽しむ人々の群れが見えた。何となく、その光景と自分の置かれた状況のギャップが寂しく思えて、裕太は涙腺が緩みかける。必死に涙を堪えはしたが、本当に、蓮川といると情緒不安定になってしまって困った。
 二人が黙り込んでいる間も、タクシーは目的地に向かって走り続ける。このまま、マンションに着かなければ良いという裕太の願いも虚しく、あっさりと、1時間足らずでタクシーは到着してしまった。
 そのまま、タクシーから引き摺り下ろされ、結局、裕太は蓮川のマンションに連れ込まれてしまう。強引に裕太の腕を引いている間も、部屋についてからも、蓮川は黙ったままで、裕太は逃げ出したくて仕方が無かった。



 ガチャンと音を立てて、ガラスのテーブルの上に鍵を放り投げ、ジャケットもソファの上に投げ捨て、蓮川は部屋の入り口辺りに立ち尽くしている裕太を振り返った。
 裕太の目を真っ直ぐに見つめてくる目は、やはりどこか不機嫌そうで、裕太は体を竦ませる。
「で?」
「え?」
「何か言う事あるだろ?」
 ぶきらぼうな口調で尋ねられ、裕太は戸惑ってしまう。別に、蓮川に言う事など何も思いつかない。蓮川が自分に何を言わせたいのか見当もつかずに、うろうろと視線を泳がせ、コートの裾を所在無げに握り締めた。
「・・・べ、別に、言う事なんて無いけど・・・」
 ぼそぼそと裕太が言えば、蓮川は大袈裟な溜息を突いて、ドサリとソファに腰を下ろした。
「また、それかよ。いい加減、学習しろよ」
 責める様に言われても、やはり裕太には分からない。
「・・・あの・・ゴメン。俺、別に、蓮川が誰と何しても口出したりしないし」
 とりあえず、鬱陶しがられては困ると思って裕太は言ったのだが、蓮川は益々怒ったような顔でガンっとテーブルを蹴りつけた。
「・・・楠田とヤったのか?」
 地を這うような声で尋ねられ、裕太は竦み上がる。なぜ、そんなことで自分が責められなくてはならないのかと思いつつも、馬鹿正直に、
「ヤってない・・・キスしただけ・・・」
と、答えてしまう。蓮川はダンと足を踏み鳴らして勢いよくソファから立ち上がると、裕太の腕をガッと掴んで強引に引っ張りベッドのところまで連れて行く。その勢いのまま裕太をベッドの上に放り投げると、上から押さえつけ、顎を強く掴んだ。
 裕太が驚く暇もないくらいに、素早く唇が重ねられる。いつもは、どこか余裕があるような蓮川らしくない、切羽詰ったキスだった。
 噛み付くようなキスに裕太はもがいたが、上から上手に押さえ込まれているせいで大した効果はない。口腔内に入り込んだ舌は、少しだけザラついていて、煙草の苦味がした。煙草の味は嫌いなはずなのに、蓮川の舌から伝わる時だけは、何故だか嫌悪感を感じない。
 結局、抵抗したのは最初だけで、仕舞にはいつもの通り、蓮川の背中に手を回してしがみつき、うっとりと目を閉じてしまっていた。
 どれ位そうやって、濃厚なキスを続けていたのかは分からないが、唇が離れた時には裕太の頭はぼうっとしていた。すぐ真上から、蓮川の整った顔が見下ろしている。目元の泣きボクロは、ベッドの上ではどうしようもなく艶っぽく見えて、裕太は背筋に痺れのようなものが走るのを感じた。
「言えよ」
「え?」
「お前は、俺が好きなんだろう?」
 不意に真顔で尋ねられ、裕太は絶句する。他の人間がこんな台詞を言ったのなら、大勘違い野郎と笑い飛ばしてやれただろうが、こんな時でさえ蓮川は様になって、悔しいと思いながらも裕太はその顔に見とれてしまった。
 けれども、蓮川に素直に自分の気持ちを吐露する気にはとてもなれない。簡単にスキだと告げることが悔しいという意地のようなものが少しと、スキだなどと言って鬱陶しがられたり、拒絶されるのが怖い、という大きな不安があったからだ。
 黙り込んでじっと蓮川の顔を見上げていると、蓮川はらしくもなく動揺したように眉を寄せ、
「クソッ」
と汚い言葉を吐き出した。
「言えよ、裕太。俺がスキだって」
 まるで、懇願するように言い募る蓮川に裕太は酷く驚いて、目を大きく見開いてしまう。まじまじと蓮川の顔を見上げると、バツが悪そうに目を逸らされた。
「アチコチにフラフラしやがって。危なっかしくて目が離せないんだよ、お前は。ちょっとは俺の気持ちも考えろよ」
 目を逸らしたまま蓮川は呟いたけれど、やはり、裕太にはその言葉が俄かには信じられなかった。一体、この男は何を言い出したのだろうと首を傾げる。気は確かだろうかとぼんやりとその整った顔を見詰め続けていると、コートを脱がされ、上着を剥がれ、シャツのボタンを一つずつ外されてしまった。
「・・・蓮川の気持ちなんて知らない。俺のこと、便利なセフレとしか思ってないんだろ? 何で、俺にだけスキだって言えなんて、そんな酷い事言うんだ」
 眦から頬に。耳の裏から首筋、鎖骨、胸元と降りていく唇を心地よく感じながらも、どこかで頭が冴えている。没頭できないのは、急に妙な事を言い出した蓮川が不安だったからだ。
 裕太に好きだといわせて、一体、どうするつもりなのか。そんな事を言い出す奴は鬱陶しい、ウザいから、もうお前とは寝ない、とでも言いたいのか。
 そう考えたら、涙がだんだんと溜まってきてしまう。こんな時でも、捨てられるのが怖いと思っている自分が情けなかった。それでも、スキだという気持ちはどうにもならない。もっと楽な相手は沢山いるだろうにと自分でも分かっているのに止められない。
「・・・ユウタ?」
 不意に愛撫の手を止めて、蓮川が訝しげに顔を上げる。零れてしまう涙を見られるのがイヤで、裕太は両手で顔を覆って必死にそれを隠した。
「スキだって言わせてどうするんだ。面倒くさいから、もういらないっていう気?」
 もう、隠す事など出来ないほど声は泣き声だし、しゃくり上げてしまう。蓮川はそんな裕太の様子を驚いたように見詰めている。呆然としたように、そのまま暫く見詰め続けて、それから、不意に、グシャグシャと乱暴に自分の髪の毛をかき回した。
「お前、それ反則」
 心底参ったといった口調で蓮川が呟き、裕太は無意識に身を竦めた。確かにこんな場面で泣き出すのは自分でも卑怯だし、みっともないと思う。けれども、溢れてくる涙を止めることは出来なかった。
「何で、スキだって言うと俺がお前を捨てるんだよ。その発想がわかんねえよ」
 宥めるような、少しだけ優しくなった口調で蓮川は尋ねる。先へ進もうとしていた手は止まっていて、裕太の髪をやんわりと梳いていた。
「だ・・・って。お前が俺のことセフレって言ったんだろっ!? 好きなんて言ったら鬱陶しがるだろっ!?」
 半ばヤケクソの気分で裕太が叫べば、蓮川は大仰な溜息を深々と吐いた。
「・・・だから、その発想が分からないつってんだよ。てか、お前、鈍感すぎ」
「な・・・なんで俺が鈍感なんだよ・・・」
 訳の分からない事で貶されて、思わず裕太は顔から手を離してしまう。泣き腫らした目で蓮川を睨み上げれば、蓮川は少しだけ困ったように眉を寄せた。
「言わなくても、俺の気持ちくらい分かれっての」
「はあ? お前なんか、いっつもポーカーフェイスで何考えてるかちっともわかんねえ。分かるわけねえじゃん!」
 逆切れするように裕太が言い返せば、蓮川は疲れたようにドサリと裕太の上に突っ伏した。
「てか、純粋に聞きたいんだけど、お前、俺が浮気してるとか思ってるワケ? 本気で?」
「思ってるに決まってんだろ? 何馬鹿なこと聞いてんだよ。この際だから言うけどな、お前サイッテー! 下半身のしまり悪すぎんだよ!」
 もしかしたら、これで蓮川との関係が終わってしまうかもしれない、と、裕太は捨て鉢な気持ちになっていた。ダメになるんだったら、嫌われようが鬱陶しがられようが知ったこっちゃない。言いたい事を言ってやらなければ損だとばかりに捲くし立てる。
「大体、俺と一緒にいても他の女とベッタベッタしやがって! ふざけんなよ!」
 思い出しているうちに腹が立ってきたのか、裕太は鼻息も荒く蓮川を責め立てはじめる。裕太の剣幕に、蓮川は最初呆然とした表情をみせたが、段々と目が据わり始めた。しかし、興奮してしまっている裕太は、そんな蓮川の様子に気がつけない。どんどん墓穴を掘っているのだという事も分からず、更に深々と穴を掘り続ける。
「お前だって好き勝手してんだから、俺が誰と寝ようが文句言う資格なんて無いんだよ! 分かったか!」
 勢い込んで裕太が言うと、蓮川は体を起こし完全に据わった目で裕太を見下ろした。
「・・・・分かった」
 そう言いながら、ガッと裕太の両肩を上から押さえつける。
「俺が悪かった。間違っていた。俺はお前が好きだ。愛している」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ?」
「だが、お前には俺の気持ちが伝わっていなかったんだな。仕方ない。分かるまで、その体に言い聞かせる事にする」
 全くの無表情で蓮川は非常に手際良く、しかも素早く裕太の服を全て剥ぎ取ると、ワケも分からず目を白黒している裕太に襲い掛かった。図らずも、裕太は「後悔先に立たず」「口は災いの元」という言葉を身を持って知ることになった。















「・・・ッ! ヤッ! ヒッ・・・イイッ!」
 ひっきりなしに嬌声が口から漏れる。いつもなら、そんな甘ったるい声を上げるのが恥ずかしくてある程度は抑えるように我慢するのだが、とても、今の裕太にはそんな余裕が無い。
 右手を後ろに捻り上げられたまま、シーツに押し付けられ、後ろからガツガツと突き上げられている。しかも、わざと敏感な場所ばかりを狙って突いて来るので、裕太はずっとイきっぱなしのような状態だ。
 そもそも、突っ込まれる前に立て続けに二回イかされているのだ。いつもは、最初にイきすぎると後がつらいと分かっているので、蓮川は決して入れる前に無駄に裕太をイかせない。が、今回ばかりは違った。
「もう・・・もう、ヤダッ! アアッ! ダメッ! ヒッ!」
 もう半泣きの状態で必死に顔だけ振り返っても、蓮川は面白そうに笑うだけだ。
「何で? 気持ちイイんだろ? 勃ちっぱなしだよ。もう、何回イったか分かんないな」
 そう言いながら、グイと最奥まで突っ込み、一旦動きを止めて項の辺りをねっとりと舐める。項は裕太が弱い場所の一つだ。
「ッ・・・スゲ・・・キュウって締まったぜ? お前の中、ホント堪んないな」
 事実だったが、こんな時に耳元で囁かれるとどうしようもない。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、裕太は一生懸命首を振る。パサパサと裕太の髪がシーツを叩く乾いた音がして、蓮川は目を細めてその泣き顔を眺めた。
「こんな位じゃ、まだ分からないよな?」
「も・・・もう分かったっ・・・分かったからっ・・・ヤァッ!」
 懇願するように訴えられても蓮川は聞き入れない。動きを再開するともう一度、その場所ばかりを狙って突き上げる。刺激されすぎて痛みと快感が半分と言う状態だったが、それでも、前の方はダラダラと雫をこぼしていて、やめろという訴えも説得力が無い。
「大体、お前が何ぐらい俺のこと酷い人間だと思ってるか知らないけどな、俺は基本的には付き合ってる人間がいる間は絶対に他の奴とは寝ないってポリシーなんだよ。人の誠実を何だと思ってるんだ」
 苛々した口調で言われても、意識が朦朧とし始めている裕太には半分もその言葉の意味が入ってこない。過ぎた快感は苦痛に近くなると、これまでの蓮川とのセックスで分かっていても、今与えられているのはそんな生易しいものとはまるで程度が違った。
「もうっ! もうっ! ヤダッ! ヒッ! ・・・・イィッ!」
 喘ぎと悲鳴が入り混じった声を上げているのに蓮川の動きは止まらない。まるで、裕太の限界を試そうとでもしているかのように、ただ、ひたすら後ろから弱い場所を攻め立て、前を微妙な感覚で扱き始める。
「アアッ! ヤダッ! ダメッ! 前っ・・前・・触んないで・・・」
「何で? 気持ちイイだろ?」
「ヤダァッ!」
 口では嫌がりながら、裕太の腰は無意識にゆらゆらと揺れている。覚えのある快感には逆らえず、本能的にそうしてしまうのだ。
「もう、面倒くさい駆け引きなんか止めるからな。ったく」
 背後ではき捨てられるように蓮川に言われた言葉なんて、もう、裕太には意味が分からない。口の端からは飲みきれない唾液をだらだらとこぼして、後ろから突っ込まれて腰を揺らしている。まるで犬みたいで馬鹿馬鹿しいと思いながらも、痛みを忘れて気持ち良さに没頭しようとする自分を止められない。
「俺は案外独占欲が強い心の狭い男なんだよ。今度、あんな舐めた真似したら、こんなもんじゃ済まないからな」
 目の奥がチカチカする。もう、正常な理性など保っている事が出来ずに、裕太はただひたすら蓮川の言葉に頷き続けた。
「俺はお前が好きなんだよ。他の男と遊んでると面白くないから遊ぶんじゃない。良いな?」
 何だか、どこかで聞いたことのある言葉だと朦朧としている頭の端で考えたが、目の前が本格的にハレーションを起こし始めて、裕太はそれどころではなかった。



 その夜、裕太は初めて「快感のあまり気を失う」という、あまりり人に言えた事ではない経験をしてしまったのだった。









* * *








「で? 結局、元鞘ってワケ?」
 研究室に昼下がりに顔を出すなり、イチコに面白く無さそうな顔で言われた。非常に天気の良い冬の午後ではあるが、裕太には太陽が黄色い。腰もだるく痛んで、歩き方もおかしい。
 裕太をそんな風にした張本人は裕太の後ろに背後霊よろしくどーんと立ったままイチコを睨みつけていた。
「そもそも最初から何にも無かったんだよ。元鞘もへったくれもあるか」
「なーによ。相変わらず態度でかいんだから。で? 裕太は足腰立たないほど昨晩ヤられちゃったのね?」
「ち・・・ちがっ」
「そうだよ。俺が一晩中可愛がってやったんだ。文句あるか」
 裕太が否定しようとした脇から、蓮川があっさりと肯定してしまい、裕太は耳まで真っ赤になってしまう。
「コイツは俺のもんなんだから、イチコも横から余計なちょっかい出すなよ」
 そのまま、言い切った蓮川に裕太はさらに真っ赤になる。イチコは、驚いて目も口もあんぐりと開けたまま暫くの間、蓮川をじっと眺めていたが。
「・・・アンタ、キャラ違ってない?」
 世にも奇妙なものでも見たかのように、恐る恐る蓮川に尋ねる。
「煩い。コイツがあんまり鈍感だから、回りくどい事すると余計ややこしいことになるって悟ったんだよ。俺は」
「・・・はあ。そうですか・・・」
 呆気に取られたままイチコはそう相槌を打って、何とは無しに裕太の方に視線を移す。裕太は顔を赤くしたまま、イチコと同じように驚いた顔で蓮川を見上げていた。そんな裕太を見ていると、たった今、釘を刺されたばかりだというのに、イチコの悪戯心はムズムズと刺激されてしまう。よせば良いのに、
「だからってねえ・・・そんなに目が腫れるほど泣かすこと無いのにねえ? しかもユウタ、腰がガクガクじゃないの。何回ヤられたワケ?」
と、ニヤニヤ笑いながら尋ねてしまう。その上、裕太がその言葉に過敏に反応して顔を真っ赤にして絶句したりするものだから、この遊びはやめられないわと思ってしまった。

「そう言えば、ユウタ、アンタ、アタシとの賭けに負けたのよね? 何でも言うこと一個聞くって約束だったけど?」
「何だよ、ユウタ、そんな約束してたのか?」
「してないっ! イチコが勝手に・・・」
「あら? 約束破るのは良くないわよ? 小学生でも知ってるでしょ? 別に無理難題なんてふっかけないわよ。簡単なこと」
 そう言ってイチコはニンマリと笑って一旦蓮川に目をやり、それから裕太に視線を移した。蓮川は訝しげな表情をしている。裕太は馬鹿みたいにアワアワと慌てていた。



「・・・ヤってるとこ見せてよ」
「・・・・・・ハァ?」
 ニヤニヤ笑ったままイチコが言えば、二人声を揃えて眉を寄せた。



「だっからー。二人がエッチしてる所見せてって言ってるの。それで良いわ。賭けはチャラ」



 とんでもない事を言い出したイチコに、裕太の血の気はサーッと失せる。顔を真っ青にして、助けを求めるように蓮川を見上げれば。
「・・・そうだな。コイツのお仕置きもまだだしな。俺は別に構わないぜ」
と、いともあっさりと了解してしまう。
 昨日のアレはお仕置きじゃなかったのか、昨日より酷いことをされたら死んでしまう、いや、それ以前にイチコの前でセックスするなんて冗談じゃないと、裕太は気を失いかける。ちょっと待ってくれと言おうと口を開いても、パクパクと空気が漏れるだけで、余りの状況に言葉が出てこない。

「そうねえ? いつが良いかしら?」
「今週末は?」
「ああ、空いてるわよ」
 目の前で交わされている悪夢のような会話を聞きながら裕太は気が遠くなるのを感じる。
 この二人に関わっている限り、自分は受難から逃れる事が出来ないのだと今更のように理解したが。
 残念ながら、無力で非力な裕太にはそこから逃れる術などありはしない。









 なお、裕太が本当にイチコの前で蓮川にヤられたのかどうかは、三人だけの秘密だ。







--- end.



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