本当は正面から、感じている顔をじっくり眺めてやりたかったんだけど
あまりに悲痛なクリフトの表情を見ていたら、それはあまりに酷いかもしれないと思わざるをえなかった。
そういや聖職者ってのはどうも、「戒律」とかいう厄介なものがあるらしい。
神に仕える身である以上、色事は禁じられているんですよ。いつかクリフトがそう言っていたのを思い出した。
生真面目で信心深いクリフトはきっと、神様の教えを忠実に守っているんだろう。
年齢的には僕より上だけど、雰囲気からしてこういったことには相当疎そうだ。
「大丈夫だよ、見ないから。後ろからするよ」
背後に回りそう言うと、クリフトは消えそうな声で「はい」とだけ答えた。
「…ひ…っ」
肌蹴させた胸元に手を滑らせると、それだけで息を詰めてしまう。
左胸に宛てた掌に、どくどくと激しく脈を打っている心臓の鼓動が伝わってきた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だって。別に痛いことするわけじゃないし」
「…殴ってくださったほうが幾分かマシです」
泣き出すんじゃないかと思うくらい弱々しい声でそんなことを言う。
正直なところ少し傷ついた。…そんなに嫌なのか、僕に触られるのが。
「ふーん。…でもそんなの聞いてたら罰にならないしなぁ」
「…! …くっ、…ふ…」
言葉が途切れた。胸に触れて撫で回すと、無言で身を震わせる。
これが「罰」だってことは理解してるんだろうか、抵抗は一切ないけれど、その代わり声も全く漏らさない。
まるで苦痛に耐えるように声を殺し続けている。
……おもしろくないなぁ。
顔も見えない今、何とか声を上げさせたくて、上半身を何度も撫で回した。
そしてベルトを外し、手が差し入れられる程度にズボンを緩める。
「…く…ぁっ」
下着の上から何度か揉んでやると、殺していた声がようやく解放されて僕の耳に届いた。
足元がふらつくのか、壁に手をついた体勢で、何とか立っていようとしているみたいだ。
それでも決して逃げようとしないところは、クリフトらしいというか、何というか。
僕は下着の中に手を滑り込ませ、今度はそれを直に握った。
「ん…! …くぅ…っ」
まだ萎えたままの性器を、緩急をつけて何度か扱いてやると、嫌がるクリフトとは裏腹に、それは次第に頭をもたげ始めた。
男の身体ってのはこんなに単純なんだと変な感心をしながら、自分のしていることに感じてくれているのが嬉しくて、幾度も幾度も指を滑らせる。
堪えていたはずの声は身体と一緒に熱を帯び始め、荒く吐く息の中に混じり始めた。
「あっ、ぅ、ユ…ユーリル、…さんっ」
熱を帯びた声で名前を呼ばれ、自分自身の理性が飛びそうになる。
いつの間にか僕の手はぬるぬるとした液体に濡れていて、クリフトの身体も震え始めていた。
やめてください、と無駄なことを言う声を無視して性器を弄り続けると、喉を逸らせて苦しげに喘いだ。
「…イっちゃっていいよ、クリフト」
その言葉にクリフトは弱々しく首を横に振った。絶対に嫌だ、と言わんばかりの意思表示。
それが面白くなくて、硬く立ち上がった性器を一際強く扱きあげると、突然びくんとクリフトの身体が跳ねた。そして手の中に、どくどくと熱い液体が流れ出す。
「…は…っ、……あぁ…」
白く濁ったものを吐き出してしまうと、クリフトはまるで全身の力を奪われたみたいに、床に崩れ落ちてしまった。
床に手をついて、何度も荒い呼吸を繰り返すだけのクリフトの頭を汚れていないほうの手で撫でると、僕はわざと明るい声で言った。
「はい、おしまい!よく頑張りました」


しばらくして、僕とクリフトはお互いのベッドにもぐりこんだ。
ズルイや、クリフトは。自分だけスッキリしちゃってさ。
本当はあのまま…あのままクリフトの中に入ることができたらって、そんなことすら思った。
…だけどそれはしばらくはおあずけ。
いつか、もしクリフトが僕のことを好きになってくれる日が来たら、そのときは……今度こそ、こんな中途半端な行為じゃなくて、ちゃんとクリフトを抱きたい。
心が伴ってないのに最後までするってのは、やっぱりちょっと躊躇うもんな。きちんと僕のこと、好きになってもらわないと。
…そんな綺麗なことを思ってはみたものの、やっぱり身体はまだ火照ってて、正直苦しい。中途半端な行為に、身体だけが疼いて止まらない。
だけど今、ここでその火照りを鎮めることもできない。クリフトが寝静まるまで待つしかなかった。

……それにしても。
ちょっとは気づいてくれたんだろうか、この神官さまは。僕の気持ちに。
だってさ、身体に触れたんだ。抱くまではいかなくても、こんな性的な触れ方をしたんだ。
いくら罰だって言っても、少しはおかしいと思うもんだと思わない?
少なくとも僕は、そう思ってくれるのを期待してなかったわけじゃないんだ。


「……あの、…ユーリルさん」

うわっ、びっくりした。落ち着け落ち着け。
「起きてるよ、どうしたの?」
「…ありがとうございました」
「は?」
「さっき改めてわかったんです。あなたからああいう風に罰を受けて……苦痛に耐えるのが、どれくらい辛いかということが」

……はい?

「これで明日からもっとみなさんの様子に気を配ることができるような気がします。
 みなさんに辛い思いをさせたくはないですから。
 ……あ、でもすみません。私のために、お手を煩わせてしまって」

いやいや待て待て待て。

「やはりユーリルさんはすごいです。いつもパーティーの皆さんのことを考えているんですね。
 私もこれからは見習うようにしますね。……おやすみなさい」


…ダメだ。
やっぱこの鈍感神官様に期待した僕が間違いだったよ…。
苦痛、か。やっぱりそんなふうにしか受け取られてないんだ。
ありがとうだなんて言葉もらったって嬉しくもなんともないのに。
そんな言葉いらないのに。


やっぱりまだまだ先は長そうだ。
というか、僕に希望はあるのか?本当に彼を振り向かせることなんてできるんだろうか。
憂鬱な心とは裏腹に、まだ静まってくれない熱い身体を抑えながら、僕は一つ溜息をついた。

←Back


勇クリとして書いたSSとしては、2つ目に古いものです。
かなり昔に書いたものを、結構加筆修正してあります。
どこかズレてる天然神官と、悪戯が過ぎるやんちゃっ子勇者、といったイメージで。
改訂版掲載  2007/11/21