「あれ、クリフト……何やってんの?」
クリフトが自分の手袋を、何度も繕いながら使っていることに気づいたのは、ある日の夜のことだった。



ただ、それだけだったんだ
注:性的描写及び強引な表現が含まれます。18歳以下の方、及び苦手な方にはお勧めできません)



その日クリフトの部屋に入って一番に目に入ったのは、ベッドに腰掛けて黙々と何かを進める彼の姿だった。
よっぽどそれに集中してたのか、かけた声に気がつく様子も全くない。
仕方なくしばらくその様子を見つめていたけれど、それでも気付かないクリフトに半分呆れながら溜息をつくと、今度は少し声を大きくして話しかけた。
「……クリフト?それ、手袋縫ってるの?」
「………え…、あ、ユーリルさん」
…また全然気付いてなかったんだ。
クリフトの癖。 癖というか何と言うか、いつも何かに集中してると周りの音が聴こえなくなる。
右手に針、それから擦れてところどころ破れた手袋。やっぱりこれを修理してたんだ。
「ねぇ、ちょっとそれ見せて」
戦闘中、多分剣を握る手を保護するために、クリフトが手袋をしていたのは大分前から知っていたけれど、近くでよく見てみると、それはあちこちに繕った跡があった。
「…うわ、よく見たらもうボロボロじゃないか、この手袋。新しいの買ったら?」
手先の器用なクリフトがやっただけあって、縫い目はまじまじ眺めてみないとわからないくらい細かいものだった。
それでも相当年季の入ったものだってことは、僕の目でも十分わかった。
何もこんなボロボロになってまで使うことないのに。 もっと丈夫で、もっと使いやすい手袋すればいいのに。
…そうだ。クリフトのことだから、もしかしたら……自分の物のためにお金使うのがもったいないとか思って我慢してる、ってこともあり得るかもしれない。
「お気遣いありがとうございます、ユーリルさん。でもこれは気に入ってるんですよ」
「本当に?」
「ええ。それに、お金を無駄にするわけにもいきませんから」
「……ふーん、そっか。 わかった。じゃ、ここにいても邪魔だろうし、僕も今日は疲れたし、もう部屋帰って寝るから」
「……え……そうですか?」
「うん。それじゃあおやすみ、クリフト。また明日ね!」
それだけ言い残すと、僕は足早に自分の部屋に戻った。


……あの手袋。
かけた声にも、僕が部屋に入ってきたことにも気付かないくらい一生懸命にならないと、もう修復するのも難しいくらいなのかもしれない。
気に入ってる、って言ってたけど、でもやっぱりお金のことも気にしてたみたいだったし。
「……結構貯まってたよな、これ……」
部屋に戻るとすぐ、ポケットの中に入れてあった小さい袋を引っ張り出して、紐を解いて中身をベッドの上に広げた。
金属がぶつかる音と共に、目の前に金色に光る小さなコインが散らばる。
僕たちは旅の資金とは別に、それぞれが少しずつお金を持つことにしている。言ってみれば小遣い、みたいなものだ。
散らばった貨幣の数を数えてから、もう一度それを袋にしまう。
……これだけあればきっと、手袋一組くらいは買えるはずだ。

「……本当は欲しいものあったんだけど……ま、いっか」
これでこっそり手袋を買ってプレゼントしたら、クリフトはどんな顔するだろう。
喜んでくれるかな。
ありがとうございます、って笑ってくれるかな。
手の大きさも、クリフトの好きそうな色や形も、いつも見てるから全部知ってる。
あとは…戦闘中のことを考えたらやっぱり機能性かな。
「……明日、いろいろ見に行ってみよっと」
袋の紐を締めてベッドに潜り込んでも、いろいろなことが浮かんできてひとりでに笑いがこみ上げてくる。
どんな物を買ったらクリフトは喜んでくれるだろう。どんな顔をしてくれるだろう。
そんなことをひとり考えながら、その夜はなかなか寝つけなかった。


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