「…イっちゃった?」
耳元に吹きかけられる声が朦朧とした意識を引き戻す。
答えるのも億劫で、背後から覗き込んでくるユーリルさんの顔を黙って見つめた。声程は余裕のない、でも嬉しそうな表情。
……いつもの、あの顔だ。
頬を撫でられ、吐き出したはずの熱が身体の奥に再び灯る。背に硬いものが触れていることに、意識せず吐息が零れた。
彼の頬に触れようと手を伸ばしたが、それはびくりと震えて空を掻いた。
「あ…ッ」
果てたはずの自身に、指が触れる感触。
見れば正面のユーリルさんが、白濁を吐き出したばかりのそれに触れていた。
「だ、ダメです…ッ!今、…イったばかり、なのにっ」
懇願した声は悲鳴のようになってしまっているのに、ユーリルさんは一瞬顔を上げただけで、聞き入れる様子はない。
それどころか吐き出された白濁と、硬さを失ったそれとを不思議そうに眺め、萎えてしまったものを弄り始めた。
「…い、やだっ、嫌…!やめ……あぁっ」
果てたばかりのそこが、再び熱を取り戻し始める。
それを弄る目の前のユーリルさんは、背後の彼とは対照的に無表情。
何もわかっていない子どものような表情は、この場にはあまりに似つかわしくない。
吐き出した白濁を指先に絡め、一度萎えたものが自分の指が触れるたびに硬くなる様を見て、不思議そうな顔で私を見ている。
いたいけな子どもに性行為を見られているような後ろめたさと恥ずかしさとを感じ、身体が更に熱を持った。
「……っ」
耐え難い羞恥に思わず逃げ出そうとしたとき、急に身体が持ち上がった。
ユーリルさんは私を抱えて大きな岩の上に腰掛けると、私を膝に座らせ、足を開くようにと耳打ちした。
わけがわからないままそれに従うと、突然左足を抱え上げられ、強引に秘所を曝け出させられた。
必然的に、勃ちあがりかけた性器と、まだ固く閉じたままの入り口とが彼の目の前に晒される。
「…ッ!…い、嫌だ…」
「嫌?どうして。こいつにも見せてやらないと。…クリフトが今どれくらい感じてるのか」
一気に顔が熱くなった。偽物への対抗意識だろうか。彼はマネマネに見せ付けるように、指で入り口を広げた。
「…や…っ、ユーリル、さんっ…!」
「……ほら、ここ。ひくついてる。気持ちいいんだろ?それとも、早く入れてくれってことかな」
「…あ、……あぁ…」
マネマネは私の足元に座り込んだ。そして、ユーリルさんの指先がなぞる入り口をじっと見つめる。
あまりの羞恥に身体が震えた。だがユーリルさんは容赦なく、さっき私が舐めていた指で精液を拭うと、入り口を突付いた。
「力抜いて」
もう一人のユーリルさんの目の前で、指先を少しずつ沈めていく。
先端がほんの少し入ったところで、彼は指を止めた。解放してほしくて身を捩ったが、彼は左足をしっかりと抱え上げて離さない。
食い入るように見ているもう一人のユーリルさんに見せ付けるように指を回した。
「……ほら、入るだろ。…こうやって少しずつ解すんだ。少しずつ」
「あぁ……あっ…、は、ぁぁ…」
目の前でマネマネに見られながら、ゆっくりと蕾に指を挿入される。
…見られてる。全部、これを。
こんな酷い格好で、こんなに感じさせられている様を…よりにもよって目の前にいる「彼」に。
彼はじっと、食い入るようにその様子を見ている。指が中に沈んでいく様を、そして、身悶える私の表情を。
正面から見つめる「彼」の頬まで紅潮しているように見えるのは、私の頭が朦朧としているせいか。
背後から入り口を解すユーリルさんの呼吸音が、自分の吐息と混じって耳に届く。
「あ、あぁっ!」
ある程度まで指が入ると、ずぷりと、全てを中に埋め込まれた。
ユーリルさんはまるで確かめるように、指で内側をぐいぐいと押しながら中を開いていく。
いつもこの感触だけで身震いがするのに、正面にいるもう一人の彼の視線にも犯される。
再び勃ちあがった性器を弄られ、抱えられた身体はびくびくと何度も跳ねた。
「う、ぁ…っ!くっ、…ふ…」
嬌声を殺すことができなくなり、思わず自分の手を噛んだ。
中で蠢く指が、くちくちと音を立てて内壁を押し広げていく。
弱いところを知り尽くしている彼の指は、何度も何度もそこを突いた。
もう一人のユーリルさんに弄られている濡れた性器は、指を滑らせる度に水音を立てる。
二つの手に追い上げられ、また絶頂を迎えると思った瞬間。
「ん!んっ、…ん…っ…」
執拗に中を攻め立てていた指が、突然引き抜かれた。
それまで感じていた快楽が消えてしまい、無意識に腰が揺れる。
…あと少し、もう少しだったのに。
「…ユ、…ユーリルさ…っ」
手を口元から外し、ほとんど吐息でしかない声で彼の名を呼んだ。
背後から覗き込んでくる彼の髪に指を絡め、もう一度その名を紡ぐ。
彼はそれを見て微笑みを浮かべると、耳元にキスを落としながら名前を呼んでくれた。
「ダメだよ、まだイっちゃ。…もっとよくしてあげるから」
そう言うと優しく髪を撫で、耳朶を甘噛みした。
目を閉じ、全身を震わせ、彼の愛撫を受け止める。
解された入り口に、突然硬いものが押し付けられた。熱を持った、よく知り尽くしたあの感触。
思わず吐息が漏れたが、次の瞬間には驚きに目を見開いた。
「…え…っ?」
解された入り口に自分のものを押し付けていたのは、もう一人の「彼」のほう。
彼は慣れない手つきで自分のものを掴み、曝け出されたままの私の入り口にそれを宛がっていた。
先端を押し付けたまま円を描くように擦り付けられる。それはさっきユーリルさんが指でして見せた行為によく似ていた。
感情はないけれど、本能はある。
…魔物といえど、さっきからこれだけの性行為を目の前で見せ付けられたんだ。昂ぶってしまったとしてもおかしくはない。
性器を入り口に擦り付けると、彼の顔に恍惚とした表情が浮かぶ。身体の疼きを止める方法を見つけたせいか、その顔が明るくなった。
ぐっ、と力が込められ、先端が入りかける。
「…ひっ…」
思わず漏れた小さな悲鳴。そこでようやく気がついたのか、背後から声がした。
「…えっ、あッ!何やってんだ、お前!」
事態に気づいたユーリルさんは慌ててマネマネを振り払い、怒鳴った。
「そこはダメだ、そこだけは触るな!」
止められてしまったユーリルさんは、息を荒げながら苦しげな表情を浮かべている。やり場のない熱を何とか堪えているようだった。
どうしたらいいのかわからないような顔で、無言でユーリルさんを見つめる、もう一人のユーリルさん。
頬は赤く染まり、荒い呼吸を繰り返している。
身体の熱を鎮める術を他に知らず、それでも疼く場所がどこかはわかっているようで、両手で懸命にそこを押さえながら救いを求めているように見えた。
苦しそうなもう一人の自分の様子に、ユーリルさんは突然思いついたように言った。
「…ッ、お前はこっちだ!」
そう言って、彼が指差したのは私の口元。
…この人は、一体何を言っているんだろうか。
私は息を乱したまま、二人の「彼」のやりとりをただぼんやりと見つめていた。