「…ユーリルさ…っ、や、…やめ、…んっ」
頬に触れる掌と、執拗に口腔を撫でる舌。
偽物はユーリルさんに命じられた通り、私へのキスを続けた。
逃げたいと思うならそうすればいいのに。…背後から聞こえた彼の声は、笑い声交じりなのに冷たい。
逃げたい?…そう、逃げたい。そう思っているはずなのに、逃げられないのはどうしてなんだろう。
「クリフトはキス、好きだもんな。…だからって僕以外の奴とキスして腰砕けになるとは思わなかったけど」
背後から伸びた手が、金属音を立てて器用にベルトを外す。
「だからさぁ……悔しいだろ、それ以上に感じさせてやらないと」
負けず嫌いの彼の、怒りの込められた声。
…彼は恐らくここで私を抱くつもりなんだろう。
信じたくなかったが、躊躇いなく衣服を剥がそうとするユーリルさんを見て、予感は確信に変わった。
それもどうやらこのマネマネまで巻き込むつもりでいるらしい。
「い、…嫌、だ…っ、ユーリルさん……んっ!」
二人に挟まれた格好で身動きがとれないのをいいことに、ユーリルさんはさらに私の服を脱がしにかかった。
ベルトを緩められ、掌がズボンと下着を潜って性器を探る。
身を捩っても、彼は手を止めようとしない。それが彼が怒っている何よりの証拠だ。
それでも、滑り込んできた手はいつもと同じように私を追い上げ始める。
性急に追い立てられるわけでも、乱暴に扱われるでもない。それが、怖い。
…この人は我を忘れているわけじゃない。至って冷静。
形を確かめるように撫でられ、先端を軽く揉まれた。口付けられたままの状態で息が上がる。
「もう勃ってきてるよ、クリフト。…そりゃそうか、ニセモノとのキスで感じちゃうくらいだもんな」
「…ん…っ!んん、んぅっ…」
勃ち上がりかけたものを、優しく撫でるように扱かれる。
いつもと変わらない仕草なのにやけに感じてしまうのは、煽るような彼の声のせいか、それとも、この信じられない状況のせいか。
膝が震える。腰が砕ける。もう、何かにしがみついていないと立っていられない。
目の前のマネマネの肩につかまるような格好で、更に後ろからユーリルさんに支えられるようにして何とか立っていたが、今度こそそれもできなくなり、地面の上に崩れ落ちてしまった。
「んぁ…っ、はっ…」
キスが止んだ。というよりは、座り込んだときに唇が離れた。
マネマネは地面に崩れ落ちてしまった私を覗き込むようにしゃがみこんだ。何故こんな状況になったのかもわからないような表情で。
またキスされると思い顔を背けたが、予想したことは起こらず、代わりにユーリルさんの声が背後から聞こえた。
「おい、マネマネ。下全部脱がせろ。こっちは押さえてるから」
「…ちょっ…!」
背後を振り返ろうとしたが、彼は私を背後から押さえつけて放さない。
何もわかっていないのか躊躇いもなくそれに従うマネマネを見て、ユーリルさんが声だけで笑った気がした。
その間に背後からシャツを捲り上げられて、冷たい掌に胸を撫でられる。
「く…っ」
身体を強張らせると、彼は間髪入れず、露にさせられた下半身にも手を伸ばした。
「…っ、あ…っ」
強弱をつけながら指を滑らされる。固くなった胸の突起も摘まれ、転がされた。
目の前を見れば、ユーリルさんが…いや、違う。マネマネが、珍しいものでも見るようにまじまじと私とユーリルさんの姿を見つめていた。
何をすればいいのかわからないでいるらしい偽者は、背後のユーリルさんと私とを交互に眺めている。
そして愛撫に強張った胸の先端を不思議そうに見つめ、思いついたようにそこに指先で触れた。
「っ…!」
予想しなかった彼の行動に思わず息を詰める。触れると身体が跳ねるのが面白いんだろうか、マネマネは更にそこを弄った。
ユーリルさんの真似をしているのか、掌で撫でたり、指先で摘んだり。
時折柔らかく押し潰すような仕草をしたかと思えば、次は爪先で弾かれる。
「あ、あっ、ッ…」
弱々しく首を振って意思表示をしたが、魔物の彼にそんなものは通じないらしい。
既に硬く尖っているそこを、途切れることなく責められ続けた。
偽物ばかりでなく本物の彼も何も言わず、マネマネが私の身体を好き勝手に弄るのを背後から見ているだけ。
止めさせてほしいと言おうとした瞬間、無言のまま耳元にキスを落とされ、そこを舐められた。
「あ…っ」
…わけがわからない。
そもそも、どうしてこんなことになったんだろう。何故ユーリルさんが、こんなことを。
疑問ばかりが頭の中で交錯する中、突然生温い温度が胸の先端に触れた。
それが舌だと気付いた次の瞬間、目の前にいるユーリルさんは強張った乳首を舐め上げた。
「…ひっ!…っ」
「…何で逃げるの?」
捩ろうとする身体を押さえつけ、それまで無言で見ていたユーリルさんが、ようやく耳元で囁いた。
執拗に性器を弄んでいる指を滑らせ、時折袋の部分まで優しく揉み解す。
その手つきは酷く優しい。僅かに残っている恐怖心を煽る程に。
「好きでしょ、こうされるの」
「あっ、は…、あ」
背中をぞくぞくと快感が突き抜け、たまらず喉を逸らせて喘ぐ。
刹那、正面から舐められていた胸の先端を、突然音と共に吸い上げられた。
「…!」
喉の奥から漏れたのは、無音の悲鳴。
吸い上げられ、舐められ、歯を立てられ…敏感な箇所は繰り返される刺激に、痛い程硬く立ち上がっている。
乳首を責め続けるマネマネの頭をどけようとしたが、離れない。いや、もう手に力が入っていないのかもしれない。
指に絡まる髪の柔らかさが、私を更に困惑させる。
…本当に、これが偽者なのか。こんなにも彼そのものに触れているのに。
「あぁ…ッ!」
一際強く吸い上げられ、堪えていたはずの嬌声があっけなく響いた。
同時にもう片方の先端も、背後から伸びた手に摘み上げられる。
「…ぃ、…嫌…っ、あ…」
「本当に嫌な時はそんな声出さないくせに」
見透かすような言葉に、更に身体が火照った。内側からの熱に侵されて、頭の奥がくらくら揺れる。
――助けて。
声にならない言葉を、心の中で叫んだ。
理性も羞恥心も快楽の中に溶けそうになっている自分が怖い。
こんな場所で情事なんて尋常じゃない。それも、同じ姿をした二人に一方的に愛撫されて。
有り得ない光景だとわかっているのに、もう身体が言う事を聞かない。
愛撫され続けている性器は、前と後ろから加えられる刺激に雫を滴らせている。
意思とは裏腹に、まるで執拗な愛撫を悦んでいるかのように。
「…はぁ、…はっ…、あぁ…」
手の動きに合わせて響く、くちゅくちゅと湿った音。それに合わせて勝手に腰が揺れる。
もっとして欲しいと言っているようにしか見えない、今の自分の酷い姿を想像して、身体の熱が一気に上がった。。
途切れることなく聞こえてくる自分の吐息と、その中に混じる甘ったるい声。
「…ねぇ、ほら。もうこんなにぐしょぐしょ」
濡れていることを確認させるように、不意に彼の指が唇をなぞった。開いた唇の間に、そっと指が差し込まれる。
「ぅう…、…ん…」
「…クリフトはどこでも感じちゃうんだなぁ。口の中でも、こんな。…敏感だもんな。だからニセモノの僕とのキスでも感じちゃったのかな」
ユーリルさんは笑いながら、声を潜めて耳元に吹きかけた。艶めいた笑い声。熱を孕んだ吐息が耳に触れる。
「舐めてごらん。…後で入れてあげるから」
ココに、と言いながら指で突付かれたのは、…いつも彼と繋がる場所。
ゾク、と言いようのない震えが体中を駆け、私は口の中に入れられた指を夢中でしゃぶり始めた。
「…そう。…そう、もっと舐めて」
耳元でそう囁くと、彼は私の耳元に舌を這わせ、首筋も舐め上げた。
首筋をゆっくりと辿っていく舌先の動きに、舌を動かすのを忘れそうになる。
だが彼は舐めろと言わんばかりに口内で指を動かし始めた。
「…ふ、ぅっ……、うぅ…」
先端から染み出す液体のおかげで滑りのよくなった指先が、何度も性器を扱き上げる。
快楽に震えながら、それでも必死に指を舐め続けた。
「そう、上手だよ、クリフト」
瞼を震わせながら、ぴちゃぴちゃと音を立てて指に舌を這わせる。いつも私の中を蹂躙し、快楽を与えてくれる指先に。
指が引き抜かれ目を開けると、乱れた息に構いもせず、正面から唇を塞がれた。
「んっ…!」
思い出しでもしたかのように、偽のユーリルさんは何度もキスを繰り返した。
快楽を与えられしどけなく開いたままの口に、舌を差し込まれる。指に代わって、今度は熱い舌が思うままに口内を蹂躙した。
「…んぅ、ん、……ふ…」
考えていたこと全てが白く塗りつぶされていく。もう抵抗しようとすら思えなかった。
首筋や耳元を舌に辿られているのに、同じ感触が口腔を撫でている。
同時に感じる同じ感触。…気が狂いそうだ。
それだけじゃない。背後からは限界まで張り詰めた中心を、容赦なく扱かれる。
溢れた液は潤滑油となり、指の動きを促した。
「…は、…はぁ…、…やめ…ッ」
発した言葉は半分無意識で、本当はどうしてほしかったのか自分でもわからない。
そんな心中を見透かしていたのか、ユーリルさんは亀頭をなぞり、爪先で先端の窪みを引っかくように抉った。
「――くッ、ん…っ!」
強い刺激に、光が弾けた。
びくんと身体が跳ね、後から後から熱が溢れる。
吐き出す熱と引き換えに身体は力を失い、弛緩した身体はぐったりとしたまま、ユーリルさんにもたれ掛かるしかなかった。

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