低い微笑いと共に、蕾を押し広げてソロ自身がクリフトを「犯して」いく。
ずぶずぶと湿った音を響かせ、それは熱く蕩けたクリフトの中をゆっくりと抉っていった。
「…あ、あぁっ……あ」
さっきまで中を蹂躙していたものとは違う、熱い塊が自分の中に打ち込まれる。
挿入時の痛みはほとんどなかった。それはただ単に行為に慣れたからというだけではない。
言葉とは裏腹に少年の動きは優しかった。ゆっくりと、中を引き裂かないよう少しずつ結合を深めていく。
否定の言葉を繰り返しながらも待ち望んでいた快感が身体中を駆け巡り、入り口はソロ自身をきつく締め付ける。
それでも彼のものを受け入れている自分の姿を想像すれば、僅かに残った理性は羞恥心に変わり、快楽と共にクリフトの心を蝕んでいく。
「……い…ぁっ………手…解いて、っ……あぁ…」
両手を戒められ両脚を抱え込まれて貫かれている様を思い、クリフトは涙声になりながら懇願した。
だがソロは鼻で笑い、動きを止めようともクリフトの言葉に応じようともしない。ただゆっくりと腰を沈め、楔を打ち込んでいく。
「頭のいいあんたならわかるよな?その状態で抵抗なんてできないってことくらい。
この場にあんたの意思はいらない。ただ俺のすることに従ってりゃいいんだ」
「……くぅ…ッ…」
根元まで咥え込ませると、ソロはうっすらと汗ばんだクリフトの肌を撫で、首筋をぺろりと舐め上げた。
無防備になった脇腹を、胸元を撫で、それから腹の窪んだ部分にキスを落とす。
視界と、両手の自由を奪われたまま挿入され、クリフトは身を捩って喘いだ。
自由が利かない部分の代わりに身体の感覚は研ぎ澄まされ、ソロの指や掌、舌の動き一つをも敏感に感じ取る。
なかを犯す滾った熱の塊は、クリフトの中を味わうかのように緩やかに動く。
そしてそれはクリフトの声が甘い嬌声に変わる頃には、激しく自身をぶつけるような動きへと変わっていた。
「…やっ……は、んッ……!」
喉を大きく仰け反らせ、白濁した液体が自らの腹部を汚す。
同時に中をきつく締め付け、それに呼応するかのようにソロ自身がどくんと脈を打った。
身体の奥に熱い液体が注がれ、全身でその熱を受け止めようとクリフトは無意識に身体を波打たせた。
「……は…っ」
ずるり、と中からソロ自身が引き抜かれる感触に自然と身体が震え、脱力感に襲われながらもクリフトは自分の中にある感情に怯えた。
…まだ足りない。まだ。もっとあなたを感じていたい。
こみ上げてくる感情を懸命に否定しようとしてみても、身体が欲しているのがわかる。
身体の芯が痺れるように疼いて止まらない。
こんなに一方的にされているのに。こんなにも乱暴に抱かれているのに。
…それなのにどうしてこんなにもあなたを求めて止まないんだろう。
いっそのこと憎めたならば楽なのに。こんなに苦しむこともないはずなのに。
心の中で呟きながら、クリフトはひとりでにこみ上げてくる嗚咽混じりの声を噛み殺そうと唇を結んだ。
「……あ…」
不意に暗闇に覆われていた視界に光が射し、若草のような鮮やかな緑が目の中に舞った。
闇に閉ざされていた目にその光は眩しく、クリフトは目を細めながら彼を見上げる。
タオルが外され次第にくっきりと形を成し始める世界に、無機質な瞳が覗く。
ぞっとするくらい何の感情も示さない瞳。 無機質を装った、まるでガラスのような瞳。
そう、気がついたときには私はこの瞳に引き込まれていたんだ。
ぼんやりとそう思いながらクリフトは半ば無意識に彼の名を呟いた。
「……ソロ、さん………んぅ…っ」
―――もう一度して欲しい。
覗き込んでくるその顔に向かい言葉を並べようとしたその瞬間、少年の唇が覆い被さり言葉は口付けの中に飲み込まれていく。
唇が離れた後そこにあったのは不自然な程冷たい笑顔だった。微笑いながらソロは耳元で静かに囁く。
「…この程度でさ、放してもらえるとでも思った?」
「……う…ッ」
身体をうつ伏せにさせられ、腰を高く上げさせられる。
「残念だけど、俺まだ犯り足りないんだよね。…挿れるよ」
双丘を両手で割り開かれると、再びそこへ熱を取り戻したソロ自身を突き入れられ、後ろから激しく突かれた。
「……はっ…あぁっ…!…ん」
眩暈がしそうな程の快感に襲われ、身体が熱く溶かされていく。それでももっと、という言葉は寸でのところで飲み込んだ。
その代わりに快楽の渦に呑みこまれそうになるのを堪えながら、クリフトは心の中で詫びた。
何度も何度も、自分を抱いている少年に向けて。


―――ごめんなさい。
こんなにもあなたに辛い思いをさせて、あなたを苦しめて、本当に……本当に、ごめんなさい。


いつからか、彼に堕とされることを願ってしまった。そんな自分が怖かった。
神に全てを捧げた身でありながら、禁じられた感情を…それも同性である彼に抱いてしまった自分が。
あなたを見て胸が痛くなる度、それが何を意味するのか本当はとうに気付いていた。
そして彼も気付いていたんだ。自分自身に向けられた感情に。

だから彼は私を抱く。
私が自分の感情を溢れさせ、それを言葉にしようとした瞬間、彼の唇はその言葉を奪う。
抱いて欲しいと願う前に、自分から、強引すぎるほどに抱く。
乱暴な言葉で煽りながら、辱めながら。
…あなたへの感情の裏に潜む背徳感という名の痛みは、きっと私を苛み続けるだろうから。

あなたに抱かれ罪の意識に駆られながらも、心の底では歓喜の声を上げているんだ。
けれどもあなたはそんな禁忌を犯した私の口から、拒絶の言葉を導き出す。わざと自分を拒むように仕向ける。
無理矢理犯された、そう思うことで私があなたを憎めるように、自分を責めなくても済むように。

それは全て優しさ。
彼の持つ、不器用ながらも純粋な優しさなんだ。


―――俺があんたを強引に抱いた。あんたはそれを拒絶した。だからあんたに罪はない。


……だからこそ哀しい。
彼が私の犯した罪も全て引き受けようとしている、その姿が哀しかった。

…本当は知ってるんだ。全てが終わった後、彼がどれほど悲しい顔をしているか。


「…ん………はぁ…っ」
与えられる刺激を全て受け止めようとシーツをぎゅっと掴むと、クリフトの濡れた睫毛は光を跳ねながら細かく震えた。
激しく貫かれる度に得られる快楽と引き換えに意識が遠のいていくのを感じる。
ソロが腰を使う度にきしむベッドの音や、変わらず自分を煽るような囁き声すら遠く離れた場所から響くような気がした。
ただ耳にかかる吐息の温度と、自分の中を蠢く熱だけがはっきりと身体に刻み込まれる。
離れていく意識を引き戻そうと精一杯の力を振り絞っても抗えず、次第に身体から力が抜け落ちていくのがわかる。
ソロの名を口にしようとしても吐き出されるのは音のない吐息だけだった。
ついには身体を支え続けられなくなり、ふっと力が抜け落ちたと思った瞬間、クリフトはソロの腕の中でがくりと崩れ落ちた。
「………クリフト?」
問いかける声に応えるだけの力は最早残っていなかった。目を閉じたまま、それでも懸命に細く意識を繋ぐ。
「……気、失ったのか」
自分の声に何の反応も示さない彼を見てぽつりとそう呟くと、ソロは縛めていたクリフトの腕を解放した。
そして彼の身体を抱き上げ、静かにベッドに横たえる。 そのとき確かに聞き取れないくらい小さく「ごめん」と呟く声が聞こえた。


「なぁ、神様ってヤツ。……今の見てただろ。全部聞いてたよな」
クリフトの傍に腰を下ろし頬をそっと撫でると、涙を拭うように指先でその線を辿る。
横たわっている彼が意識を手放したと思っているソロは、小さく呼吸を整えると凛とした声で続けた。
「俺がこの人を無理矢理犯したんだ」
混濁した意識の中で、頬を撫でる柔らかな温もりと、遠くかすかに響く彼の声を感じた。
「クリフトはあんたの教えを忠実に守った。犯されることに必死に抵抗した。
だからこの人に罪はない。…罰されるべきは、俺だけだ」
酷く重い目蓋を薄く開くと、霞んだ景色の中に床を見つめる少年の横顔だけがやけにはっきりと映った。
そのまま力なく目を閉じると、目蓋の淵から一筋、透明な雫が頬を伝っていく。
声にならない声は涙に変わり、クリフトは遠ざかる意識の中で呟いた。


―――違う。本当に裁かれるべきなのは、私だ。
決して許されるはずのない感情を抱いてしまった……あなたに堕ちてしまった、私なんだ。


神よ。…あなたは誰を罰しますか。
私を「犯した」彼に、あなたは罰を下されますか。
こんなにも美しく澄んだ瞳と、穢れなき心を持つ少年に、あなたは―――


「――…ごめん。
こんな無茶苦茶なやり方で、…こんな乱暴に抱くことしかできなくて……ごめんな、クリフト」

本当は知っていたんだ。全てが終わった後、彼がこんなにも悲しい顔をしていることを。
こんなにも哀しい声で、名前を呼んでくれていることを。

お願いですから、そんなこと言わないで。そんな風に謝ったりしないで。
悪いのは私なんです。あなたを苦しませているのも、悲しませているのも、全部。


……泣かないで。
お願いですから……お願いだから私のために、涙なんか流さないで。



―――これは、鎖だ。
あなたのその優しさこそが、鎖。
囚われたら最後、どこまでも絡みついて離れない…重い、鎖。
幾重にも心に絡み付いたそれは、もう二度と私を解き放ちはしない。
そうしてまた、願うのだろう。
あなたの腕に囚われることを。あなたの温もりに溺れることを。

     

いつもの勇者とは別の勇者で勇クリです。
こっちのクリフトは完全に勇者に傾倒してしまっているんですが、同時にそれに対して酷く自分を責め、苦しんでいたりもします。
それを知っている勇者は、これ以上クリフトを苦しめたくないがため、強姦まがいの酷いことを敢えてする。そんな雰囲気の二人です。
2004/02/21  
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