一体いつからだっただろう。
あの人がどうしようもない程強引に、そして壊れそうな程乱暴に、私を抱くようになったのは。



出会った頃から、どことなく陰のある少年だと思っていた。
18歳という年齢に似つかわしくない、どこか大人びた空気を身に纏っている。初めて出会ったとき、そう思った。
瞳の奥に宿る闇はふとした瞬間、ほんのわずかに姿を現す。
ただその闇の向こうには哀しい過去と、それから純粋で、それ故脆くて危うい、透明なこころを持っていることも私はいつか知るようになっていった。
光と闇の同居するあの人の、その不思議な瞳に吸い込まれるように、気がついたときにはもう。
……そのときには、もう既にわかっていたのかもしれない。

それは鎖。
囚われたら二度と逃れられない、どこまでも絡みついて離れない、重い鎖だったのだと。



「―――何するんですか、ソロさんっ」
両手を頭上で縛られ、それからタオルで視界を奪われる。
視界を遮られる前に見えたその少年の瞳は、普段どおり笑ってはいなかった。
どことなく哀しみを湛えた、一見無機質な、瞳。
闇の中に光が見え隠れする、薄紫に染まった、まるでガラスのように脆い瞳だ。
そう思った。いや、今までもずっとそう思っていた。
穢れを知らない脆い美しさを持つ、彼の瞳はそんなガラスの欠片のようだ、と。

いつもと変わらず、それは突然の出来事だった。
無意識のうちに、吸い込まれるようにソロの横顔を眺めていたクリフトに気付くや否や、彼は一言も発さずに強引にその唇を奪った。
あまりの激しさに抵抗するクリフトを力任せに傍のベッドへと押し倒し、息つく間もないような口付けをする。
唇の端から唾液が伝うのも無視して深く口付けを交わし、それが終わったかと思えば突然、腕を掴まれ戒められたのだ。
「何をっ…、こんな、こんなことやめてください…!」
突然のことに彼らしくない大きな声を上げるクリフトをよそに ソロと呼ばれた少年は構わずその頬に手を掛けて口を開かせ、自らの口に含んだ液体を彼の口に流し込んだ。
得体の知れない液体を飲み込むのに抵抗するクリフトを口付けたまま押さえ込み、それが彼の喉を通ったことを確かめる。
重ねた唇を離すと、飲みきれなかった液体がクリフトの口元を伝う。ソロは唇を寄せてそれを吸い上げた。
「……何、飲ませたんですか?今の…」
「さぁね」
くすくす笑いながら、ソロはゆっくりとクリフトの衣服を解いていく。
そんな彼の様子に今飲まされたものが何なのか、それが悪い予感として頭の中をよぎっていった。
「……ソロ…さん…っ…」
布が身体に触れる度に、じんと身体の芯から疼くような感覚が湧き上がる。
視界を奪われたことに対する恐怖と脳裏を行き来する不安に、クリフトは身体を竦ませた。
だがそれにも関わらず、身体にソロの指先が触れる度、零れ落ちそうになる吐息を堪えて唇を噛んでいることにもまた、クリフト自身気付いていた。
「大丈夫だよ、別に毒飲ませたわけじゃないんだし。死にゃしないから」
そんな彼に気がついたのか、ソロは彼のシャツを捲り上げ、色素の薄い肌を撫でながら言った。掌の冷たさから、自分の身体が熱を帯びていることがわかる。
触れられた胸を上下させながら早くも荒く呼吸を繰り返す彼をじっと見つめながら薄く笑みを浮かべると、ソロは指先で彼の乳首を指の腹で撫で、摘んで、転がした。
「……あ、あぁっ…!くふ……ぅんっ」
堪えきれずに高い声を上げると同時に、硬く尖らせた突起を弄られクリフトは身体を捩った。
紅く色づき始めていたそこは、少年の愛撫によりぷっくりと腫れ上がっていく。
それを目にしたのか、ソロは嬉しそうな声で笑い、更に突起を揉みしだいた。
「うわ、やらしい声。…早速効いてきたみたいだな、薬」
「はっ……ぁ、…まさか……」
「そ、気持ちよくなれるクスリ。特別に調合してもらったんだ。
即効性って言ってたけど、ここまで早く効くとはね。効き目も上々みたいだし…思ったより楽しめそうだな」
「そ……んな…」
戸惑うクリフトをよそにソロは笑った。すぐ傍で、ちゃぽちゃぽと水の揺れる音がする。
視界を遮られたままのクリフトの耳元で小瓶を揺らしながら満足げに言う少年の声が耳を掠める。それからコルク栓を抜くような音が小さく響いた。
「残ったからここにでも塗っとくか。ローション代わりだ」
「……あぅ…っ、は、ぁ……」
自分を受け入れさせる場所を暴くと、ソロは残った液体を惜しげもなくそこに零す。
冷たい媚薬で入り口を湿され、腰のあたりにまで雫の滴る感覚にクリフトは喘いだ。
「…はぁ…っ…、…あぁ…ぁ…」
濡れた部分を指で解されると否応なしにぞくりと身体が震える。
抵抗しようにも両腕は縛られたままで身動きがとれないし、飲まされた薬の効力なのか定かではないが全身に力も入らない。
ただ彼の指先で蕾を弄られる度に出る声は、快楽に濡れ歓喜に震えている。淫らな吐息は止まることなく零れ落ちる。
こんなにも無理矢理身体を開かれているのに、こんなにも好き勝手に弄ばれているのに。
いくらそう思っても、どんなに認めたくはなくてもそれだけは偽りようのない事実だった。
「……ソロ、さん………どうして……」
言葉を発しようとした刹那、その言葉すら奪うかのように唇を塞がれた。
彼の唾液と共に飲み込んだ言葉の続きが、ぼやけていく意識の奥で遠く響き渡る。


……どうしてなんだろう。どうして、この人はいつも……


いつもそうだ、この人は…人の意向など気にも留めずに行為を進める。
どんなに嫌だと言葉を並べても、無理矢理身体を開かれ強引に犯される。
あまりの激しさに、最後には意識を手放してしまうことも何度もあった。
それは他人から見れば強姦まがいの、完全に一方的な行為でしかない。
そう、初めて身体を重ねた日からいつもそうだった。
私はただこの人の手や指先の動きに翻弄されて、拒絶の言葉と共に喘ぎ続けることしかできない。
どれだけ頭の中を快楽が占めていても、彼が強引に、そして乱暴に抱くせいでいつも自分の口にする言葉は、行為を否定するものでしかなかった。
例えば、例えばもし彼の行為がもっと優しかったとしたら。
……そうだったなら私は溺れていたかもしれない。
行為に酔いしれ背徳感に苛まれながらも快楽に身を委ね、もっととせがんでいたかもしれない。
だけどそんな台詞を口にする余裕もない程、彼はいつも自分から私を抱く。強引すぎる程に抱く。
わざと私が抵抗するように、わざと嫌がって泣くように。
けれどどんなに強引に抱かれていても、例え傍目には一方的な、強姦まがいのものに映っていたとしても。
それでも彼の指先の動きだけはいつも優しい。 それは彼の強引さや煽る言葉とは遥かにかけ離れたものだった。
受け入れるときに痛まないように、傷が残らないように…そんなふうに動く彼の指先。
どんな抱き方をされてもそれだけはいつも変わらなかった。
もし彼が自分の欲望の赴くままに、ただの性欲の捌け口として私を抱いているのだとしたら、彼はあんなにも私の身体を労ってくれただろうか。

そして何よりも。本当は知っている。
全てが終わった後、彼がどんな顔をしているのか。どんな表情をして私を見ているのか。

だから私は。
…だからこそこんなにも、私は。

「――…嫌…っ、……やめ…」
蕾を押し広げソロの指が中に入ってくる。
突然の異物感に一瞬呻き声を上げたが、中を弄る湿った指先の動きに我慢できずクリフトは入り口を締め付けた。
自分の中に入ってくる指を排除しようとしてなのか、それとも入ってきたそれを逃すまいとしているのか媚薬で溶かされた頭ではもう区別をつけることすらできない。
ただ彼の指がもたらす快感に身悶え、それを受け入れるしかなかった。
「だいぶ慣れてきたみたいだな、ここ。もうこんなに蕩けて…ほら、指2本くらい簡単に入る」
「……あ…っ」
「最初の頃はなかなか入らなくて…指一本挿れても引きちぎられそうなくらい締め付けてたもんな。
初めてここで俺を咥え込んだとき、痛い痛いって泣いてたっけ、あんた。あの頃に比べたら随分、犯りやすくなった」
「………ッ…」
犯りやすくなった。行為と同じであまりにも一方的すぎる言い方に胸が痛んだ。同時に中を解していた指がゆっくりと引き抜かれる。
その感触に吐息にも似た声を零し、クリフトは指の代わりに自分の中に入ってくるであろうものを想像して大きく息を吐いた。
目隠しをされた状態で予想通り両脚を開かれる。けれど次の瞬間そこに押し込まれたのはソロのものではなかった。
もっと硬くて冷たい、温もりを感じられない無機質な塊。
「な、何…を……」
「さぁ、何でしょう」
何をされているのかわからず怯えたようなクリフトの声を遮り少年の声が聞こえると、突然挿れられたものが細かく震え始めた。
「あぁ…っ!あっ、…あっ…ぅ、くふ…っ」
振動と共にクリフトの中を抉っていくそれはすぐに痺れるような快感を呼び起こし、身体中を駆け巡っていく。
閉じようとする脚はソロによってしっかりと押さえ付けられ、挿れられたものと、それを受け入れている部分が見えるように開かされた。
見られたくない、こんなところ……そう思っても今のこの状況で抵抗できるはずもなく、ただ脚を開き、挿れられた部分を彼の目の前に晒すしか術はない。
目では見えなくてもソロの視線がその場所に突き刺さっているのがわかり、クリフトはぎゅっと唇を噛んだ。
「へぇ、いい眺めじゃん。聖職者でも媚薬には勝てないんだね。
……気持ちいい?ねぇ、神官サマ」
荒く息を上げて身を捩る姿を見てソロは弾んだような声を上げた。
それが彼の僅かに残った羞恥心を更に煽る。少年の言葉はそれを見越してのものだった。
「……くっ……ぅ…」
身体と意識を蝕んでいく快楽に言葉も発せず、クリフトは息を荒げながら弱々しく首を振る。
そんな精一杯の意思表示をする彼を見て、ソロはふぅ、と息をついた。そして振動を続ける塊にそっと指をかける。
「抜いてほしいの?…しょうがねぇな」
「あ…、んっ、あぁ……」
埋め込まれているものを掴むと、ゆっくりとそれを入り口付近まで引き抜いていく。
中を擦られる感覚にクリフトは嬌声を上げ、身体を仰け反らせた。
早く抜いてほしいと言葉の代わりに、自ら脚を大きく開いて喘ぐ彼を見て、ソロは思いついたかのように言った。
「やっぱやーめた」
「…ひ、あぁっ!……あぁっ、やっ…」
濡れた音を立てながら、ギリギリまで抜いたそれを再び中へ沈める。 突然の出来事にびくんと身体を跳ねさせ、クリフトは中への侵入を拒もうと身を捩った。
「あぁ、はぁっ……、あぁ…ぅっ」
脚の間に自分の身体を割り込ませて開脚させると、埋めた無機質な塊を抜いては戻し、戻しては抜く。
その度に身体を快楽が貫いた。胸の先端は真っ赤に熟れ、身体中が薄紅色に色づいていく。
汗ばんだ肌を撫で、首筋に吸い付き肌に赤い印を刻みながらソロは煽るように言った。
「いやらしい神官もいたもんだよな。 男に一方的に弄くられて挿れられて…こんなになるまで感じちゃってさ。
アリーナやブライが見たら何て言うかな」
「……はぁ…ッ」
熱いものが乳首を捉える。先端を苛めるように舐めまわし、時折軽く噛まれ、吸われた。
かと思えば性器の先端に唇を寄せられ、つつくようなキスを落とされる。
ただでさえ敏感になっている身体はそんな痛い程の刺激に耐え切れず、目隠しをされている布を涙が濡らしていく。
「…嫌…だ……も、もう…っ……やめ……」
大きく割り開かれた股間は先走りの雫で塗れ、限界を訴えている。
卑猥な音を立てながら抜きかけていたものを再び挿れられ、クリフトは背中を仰け反らせた。
「やめろって言われてもな…俺まだクリフトの中入ってないし」
「あぁ…、ああぁっ……ん…」
埋められたものを中でかき回され、もはや拒絶の意思すら言葉にならない。 ソロは笑いながら今度はそれをゆっくりと引き抜いた。
「それに好きなんだよね、俺。そうやって普段と全く違う姿晒してるクリフト見るの。
普段は穏やかで優しい神官サマが必死に抵抗しながら俺に抱かれるのを嫌がって泣いて…… そんなふうに俺があんたを好き勝手にできるのが楽しい」
「……あ…」
焦らすように中で動かされていたものを一息に引き抜かれ、充分すぎる程に溶かされた蕾に熱く脈打つソロ自身を押し付けられた。
時に気を失うまで激しく自分の中を蹂躙する、熱い塊を。
クリフトは震えた。今更恐怖のためなどではないことはわかっている。
今自分の中にある感情は、歓喜と言っても相違ないはずだ。
…だから、怖い。
クリフトの耳元で、ソロは低く囁いた。

「……あんたを好きなように犯れるのがね」

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