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第 三 部
3ヶ月の合宿の三分の一である1ヶ月が過ぎた。
菊池監督は本格的な調整のため、ワールドリーグに向けて来週にも練習試合を行おうとしていた。
全日本男子チームとの対戦相手はここ静岡に本境地があり、リベロの浅野が所属するチームでVリーグの中でも長身選手が揃っている、MFC・ホワイトビッツに申し込んでいた。
海外からの長身選手を3人抱えているMFCの監督は、菊池の後輩で元全日本選手の持宗が勤めている。
彼は現役時代、スバ抜けたバレーのセンスと勝利に対する貪欲さで、全日本を第三位にしたとまで言われている元全日本のキャブテン、そして元エースである。
Vリーグの中で最年少の若干32歳の監督だが、一昨年持宗が監督に就任して以来、MFCの勝率は上がる一方になっていた。
練習終了後、マネージャーの金子からアナウンスがあった。
「今日の夕食後8時からフォーメーションのイメージトレーニングを行いますので、ミーティグルームに集合してください。」
選手達がそれぞれに返事をして体育館を後にしょうとしていると、菊池がキャプテンでもありチームの司令塔であるセッターの吉澄を呼び止めた。
「吉澄、飯の後ミーティングの前に俺の部屋まで来てほしいんだが、7時半頃いいか?」
「はい、分かりました。」
「岩城さん、シャワー行こう。」
「いや、風呂にする。」
「なんで?シャワーにしょうよ。」
「香藤、今日はダメだ。」
「俺・・・何もしないから、ねっ。」
「ダメだ。今日はミーティングがあるんだぞ、プールまで行ってたら時間掛かるだろ。」
「でも・・・」
「今日は風呂だ。」
「・・・・・」
「香藤、先に行くぞ。」
「う、うん・・。」
お互いの気持ちを確かめ合い、身体も結ばれてからの二人は、週に2,3回合宿所の風呂に行かずにプールのシャワー室を利用している。
他の選手達は必ずと言っていいほど毎日風呂に直行するので、誰にも邪魔されず唯一二人だけで過ごせる場所になっていた。
トレーナーの佐和に二人の関係を知られ、現役の選手なのだから身体に負担を掛けないよう愛し合うようにと言われ、身体を繋げるのはひと月に一度、連休前だけと決めていた。が、二人がそれだけで満足できるはずもなく、週に一度のプールでのトレーニングの後、シャワー室でお互いの欲望を手と口で開放していた。
しかし、それでも若い香藤には足りなかった。
日に日に色気を増していく岩城を目の前にして抑えきれなくなると、こうして練習の後、岩城を誘っては二人でプールのシャワー室へと向かう。
しかし連日になると断られることもしばしばあり、そんな時は仕方なく、1人トイレで抑えきれない熱を抜いていた。
「イメトレって事は、そろそろ練習試合っすかね。」
宮坂が身体を擦りながら、湯船に漬かっている吉澄に話しかけた。
「そうだな、合宿に入ってひと月経つしな。」
「対戦相手どこだろ?早くやりてぇーなー試合。」
「宮、随分やる気じゃん。」
頭をガシガシ洗いながら小野塚が笑みを浮かべて言った。
「なに小野、お前やりたくねぇーの?全日本代表として初試合だせ、燃えるぅ〜。」
「つっても、練習試合だからなー。な〜んか宮みたいに熱く成れねぇーんだよな〜。」
「なんだよ、相変わらず醒めたヤツだな。そう思いません、岩城さん。」
宮坂は少しムッとしながら、隣で身体を洗っている岩城に言った。
「ははは。まあ、冷静なのが小野塚のいいところだよ。宮坂、お前だってその熱さがいいところさ、二人共いいプレーに繋がってるよ。」
岩城は話しながら洗い終わった身体に湯を掛け泡を流した。
「あれっ、岩城さん肌白いっすねー。なんかすんげい綺麗っつーか。」
宮坂の大きな声で風呂場に居る選手達の視線が、一斉に岩城の身体に向けられた。
ザッ――バ――ン――!!!
行き成り宮坂の顔に勢いよく湯がかかった。
「うわっ!どこにかけてんだよ!香藤!!」
「悪りぃ・・・宮・・」
岩城の目の前の鏡に、香藤の怒りを抑えている顔が映っていた。
コンコン・・・・
「監督、吉澄です。」
「ああ、入ってくれ。」
「失礼します。」
「悪いな、ミーティングの前にちょっと聞きたいことがあってな。」
「はい、何でしょうか。」
菊池はミーティングに用意してるビデオを机の上に置くと、真っ直ぐに吉澄を見て言った。
「最近の香藤のプレーなんだが・・・吉澄、お前から見てどうだ?」
「香藤のプレー・・ですか?」
「そうだ。」
夕食を終えて一度自室に戻った岩城は、少し早いがミーティング室に向かおうと部屋のドアを開けた。
すると、目の前にちょうどノックしようとしている香藤が立っていた。
「香藤・・・」
「吉澄さん監督のとこでしょ。ちょっと入ってもいい?」
「ああ。」
香藤は部屋に入りドアを後ろ手に締めると、貪るように乱暴に岩城の唇を塞いた。
「・・っん・・んん・・」
「・・香・・と・・んっ・・」
「・・ん・やめ・・っ・・んん・・」
岩城は香藤の胸に手を押し付け突き放すように押しのけた。
はぁはぁと荒い息をしながら見つめ合っていると、香藤が泣きそうな顔をしてズルズルと背中をドアに押し当てたまま座りこんだ。
「お、俺・・もう堪んないよ!岩城さんが好きでどうしょうもないんだ!」
「・・・香藤・・・」
岩城は傍によると跪いて香藤を優しく抱き締めた。
「俺だってお前の事が・・・分かってるだろう。」
「分かってるよ。でも・・・他のヤツが岩城さんの身体を見ることも堪えらんない。俺だけの岩城さんなのに・・・。」
今にも泣き出しそうな香藤の声が岩城の胸を締め付けた。
「香藤、俺の身体を見るヤツがいても、俺の肌が綺麗だと言うヤツが居ても、俺はお前だけのものだ。俺にはお前しか居ない。」
「岩城さん・・・」
香藤は少し潤んだ瞳で嬉しそうに岩城を見上げた、岩城は優しく口吻ける。
「岩城さんっ・・させて、俺はいかなくてもいいよ。お願い・・・」
香藤は岩城を押し倒すとジャージを下し、一気に口に含んだ。
「・・あっ・・香・・とう・・んぁっ・・・」
香藤の熱い舌が絡みつくように上下した後、岩城の勃ち上がったモノの先端にグリグリと押し入るように舌先を転がした。
「ああ・・待て・・んんっ・・」
岩城は香藤の頭を持ち上げた。
「香藤・・・お前のも・・・」
「うん。」
香藤は自分でジャージを下ろすと、岩城の頭の両脇に膝を置き、跨るようにして上から岩城のモノを貪る。
岩城は下から香藤のすでに先走りが滴るそれを自分の口へと運び吸い上げた。
「あっ・・あっ・・岩・・んっ・・んん・・」
岩城の頭が上下すると香藤のそれが一段と膨張し限界を知らせる、香藤の吸い上げも激しくなる。
「んんっ・・・あっ・・香・・っ・・んぁぁんっ・・」
「・・んあっ・・・いっ・・き・・さ・・んくっ・・」
岩城の足先に・・・、香藤の腰の筋肉に・・・
殆ど同時にビクンと力が入ると、お互いの雄を優しく包む口内へ思いきり熱を放ち合った。
岩城と香藤がミーティングルームに入ると、他の選手達はすでに席についていた。
マネージャーの金子が大画面の液晶テレビにビデオを接続した頃を見計らって、監督の菊池が現れた。
「来週練習試合を行う、相手はMFC・ホワイトビッツに決まった。」
選手達がザワザワし出すと、宮坂が浅野に言った。
「浅野さんのチームじゃないっすか。」
「ああ、みたいだな。デカイ外人3人出して来るってことか。」
宮坂がもっと詳しく教えて欲しいと、浅野にせっつき始めた。
「静かにしろ!これからイメトレの前にビデオを見てもらう。一昨年のVリーグでのMFC・ホワイトビッツとJK・テンダースの試合だ、3−1でJK・テンダースが勝ってる。この時、浅野は他のチームに所属していた。宮坂、人に聞く前に自分の目で見ろ。」
宮坂が亀のように首を縮込ませるのを横目で見て、小野塚は笑いを堪えていた。
「自分のポジションを見るのは勿論だが、5番のウイリアムズ、9番のスミス、それに11番のジェイソン、この3人のブロックに注目して欲しい。来週の練習試合にも出てくるだろうし、タイミングがアメリカチームに良く似ている。じゃ、金子君始めてくれ。」
「はい。」
ビデオは1時間ほど試合の流れに沿って流された後、ポイントの部分を菊池の解説と共に何度も繰り返し流された。
真剣な選手達の視線が、テレビ画面上に繰り広げられる試合に釘づけになっていた。
香藤もその1人だったが、時折相手チームであるJK・サンダースのエース、岩城の姿に見惚れていた。
柔軟な身体が優雅に舞うような空中でのフォームと着地。
今では毎日一緒に練習している、いつも傍で見ているのだが、こうして全体を画面で見ると新たな岩城が香藤を魅了していた。
「それから、この第3セットでの11番スミスの動きだ。ブロックのタイミングがいい、エースの岩城が完全に封じ込められてる。そうだな、岩城。」
菊池は岩城に確認するように問いかけた。
「はい、いろんなタイミングで打って見ました。でも必ず付いてくるんで、穴を狙うしかなかったですね。」
菊池は頷くと香藤の方に視線を向けた。
「しかし、ここではブロックカバーにも大きなミスがある。どこだと思う香藤。」
一時停止で止められたテレビ画面を見て、香藤はすぐに答えた。
「センターが、前に出すぎです。アレじゃブロックを弾いて後ろに飛んだボールが拾えないし、たとえ誰かが拾ったとしても、セッターの邪魔だ。いいトスが上がらない。」
「お前ならどこに位置する?画面で説明してみろ。」
香藤に前に出て位置を示すように言うと、香藤は前に出て2箇所の位置を指差し、その説明を的確に述べた。
「いい答えだ。いいぞ、席に戻れ。」
菊池は満足気に笑みを浮かべ、吉澄を見た。
吉澄は少し驚いた表情で、席に戻る香藤の姿を追っていた。
「スポーツは何でも同じだが、確率だ。その場の状況判断でもっとも確率の高い状況に反射的に動けなければならない。そのためにいろいろなパターンのフォメーションの練習をしている訳だ。俺もこの場合は香藤の判断が適切だと思う。」
香藤が席に着くと、宮坂が感心したように言った。
「お前、すげーな。俺、思いつかなかったよ。」
「だからだよ。」
「へっ?なんだよ小野。」
「宮みたいなヤツがいるから、こうやってイメトレするんだよ。」
「なんだよ、俺だけアホ扱いすんなよ!」
宮坂と小野塚のやり取りが、いつの間にか選手達の笑い声で部屋中をいっぱいにしていた。
時刻が10時を少し過ぎた頃、ミーティングが終了した。
香藤が自室に戻ると、先に戻っていた同室の浅野がベットに横になって雑誌を眺めていた。
「なあ、香藤。」
「はい、何んすか?」
「その、俺もあんまり首突っ込みたくはないんだけど・・・。お前、桜庭と付き合ってんのか?」
「何言ってるんですか!付き合ってないですよ。」
「いや、さっき携帯掛かってきてな。アイツ俺の大学の後輩なんだよ、それにお前のチーム西レの後、今年から家のチームMFC海外戦の通訳やってるだろ、だからよく知ってるんだ。桜庭にお前に好きな人が居るのかって聞かれてな、知らないと言ったんだが。この間みんなで行ったイチゴ狩りの時、なんかあったのか?」
「実はあの時、付き合って欲しいって言われて。でも、断ったんです。」
「そうか。ま、桜庭には気をつけろよ、お前の事諦めないような勢いだったぞ。」
「俺、好きな人いますから。すごく大切な人が。」
「そうか、まあ居るとは思ってたよ。香藤モテモテだもんな、試合の時の黄色い歓声。ファンレターやプレゼント結構来てるだろ。宮坂がいつもブーブー言ってるよ、相当羨ましいんだな。」
「そんなの関係ない、俺にはあの人だけだから。」
香藤の真剣な眼差しが、心から相手を想っていることを語っていた。
「その娘と、もう長いのか?」
「いえ・・・」
「随分入れ込んでるんだな。」
「え、まあ・・俺、コーラ買いに行きますけど、浅野さんなんか要ります?」
「いや、俺はいいや。」
「そうですか、じゃ。」
香藤はそそくさと部屋を出て行った。
ふと浅野は、香藤にそこまで想われている人はどんな人なのだろうと思った。
「話したくない・・・か。人妻?まさかな。」
時計の針はとうに午前1時を回っていた。
ベットに入って1時間以上経っているのに、吉澄は寝付けずにいた。
今日のミーティングで香藤が示したブロックカバーの位置は、自分が考えた以上に完璧だった。
香藤は高校生の時から抜群のバレーセンスを持っていることで注目され続けていた。
吉澄が実際に香藤のプレーを見たのは香藤が大学に入ってからだったが、あの時の衝撃は今でも忘れられなかった。
まるでスローモーションでも見ているかのような空中での滞空時間、相手のブロックを諸共しない破壊力を持ったエースアタック。
そして、香藤の的確な判断力と瞬発力の守備は天性としか思えなかった。
この時すでに、全日本エースとしての香藤が誕生したと言っても決して過言ではないだろう。
しかも香藤はまだまだ可能性を秘めている選手なのだ。
去年全日本のメンバーになってからの香藤の進歩は目覚しいもので、吉澄は一緒にプレー出来る事が嬉しかった。
自分が無理な体制からやっと上げたトスでも、香藤は全力で撃ち、必ずと言っていい程決めてくれる。
今まで岩城以上に優れたエースが現れるとは思って居なかった吉澄にとって、もっとバレーを続けたいと思わせるような、セッターにとって頼もしくもあり、トスの上げ甲斐のあるのエースに香藤は成長していた。
しかし、そんな香藤のプレーに安心して見過ごしていたのだろうか・・・
菊池監督が吉澄に投げかけた言葉が頭から離れなかった。
「香藤は岩城のブロックカバーになると本来の守備位置が乱れる。」
「岩城のミスしたレシーブに対して必要にボールを追いすぎる。」
思い当たる節がない訳でもなかった、確かにそう感じた事があったのだ。
しかし、バレーのセンスが長けているといってもまだ若い、経験不足なのだと吉澄は考えていた。
だが、今日のミーティングでの香藤が吉澄のその考えを覆した。
あの二箇所のブロックカバーの判断を瞬時で出来る香藤がなぜ?
何かが香藤の判断力を鈍らせている、香藤が天性と言わる程の判断力を鈍らせる何かとは何んだろう・・・・。
吉澄は考えても何も思いつかず、小さくため息をつくと寝返りを打った。
「吉澄さん、寝付けないんですか?」
「悪い岩城、起こしたか?」
「いえ、俺もなんか眠れなくて。」
「そうか・・・なあ、岩城。」
「はい。」
「香藤の最近のプレーどう思う?」
「えっ?どうって・・・」
「いや、すまん。何でもない。もうこんな時間か、早く寝ないと明日きついな、お休み。」
「え、ええ。お休みなさい。」
『香藤の最近のプレーどう思う?』
岩城の頭の中で吉澄の言葉が走馬灯のように回る。
香藤のプレーに何か問題があるのだろうか・・・。
それとも良くなったと言うことだろうか・・・。
眠れずにあれこと思いを巡らせていると、鳥達のさえずりが朝日と共に窓から聞こえて来ていた。
一週間が経った練習試合当日。
マネージャーの金子からスタメンが発表されようとしていた。
メンバー登録票を一瞥して、金子は一瞬眉間に皺を寄せると、監督の菊池を見た。
腕を組んで椅子に座っている菊池に、金子は改めて確認せずには居られなかった。
「菊池監督、スタメンはこの登録で間違いないですよね。」
「ああ、そうだ。どうした?」
「いえ。それでは発表します。セッター吉澄、リベロ浅野、ライトエース香藤、センター小野塚、レフト宮坂、レフト漆崎、レフト佐久間、以上です。頑張って下さい。」
当然のように岩城がスタメンで試合に出る、と思っていた他のメンバー達の動きが一斉に止まった。 岩城は言葉も出ずだだ唖然としていた。
「なんだ、MFCって相当強いのかと思ったら、岩城さんを控えに回すぐらいの相手なのか。」
安心したように笑顔で言った宮坂の言葉を、菊池の言葉が打ち崩した。
「何言ってんだ宮坂、今日の試合は本戦と変わらん、気を抜くなよ。俺は今日のメンバーでワールドリーグに行くつもりで居るからな。」
「何でですか!何で岩城さんが外されたんですか!俺、納得出来ません!」
水を打ったように静まり返った選手控え室に、突然立ち上がった香藤の声が響いた。
「俺は全日本の監督だ。選手の納得など必要ない、決定権は俺にある。」
「でも・・・」
「香藤!やめろ!」
「だって、岩城さん!」
「やめろと言っているんだ。」
香藤は唇が切れるのではないかと思うほど、強く噛んで菊池を睨んだ。
「吉澄何してる、アップだ。」
「あ、はい監督。よし、皆いくぞ。」
吉澄の掛け声で我に返った選手達は、菊池とコートへ向かった。
「香藤、早く行け。」
「岩城さん、俺・・・」
「いいから、行くんだ。俺もすぐに行くから。」
香藤は岩城を抱き締めたい衝動を、力いっぱい拳を握る事で抑えた。
「香藤!何してるんだ!早く来い!」
キャプテンの吉澄の声に引きずられるように、香藤はコートに向かって行った。
「なぜだ・・・なぜ俺は外されたんだ・・・」
誰も居ない控え室に岩城の声が小さく響く。
「お前、そんな事も分からなくなっちまったのか?」
「止めなさいよ、愛は盲目って言うでしょ。」
岩城が振り返ると、
そこには呆れたような顔をした菊池監督と笑顔の佐和トレーナーが立っていた。
kaz
2005.10.13
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