※注】お読みになる前に・・・・このSSではアトランタオリンピックについて書いておりますが、全くのデタラメです。実際は、残念ながら全日本男子バレーチームはオリンピック出場権を得ることが出来ませんでしたので、参加しておりません。その辺を踏まえてお読みください。今回はバレーの試合って感じで・・Σ(=゜ω゜=;) マジ!? 挙句エロなし(爆)




第 四 部




「全く、何が愛は盲目だ。」
菊池監督は、額に手を立てて大きなため息をついた。
その菊池の仕草を無視するかのように佐和は岩城の隣に座る。
「ごめんなさいね。貴方達から話すまで黙ってようと思ってたんだけど、話さずには居られなくなっちゃって。」
「そう・・言うことですか・・・」
「えっ、岩城君?」
岩城の笑いを押し殺したような声に佐和は不安を感じた。
「そういう事って、お前本当に解ってるのか?」
「解ってますよ、監督。いえ、今解りました。俺達の関係が問題になる前に、若い将来性のある香藤の方を選んだって事ですよね。どうせ俺はワールドリーグが終ったらセリエAに行くだろうと、そう思ってるから、だからでしょ。」
岩城はガックリと落とした肩を震わせながら、皮肉を込めて言い放った。
「岩城!お前・・・馬鹿野郎!」
ガシャ―――ン!!
菊池が大声と共に椅子を蹴った音が室内に響きわたる。
「ちょっと、待って!これじゃ話になんないでしょ。岩城君、貴方が誤解するのは解るけど、そんなんじゃないのよ。今、岩城君には見えてないのよ。貴方も香藤くんもこの短期間でどれほど素晴らしい選手に成長したか、どんなに全日本に必要な選手か、そしてその自分や香藤くんを生かすも殺すも貴方次第だって事がね。」
「俺、次第・・見えて・・ない・・?」
岩城は意味が解らないと言うような顔を向けると、佐和トレーナーはゆっくりと頷く。
「愛だ恋だってボケてないで、香藤の今日のプレイをよく見とけ。」
菊池はそういい残すと試合が始まろうとしているコートへ足早に姿を消した。
「ホントに口が悪い上に、言葉が足りないんだから。」
「俺が、俺があいつを・・・香藤をダメにしてるってことですか?」
「違うの、そうじゃないのよ。でも、監督の言う通り、今は自分の目で確かめるのが一番だわね。それから言っとくけど、彼は菊池監督は貴方達の事を批判するような事は絶対にしない人よ。とにかく行きましょ、試合が始まるわ。」

『香藤を生かすも殺すも・・・』
不安な思いを引きずったまま、岩城は佐和トレーナーに急かされるように立ち上がると、試合開始のホイッスルが聞こえるコートへと歩き出した。



第一セットが始まった。
対戦相手のMFCは菊池の予想通り、スタメンから長身2人の外人選手と浅野の代わのリベロも長身の選手を入れ、平均身長が全日本チームより5cm程高いチームで試合に望んできた。

MFCはレシーブ、トス、アタック、確実なボール回しでゲームを運ぶ。
それに引き換え全日本チームは、選手がたとえ全国選りすぐりの集まりとは言え、菊池が監督に就任してからまだ日は浅く、しかも岩城の変わりに佐久間を入れたスタメンでのスタートは散々なものだった。


MFCの3点のポイント連取、そしてまたもや佐久間のアタックが外人選手のブロックに捕まった、弾かれたボールにリベロの浅野が飛び込むが届かない。

ピピ――ッ!!
10対4、全日本チームは序盤に予想以上の点差を広げられた。

緊張のあまり、いつも通りに打つことの出来ない佐久間に焦りの色が見える。
キャプテン吉澄が佐久間の肩を叩く。
「ドンマイ、ドンマイ。佐久間焦るなリラックス、思いっきりジャンプだ、ブロックを気にするな。」
「あ、はい。」
「ヨシ!一本だ!相手のリズムを崩すぞ、いいな!」
「「「はい!」」」
「吉澄さん、俺にもっとボール回して下さい。」
岩城の出ていないこの試合で、エースの香藤が必要以上マークされるのは当然の事、吉澄は出来ればもっとランダムに香藤を使いたかった。が、そうも言っていられない状態になっている。
「よし、香藤。バックに上げるからな。」
「はい、任して下さい。」
前衛に居ようが後衛に居ようが、トスを上げられたら打つ、それがスーパーエースに与えられた仕事だ。
そして、その期待に答えるように香藤は全力で打ち得点を上げる。
11対7、しかし得点差は思ったよりなかなか縮まらない。

『くそっ!岩城さんが居れば俺のカバーにもっと早く入れるのに、岩城さんだったらこんなブロック何でもないのに。俺と岩城さんが居れば。』
悔しい気持ちを叩きつけるように香藤はボールを打っていた。


岩城はベンチから自分のチームの試合運びを見て、イライラしていた。
もちろん、自分が出られないと言うのは一番の理由だが、それだけでは無い。
菊池監督が言った通り、香藤のプレーに集中した。そして、香藤のバレーのセンスの良さと素晴らしさに変わりが無い事を確認するのと同時に、他の選手たちの迷っているような、中途半端なプレーが気になって仕方が無い。

その時小野塚と宮坂の完璧なブロックが決まった。
宮坂のガッツポーズ、小野塚と手の平を叩き合わせる音。
「ナイスブロック!ヨシ!いいぞ―!!」
控え選手たちの気合の入った声援が上がる。

「んっ?・・・今?」
岩城は一瞬、選手達のブロックカバーの位置に疑問を抱いた。
『なぜだ、香藤の位置が違うのか?いや、そんなハズは・・・他の選手か?』

試合は続けられている、浅野のサーブレシーブから吉澄のトス、そして香藤のエースアタックが決まったかと思われたが、MFCリベロのナイスレシーブ。
「宮!レフトだ!」
「オウ!」
小野塚の冷静的確な判断でトスの上がるサイドに目を付けジャンプ、ブロック。
惜しくも僅かな二人の腕の隙間にボールが当たって抜けた。
「ワンタッチ!!」
小野塚の声が飛ぶ・・・リベロの浅野がボールを追うが届かない・・・
ボールはバックラインを大きく越える、香藤が走る、そして吉澄も走ろうとした。
『吉澄さん、動かないでくれ!』香藤は走りながら心の中で叫んだ。

「違う!吉澄さん戻って!香藤のボールだ!宮坂開け!」
岩城は立ち上がり叫んだ。

吉澄さんも宮坂も香藤の動きに対応していない。香藤に任せておけばいい、香藤なら取れる。香藤なら的確な判断で動く、俺は決して香藤のプレーを欲目で見ている訳じゃない。
愛だ恋だとボケてないで・・・。菊池監督の声がまた聞こえたような気がした。
違う!そんな気持ちで俺達はプレーしてない。香藤も俺も目指すバレーに対して真剣に取り組んで来た。必死に練習して来た。事実この試合で香藤はいい活躍をしてる、あとは俺がコートに居れば、俺と香藤なら。
問題なのは他の選手達が付いてきていないだけだ。

・・・他の選手が問題・・・膝に置いていた拳に力が入る。

「そうか、そう言う事だったのか。俺がこんな事に気づかなかったなんて・・・」
岩城は自分のチームの全体像を見ていなかった事に気づき、驚きのあまり心の中で思ったことを口に出していた。
バレーは6人でプレーするものだ、と以前香藤に言ったのは俺だったのに。
大学時代キャプテンまで勤めた事のある俺が、こんな事に今更気づくなんて。

隣に座っていた佐和トレーナーは岩城の口から零れた言葉を耳にすると、こちらを向いている菊池監督にニッコリと微笑み、親指を立てサインを送る。
菊池はフンッと鼻で笑ったような仕草を見せたが、綻ぶ口元をどうする事も出来ないでいた。


コート上では香藤がボールに追い付きセッターの吉澄に回す、低いパスだったが吉澄はレシーブで鮮やかなトス、ネットから開いて待っていた宮坂が助走をたっぷりつけて高い位置から叩き込む。

ピピ――ッ!!

素晴らしい全日本チームのプレーが見事に決まった。



11対9、対戦相手MFCの監督がゆっくりと立ち上がると、審判に作戦タイムのサインを出す。
ベンチに集まった選手達に的確にアドバイスをした後、持宗は菊池の様子を見ていた。
なぜだ・・・持宗はこのゲームの進み方が気に入らなかった。
岩城を外した事で、チームに全くまとまりが見られないまま低得点差とは言えリードされている。にも関わらず、菊池監督の表情には余裕がある。
その上、ベンチサイドでイラついて不満顔をしていた岩城まで、今は晴れやかな顔をしてタイムに入った選手達を迎えている。

この試合には何かがある・・・何も目的のないまま岩城を外すわけがない。

現役の選手時代、誰よりも勝利に対する貪欲さを最初に自分に教えてくれたのは菊池であった。
お前には全日本スーパーエースとしての素質とセンスがある。俺のパレーのすべてをお前に教える、そして俺から盗め。
尊敬する名セッター菊池、この人に付いて行こう。持宗はどんなに苦しい練習にも耐えた、そして吸収し、盗んだ。
1996年アトランタオリンピック。全日本選手として菊池と同じコートに立ち、同じ苦しさを乗り越え、手にした喜びの銅メダル。
「二人で全日本を3位までにしたんだ。」菊池のその言葉に肩を抱き合い泣いた。
いつまでもこの人と一緒にプレーしたい、離れたくない。
そして菊池への気持ちがただの憧れではないと気づいた頃。
「全日本キャプテン、名セッター菊池克哉。バレー留学の為、渡米!」
その時のショックは今でも忘れられない、人を愛する事、そして、どんなに想っても届かない辛さがあることを知った瞬間。
持宗に一言も告げず渡米した菊池、悲しさよりも悔しさの方が強かった。

『俺は・・相談も、話す必要さえもない役立たずってことですか、菊池さん。』

以来、持宗のプレーは変わってしまった。
自己中心的で勝つ事にしか興味を見せなくなり、自分が所属したいと思うような強いチームが無いと言い放ち、所属するチームも無いままズバ抜けた才能を持ちながらの若すぎる選手引退。
ならば自ら強いチームを作って見せる、最年少持宗監督の誕生であった。


今回の全日本監督就任は、ここ数年の男子バレーの不調を取り戻すために、元全日本の人気選手であった菊池を、アメリカからバレー協会が呼んだ形になったのだが、ワールドリーグの成績行かんでは辞任もある。と言う前提で、監督経験のない菊池が受けている事を持宗は知っていた。
監督としての経験、実績は自分の方がある。現に今回の全日本監督の話も持宗にと、一部では囁かれた。
必ず自分が全日本の監督となってオリンピックに出場して見せる。
菊池に監督としてどれだけ自分が優れているか見せてやる。そのためにこの試合は重要だった。勝てなくていい、1セットも取れなくていい。
大切なのは元スーパーエース岩城と若手スーパーエース香藤、彼らの弱点を見つける事だ。

どんな事をしても見つける。俺が全日本の監督になるために・・・。



岩城はタイムのホイッスルと同時に立ち上がると選手達を出迎え、ドリンクを手渡した。
「香藤、いいプレーだ。」
「岩城さん、あの・・」
香藤の声を遮るように監督の菊池が選手達に声を掛ける。
「ヨシ、みんなナイスプレーだ。佐久間、思いっきり行け。ブロックは気にしなくていい。」
「はい。」
「吉澄、佐久間にボール回してけ。それからな、お前は香藤を見て動け。」
「えっ?香藤を・・ですか。」
「そうだ、香藤からボールが回ってくると考えて動け。」
「はい。」

正直、吉澄は監督の言葉にホッとしていた。司令塔として動く吉澄を見て選手達は動く。しかしこの試合中、気が付くと香藤が予想外のところに位置してボールを繋げてくる。吉澄は対応しているつもりだが自然とはっきりしない動きになる、それにつられたように他の選手達も戸惑ったプレーをしているのを感じていた。

菊池は吉澄の肩を叩くと、
「吉澄。大丈夫だ、みんなお前の動きにちゃんと付いて行ってる。岩城、気づいたことがあったら言っとけ。お前はこの試合に出番は無い。」
「はい、監督。」
「岩城さん、悔しくないんですか!」
「香藤、お前バレーが好きか。」
「は、はい。」
「俺もバレーが好きだ。俺達はバレーをするために生まれて来たんじゃないかな。」
他の選手に声を掛けながら岩城は満足そうに微笑んでいた。
「そんな事より俺は・・」
「安心しろ、俺はワールドリーグでお前と一緒にコートに立つ。」
「ホントですか!」
岩城は力強く頷いた。
「香藤、俺達はいいチームメイトに恵まれたな。」
「はっ?」
「もっと声を出せ、自分が居て欲しいところに居てもらうように声を出すんだ。」
「でも、岩城さんなら俺が言わなくても解る。二人なら最高のプレーが出来るのに。」
「最高のプレー?俺達二人だけでか?バレーは6人でプレーするもんだろ。」
「えっ・・」
「忘れるな、俺達は他の選手に支えられていいプレーが出来る。そして俺達が支えて他の選手の最高のプレーが生まれるんだ。」
「あっ、俺・・・」
「ああ、俺もだ。俺達の目指すバレーは二人だけじゃ出来ないってことだ。」
香藤は改めて他の選手達一人ひとりを見た。
鉄壁と言われる小野塚と宮坂のブロック、どんなボールにも体でぶつかるファイターリベロ浅野、経験が浅いにも関わらず全力でぶつかる佐久間、そしてキャプテンでありセッターの吉澄。
ちょうど汗を拭きながら振り返った吉澄と目が合った。
「吉澄さん、スミマセンでした。俺、目いっぱい声出してボールについて行きます。」
「あ?ああ、香藤頼むぞ。俺もお前について行くからな。ドンドン動けいいな。」
「はい、吉澄さん!」

ピ――ッ!!ホイッスルがタイム終了を告げた。

「オッシ、ガンバッテコウ!!攻めてくぞ!いいな!!」
「「「はい!!」」」
キャプテン吉澄の声で気合を入れる選手達。
「決めて来い、香藤!」
岩城の掛け声に香藤はガッツポーズを見せ、笑顔の戦士となってコートに立つ。

『そうだ、それでいい。お前の笑顔が勝利を呼ぶんだ、香藤。』
生かすも殺すも・・・佐和トレーナーの言葉が岩城の心に染み渡っていった。


「監督。俺・・・済みませんでした。一番大切な事を見過ごしてました。」
岩城は菊池の隣のベンチに腰掛けると、試合を見つめたままの姿勢で話かけた。
腕を組み満足げに試合を見ていた菊池がちらりと岩城を見た。
「気づくのが遅いってだけだ。見てみろ、どの選手もいい選手ばかりだ。ただ、お前と香藤はもって生まれたセンスが違う。しかも飛び抜けたプレーをする香藤はまだ発展途上だ、技術もパワーもこれからだ。そしてお前は今以上に高度なプレーが出来る世界的な選手になる、技術的にも精神的にもな。俺はお前達のような選手に会えたのは過去に一人だけだ、その時は育てて上手く使う自信が無かった。だがな、今ではそれが俺の仕事なんだって事さ。」

二度と素晴らしい選手を自分のせいで潰したく無い。
それは誰にも聞こえない菊池の心の叫びだった。


コートに向ける鋭い視線、選手達を見つめる厳しい眼差し。
岩城はその菊池の瞳の中にはっきり見た。
バレーボールを愛する自分達と同じ彩が、光り輝いている事を。


試合は、素晴らしい追い上げで第一セットを全日本が収めた。


そして第二セット中盤、佐久間の気力と体力は限界になろうとしていた。
長身の佐久間がどんなに打っても見事なブロックで止められる、後衛になると、サーブとアタックで狙われ、他の選手がフォローに回っても、執拗な佐久間への攻撃を止める手立ては見つからない。

16対14、MFCに2点リードされたところで菊池監督が立ち上がった。

選手交代か?持宗は菊池の行動から目を離さない。



「得点は気にするな、とにかく佐久間を潰せ!」
第二セットに入る前、岩城をコートに出すために持宗監督が選手達に伝えた作戦が、
その指示通りにコートで実戦されていた。





kaz
2005.10.29



第五部・只今執筆中・・・(^^;;