intersect
初めて見た瞬間に理解した。
人を見下し、気にも留めない。
自身も含め、他は過ぎ去る景色の一部だ。
そうであるはずなんだ。
転校生は何かと話題になりやすい。
加えて本人が人の目を引く要素を有しているのならば尚更だ。
その意味では容姿といい性格といい、アレは正しくその典型だった。
転入から約二ヶ月。アレは景色に溶け込み、同時に景色を創り上げた。
それは全の景色から決して外れることなく、他の介入を拒絶する個の景色だった。
だからアレは常に孤であった。そうあるべきだった。
だがそれは、アレが一つの郭で作り上げた一つの景色に過ぎなかった。
アレの別の景色は、ある一つの個だけは許容していたのだ。
偶然に見かけた別の景色。
違う。あれは違う。
アレが違うんだ。
だってその個は、あんな奴なんかであるはずないんだ。
だから、俺が修正してやらなくちゃ。
頭のレベルが低く丸め込みやすい、出来れば体格の良い駒がいい。
クラスメートから適当にそういう男を二人見繕い、男と付き合っているらしい、と何気なく話を切り出した。
「マジかよ、ありえねえ」
そう聞いた二人はゲラゲラと笑い、嘲った。
ひとしきりネタにして笑うのを聞き流し、頃合いを見て佐助は切り出した。
「…でも、やっぱ女と違ってすごい締まるからさ、気持ちいいらしいよ」
「お前よく知ってんな」
呆れと感心半々の様子のクラスメートに、バイト先の近くにお店があってねー、たまーに来て話したりするわけよ。
そんな感じで適当に言い訳した後、興味が湧いてくるようにし向け、佐助は人知れず暗い笑みを浮かべた。
「佐助、何やら楽しそうだな? 俺も混ぜろ」
別クラスからやってきた幸村が三人の中に入ってきた。
腕に抱えているのは売店で買った菓子パン入りの袋だ。
暗い笑みはすぐに明るい呆れ顔に変わり、説教を始めた。
「…旦那にはまだ早いからダメ。ていうか、旦那、またそんなに買って!」
「……聞こえぬ。俺には何も聞こえぬぞ」
小言が始まることを見越した幸村は、行儀悪くもアンパンを口に銜え、そそくさと逃げ出した。
メールが着た。元親だ。今日逢おう、という誘いの内容で、唐突なのはいつものことだ。
たまたま予定も空いていたので、了承の返事を出した。
試験日だったので、昼過ぎには学校も終わった。逢うのは夕方、家で少しはゆっくりできる。
帰りに買う物を考えながら、政宗が一人残った教室から出ようとドアを開けると、男が一人立ち塞がってきた。
「……」
無言で見上げると、薄ら笑いを浮かべながらこちらを見下ろしてくる。避ける様子はない。
「…どけよ」
男は答えず、教室の中に入ってきた。その後出ようと思ったが、後ろから別に二人続き、更にドアを閉められた。
「……」
ケンカでも吹っ掛けてくるつもりだろうことは、簡単に予想がついた。
めんどくせえな。そう思いながらため息をついた。
「伊達ぇ、男と付き合ってんだってな?」
政宗を囲みながら、男の一人が口を開いた。
その言葉に眉を顰める。
「……で?」
隠しているつもりは特にないが、わざわざ言うつもりもないので、肯定も否定もせずに続きを促すが、
男二人はゲラゲラと笑い出す。もう一人は冷笑を浮かべ、こちらを見ている。
「……」
くだらねえ。そう思いつつ、後ろのドアから出ようと教室の後方へと目を向けると、
冷笑を浮かべていた方の男がさりげなく動いて、後ろのドアのカギをかけた。
「……」
確か、猿飛佐助、とかいう奴だったが、特に話をした記憶は無かった。
いまだゲラゲラと笑っている男二人にかけては、名前すら覚えていなかった。
クラスメートとはいえ、興味が無いもんは仕方ない、と思うことにした。
「なぁ、男とヤるってどんなもんなんだ?」
話のネタが尽きたのか、再び話しかけてきた。
わざわざ話してやる義理もないので、無視して今日の夕飯のことを考えていた。
どうせ元親が何か作れと言い出すに決まっている。
「おい、聞いてんのかよ」
声を荒げてきたので、夕飯のことはひとまず置いておき、政宗は再び目を向けると、面倒そうに言い捨てた。
「てめえらに付き合ってやる程暇じゃねえんだよ。目障りだ、さっさと失せろ」
「つれねえなあ」
男二人はニヤニヤと笑う。
凄んだり笑ったりと忙しない奴らだ、といったどうでもいい感想を政宗は抱く。
視線を別に向ければ、佐助は拾った消しゴムを上下に放って手遊びをしていた。
埒があかない。無理矢理前から出ようと正面の男の横を擦り抜けた。
「逃がすかよ」
捕まえようと、男の一人が腕を伸ばしてきた。
身体を捻りそれを避けると、更に向かってきた別の腕を逆に掴んで引き寄せ、顔に一発くれてやった。
後方に飛ばされ、尻餅をついた一人を見て、もう一人が怒りを顕わにした。
「てめえ!」
「……」
佐助は変わらず消しゴムを弄りながら、楽しそうに傍観している。
殴られた男の方もフラフラとしながら立ち上がった。
今度は二人がかりで組み伏せようと向かってくる。だが巨体ゆえに動きが鈍い。
伸びてきた腕を避け、政宗は一人の懐に飛び込んで顎の下から殴りつけた。
次に背後のもう一人の方に振り返り、男の足を払う。
バランスを崩したところで、腹に一発お見舞いしようと拳を握った。
風を切る音が聞こえた。振り返り、無意識に腕を構えると、その腕に何かが当たり床に落ちた。
その分だけ次の動きが遅れる。飛んできた物が、佐助が弄っていた消しゴムだと気付いたと同時に、
男の拳が鳩尾に入り込んだ。
「…っぐ」
息が詰まり、政宗の動きが止まった。
それを逃さずに蹴りを入れられ、腕を構えるが凌ぎきれずに床に倒れ込んだ。
拍子に身体が机や椅子に当たり、五月蠅い音を立てた。
起き上がろうとする前に、男の足に胸を踏みつけられる。
肋が軋み、息が詰まる。政宗は鈍痛に顔を歪めた。
「その、汚ねえ…足、さっさと、どけろ」
踏みつけている足を掴み、声を絞らせながら言うが、男が聞くはずもなかった。
下卑た笑い声を上げながら、男は踏みつける足に更に力を加える。
「うっ…ぐぅ…っ」
言葉を喋るのも辛くなり、政宗の口から呻いた声が漏れた。
構わず、男の一人が言った。
「猿飛、腕押さえてろよ」
「えぇ〜? 俺様、あんたらより、か弱いんだよ」
「あの馬鹿力の真田押さえられんのお前だけだろ。メンドくさがらずにやれよ」
「…あれは要領の問題なんだけどねえ」
軽口を叩きながら政宗に近付き、佐助は政宗の両手首を掴むと、それを彼の頭上の床に縫い留めた。
政宗を踏みつける足の力は強まるばかりで、肋骨が更に軋んでいる。圧迫感と痛みで政宗の顔も更に歪んだ。
骨が折れる直前で男は漸く足を離し、代わりに政宗のシャツに手をかけ、強く引っ張った。
ボタンが飛び、肌が露わになる。
「て、てめえら…っ」
一瞬目を見開いた後、すぐに男たちの目的に気付き、政宗は抵抗しようとするが、
頭上で政宗の腕を押さえている佐助の腕は微動だにしない。
更に男二人に下半身を押さえ付けられ、身動きすらままならなくなった。
男の一人が政宗の制服のベルトに手をかけ、下着ごとずり下ろした。
「うわっ、何だこいつ」
だが、まずはと政宗の身体へと目をやった男二人は、思わず驚きの声を上げた。
空気にさらされた政宗の身体の至る所に痣や傷跡があったからだ。
それらは昨日今日できたような生々しいものではなかったが、人の目を引くには十分だった。
「……」
男三人から見られ、政宗の身体がびくついた。
それにめざとく気付いたのは佐助ぐらいだったが、
その強張りが男二人と同様多少の驚きを見せていた佐助を我に返らせる。
「……ほら、ヤるなら早くしないと」
佐助がそう声を掛け、促す。
それから、男二人の隙をついて再び暴れかけていた政宗を腕の力を強めて押さえ込みながら、大仰に言い添えた。
「あ、そうそう、油かなんか無いとやっぱ厳しいらしいよ〜 元々挿れるとこじゃないし」
「油ぁ? お前持ってんのかよ」
佐助の言葉と、悔しげに男達を見上げている政宗の目に煽られ、男二人の収まりかけていた性欲が再び顔を出した。
別に女の絹肌を期待していたわけでもないし、興味があるのは男とヤることそのものだ。
見てくれが多少悪かろうが大した問題ではない。
「……調理室のサラダ油とかでいいんじゃない? あれならあるでしょ」
少しの沈黙の後に、それを持ってくれば、と佐助は提案し、
そのついでに、俺様は行けないけどね、と釘を刺した。
「なら、お前行って来いよ。先にやらせてやっから」
「お前、それ面倒なだけだろ」
やや不満そうに言い返すが、男の一人がいそいそと教室を出て行った。
残った男と佐助はとりとめのない会話を始める。
一方の政宗はそれどころではなかった。
先程身体が強張ったことで自分の身体の状況を自覚した。
油断していた。忘れられたと思っていた。そんなわけないだろうに。
それから、政宗は残った男二人の様子を窺った。
一人減っている今であれば、何とか抜け出せないだろうか。
だが、焦った頭では思い付くものも思い付かないし、両手を押さえつける手が弛む様子もない。
だったら、隙を作り出せばどうだろうか。
男の一人にまだ何とか自由の効く足で蹴りでも入れたら、一瞬でも隙ができるはずだ。
急がなければ。一刻も早く、ここから、この状況から抜け出さなければ。
「っ…!」
蹴りをお見舞いしてやろうと、足を動かしたと同時に、男の手が動き、政宗の足の付け根を握った。
思わず声が漏れ、それに政宗の頬に朱が走る。
「何だぁ? ちょっと握ったくらいで、もう気持ちいいのか?」
「っざ、けんな、誰が…っん…」
握った手が動いて、そこを扱かれた。言い返す言葉は、最後まで言えずに息を漏らした。
男が味を占めて、更に腰や尻を撫で回し始めた。
「ああ、そんな感じでいいんじゃない? 気持ち良さそうだし」
頭の上で佐助がそう言った。
「少しは慣らさないと、こっちもキツイしねえ」
何が慣らすだ、何が気持ち良さそうだ。
手の動きは乱暴そのものだ。腕や足を押さえられていなければ、殴ってやるし、蹴り飛ばしてやるところだ。
しかし乳首や性器など感じるところばかりを弄られると、声が漏れてしまう。
どうしても行為そのものに反応を示してしまう自身の身体と男達に向かって政宗は吐き捨てた。
「…Shit…!」
それと同時に、強く握られ、またも声が上がる。
男の手の動きに翻弄され、抵抗することも出来なくなってくる。
「…ひっ…」
突然、下半身に冷たい感触が走り、意識を戻された。
いつの間にか戻ってきていた男が、持ってきた油をだらだらと垂らしていた。
油に滑る下半身がひどく気持ち悪い。
「そろそろいいんじゃねえ?」
その声と共に、男が自分の服をずりおろし、性器を露わにする。
随分と興奮した様子のそれがまともに目に入り、流石に顔が青ざめた。
油を垂らしただけで、中はろくに慣らされてもいないのだ。
無意識に助けを求めて目が泳ぎ、頭上の佐助と目が合った。
冷笑しているのに、佐助の顔には何の感情も浮かんでいなかった。物を見る目と同じだ。
それに気付き、しかしその瞳の奥に隠された感情には気付くことなく、
ぬるま湯のようだと思っていたこの学校にもこういう男がいたんだな、と少しの恐怖と共に政宗はただそう思った。
同時に、熱の塊を無理矢理中にねじ込まれた。
「うああっっ――!!」
音を発した口は、しかしすぐに佐助の手によって塞がれた。
猛った男根が強引に狭道を割り開き、奥を突こうとますます入り込んできた。
「うっ、ぐ…っ!」
呻き、目尻に生理的な涙が込み上げてきた。
「すげぇっ、締まる…っ!」
息を荒くさせ、男は笑いながら腰を揺さぶり続け、中に精液を打ち込んだ。
その勢いと熱に、政宗がびくりと跳ねる。
濃い粘液をを吐き出し、男が萎えたものを中から抜くと、すぐにもう一人の男根が政宗を刺した。
「っう、んっ、ぐ…うっ」
塞がれた手の中で喘いでいたが、不意に口を覆っていた手が離される。
代わりに指が口の中を掻き回し始めた。唇の端から唾液が零れ、声は濡れを帯び始める。
中で出された精液が滑りを良くし、奥を抉られた。
「あ、あ…っ」
奥への刺激と律動が快楽を呼び起こし、嬌声が零れた。
「やべ、意外とクるわ」
政宗の声に再び欲情してきた男は、もう一人が抜くがいなや、再び勃ちあがったものを挿れた。
「猿飛、次やるか?」
抜いた方の男が佐助に声をかける。佐助は政宗の口中を弄りながら、気のない返事をした。
「今日バイトあるからね。体力残しときたいんだよねえ」
「老けたこと言ってんな、お前」
「あはは、放っとけ」
笑いを漏らしながら、二人は政宗を嬲り、犯し続ける。
佐助は政宗を冷たく見下ろし続ける。
政宗の両手を押さえつけていた佐助の手は最早無かったが、それに気付く余裕すら、政宗には無かった。
自由の効かなくなった身体では、最早抜け出すことも逃げ出すことも不可能だ。それだけは分かった。
「……」
政宗は目を閉じる。快楽の波に押し流されながら、この上は、これが早く終わってくれることを漫然と願った。