「……てよ、先生。戸締まりなら俺がしておくから」
どこからか声が聞こえ、微睡みから現に意識が戻っていく。
目蓋も身体も重く、まだ開かなかったが、無理矢理飲み込ませられた精液が、腹の中で吐き気を呼んでいた。
 ドアがゆっくりと開く音が聞こえ、指の先が無意識にピクリと動いた。
「ひどい格好だねえ」
苛立たせるように軽い調子で声をかけられ、それが政宗に重い目蓋を開かせた。掠れた声で呟いた。
「……まだ、何か、用、か……」
身体はまだ動かないので、横目で側まで近付いてきた佐助を俯せたまま睨んだ。
佐助は冷笑し、膝を屈めた。
「あれぐらいじゃ、物足りないと思ってね」
佐助の指が背中に触れ、身体の線をなぞりながら下りていく。
「…っ…」
身体が勝手に反応し、政宗は身動いだ。
指が後孔に触れられた時、吐息と共に声が漏れた。
「中すげーぐちゅぐちゅしてるよ、分かる?」
そう言い、挿れた指でわざと音を出して中を引っ掻き回した。
「あっ、っんん、あ」
卑猥な水音と自分の嬌声に、政宗は唇を噛む。
「やらしい声だよねえ、そんなに気持ちいい?」
「だれ、がっ!」
強がるが増やされた指の動きに、政宗の声は高くなるばかりだった。
 中から指を抜かぬまま、佐助は俯せている政宗の腰を引き寄せ、膝で立たせる。
背後から腕を回し、勃ちあがりかけたそれに手を掛けた。
「…っは!」
逃れようと身を捩りかける政宗を押さえ、やや乱暴にしかし感じるように扱いてやる。
後孔に挿れたままの指もついでに動かしてやれば、度を過ぎた刺激に堪えることさえ出来ずに濡れた声が絶え間なく漏らされた。
 後孔から指を抜き、政宗を引き寄せてから、背後から抱き締める形で前への刺激を更に与えてやる。
先端に爪を立て、軽い痛みと激しい快楽それぞれを調整しながら絶妙な加減で与え、政宗を限界へと追いやっていく。
「ねえ、イきたい?」
故意に音を立てて耳の中を舐め回し息を吹きかける。
達しないようにさせながらも手を動かすのは止めなかった。
「や…っ…ぁ」
上手く言葉を紡げない唇で何を言う気かは、おそらく政宗自身ですら分かっていないだろう。
だから佐助は殊更優しい口調で囁いた。
「ほら、言ってごらん」
限界へと誘う手の動きを暫しの間だけ止めた。
気が狂いそうな快楽と達したいという欲望とそれを誘う甘い言葉に、朦朧とした意識が拒絶できるはずも無かった。
「あ…ぁ、早、く…っ」
達したい、イかせてくれと懇願する彼を冷たく見遣った後、佐助は静かに唇に笑みの形をつくる。
あのプライドの塊のような男が、浅ましく己に願っている。尊大な顔は色に溺れ乱れている。声に出すことなく、佐助は笑った。
「…良い子だね」
声だけは優しいままで、前を掴んでいた手で乱暴に一気に責め立てた。
悲鳴に似た喘ぎを上げながら、身を震わせて政宗は精を吐き出した。

 手を離されれば、力の入らない身体はそのまま崩れ落ちる。
床に顔を付け俯せ、政宗は胸で荒い呼吸を繰り返していた。
 その呼吸が落ち着いてくると、あたかも彼方に彷徨っていたような遠い意識が少しずつ戻り始めた。
そしてそれは、突然響いたバイブ音ではっきりとした。
「…電話だねえ」
止めようと伸ばした政宗の手を簡単にすり抜け、彼の学生鞄を探り、バイブ音を鳴らす携帯電話を取り出した。
「…よ、せ…っ」
掠れた、弱々しい声での制止に佐助が従うはずもなかった。
今の時刻ははっきりとは分からないが、窓から見える薄橙の空から、もう夕暮れであることは自ずと分かった。
待ち合わせは夕方、ならば電話の相手は、元親以外考えられない。
「…モトチカ…」
無感情に呟いた佐助の瞳が冷たく光り、更に温度を下げたような気がした。
だが佐助はすぐに笑顔で政宗の方に振り返った。
「へえ、これ? あんたの相手って」
その優しい声音と笑顔とは裏腹に、瞳は凍りつきそうな程に冷たい。
背筋に寒気が走り、近付いてくる佐助に恐怖を覚えた。
 佐助が携帯の通話ボタンを押すと、多少苛立った様子の、しかし心配も含んだ声が聞こえてきた。
『政宗! お前何してんだ!?』
文句を言いながらもその声は余りにも元気で温かく、昨日も会ったというのに、ひどく懐かしかった。
知らず助けを求めようと声が出かけたが、掠れた音が零れるだけだ。
電話の先に届くはずもない。
『おい、聞いてんのか、政宗!』
そして、唯一の救いの手であるその細い糸は佐助に握られている。
何も出来ずに、ただ助けを求めるだけの己があまりにも不甲斐ない。政宗は唇を噛んだ。
「何だ、話したいの?」
佐助がゆっくりと近付き、電話も近付いてくる。恐怖と救いとが同時に。
恐怖にすくんだのか救いを望んでいるのか、身体は動かない。
無様に這いつくばり、弱々しく睨むことしか出来ない。
「ほら、愛しい元親君だよ」
「っ!」
コトリと目の前に携帯が置かれる。
そこから変わらず元親の五月蠅い声が聞こえてくる。
「…っち、ぅあ…っ!?」
抑えきれず呼びかけた声が上擦った音へと変わった。
背後に回った佐助に抱きすくめられ膝を立てさせられると、先程精を吐き出し萎えたそこを掴まれた。
逃れようとする前に激しく扱かれる。
「…あっ、んぁっ…!」
慣れた身体は吐精したばかりであるにもかかわらず、たちまち反応を見せ始め、声は再び色を帯び始めていく。
「は…ぁっ、んん…っ」
『政宗?』
目の前に置かれた携帯に当然嬌声は届くはずで、電話向こうの元親から不審そうな声が返ってきた。
「…っち、か…っ!」
恐怖と快楽に支配された頭では冷静な判断など出来ない。
だから聞こえてくるこの声だけが縋れる糸であり、自然その声に助けを求めようとした。
「…い…っ…!」
その瞬間握られていた先端に爪を立てられ、次いで菊門に固く熱いものが宛がわれたのを感じた。
「聞かせてやりなよ、やらしい声」
背後から低い声でそう囁かれ、その直後に熱の塊が中に入り込んできた。
悲鳴を上げ、喘ぎながらイヤだと懇願する。
それに応え、逆に焦れったい程ゆっくりと、じわりと確実に最奥へと向かう。
辿り着けばずるりと抜け、滑った中を緩やかに刺してくる。
その律動に合わせて悲鳴混じりの嬌声を上げながら、政宗の脳が言い知れぬ恐怖に覆われていく。
情欲と恐怖に身体を震わせる政宗に、元親が呼びかける。
『…政宗、今どこだ?』
それだけ聞かせろ、と言い縋る元親の存在が今は唯一の救いだった。
だからもつれる舌で、政宗は必死に言の葉を紡ごうとする。
「……あ、…っ、う…」
喘ぎの合間を縫う音がまともな言の葉になるはずもなく、それでも伝えようとする程、その口からは嬌声が零れ落ちていった。
 政宗を四つ這いにさせ、後ろから貫いていた佐助が、そのまま政宗の上にのし掛かってきた。
両者の身を繋ぐ楔が更に奥へと入り込んでくる。水音が耳からも政宗を犯していく。
「ひ、あぁぁ…っ!」
『おい政宗、政宗!』
水音と嬌声ばかりの音の隙間から、元親の声が聞こえる。
電話がまだ繋がっている。
苦痛と屈辱と快楽が入り混じれる中、恐怖だけが確固たる形を成して己の心に突き刺さる。
それを和らげ煽りもする彼の声に、言の葉を発せられぬ喉と舌が震えた。
代わりに願うように、強請るように、脳は救いを求めた。
 呼びかける元親の声が無慈悲に途切れた。
すらりと伸びた指が携帯電話の電源ボタンを押したのだ。
それを半ば呆然と眺めていた政宗に佐助は声をかけた。
「残念でした」
自身を貫いていた楔をずるりと抜かれ、その刺激に身体が跳ね、色めいた喘ぎが零れるが、
背後に振り返り、冷笑している佐助をせめてと睨み付けた。
「そんな顔で凄まれてもねえ……」
呆れた様子で大げさに肩を竦め、それとも煽ってるの?と笑う佐助を変わらず睨み続ける政宗の視線は、
それで射殺せるならば疾うにそうしているであろう程に激しい憎しみと殺意を迸らせている。
お前などには決して屈服しない。
お前の思うようになどさせるものか。
その瞳は確かにそう言っており、それこそがコレの本質だ。
だが、それが今はどうだ。
睨みつけるその瞳には、憎しみに加え、ありありと恐怖が浮かんでいるではないか。
佐助を認め、佐助に怯えているではないか。
佐助は嘲笑った。
「……ねえ、当然あんたもこれで終わりなんて思ってないよね?」
「……っ」
唇を戦慄かせ、歯を食いしばる政宗を仰向けにして、佐助は彼を見下ろした。
「もっと泣き叫んでさ、壊れちゃえばいいよ」
そうすれば、俺のこと刻みつけられるでしょ。

























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佐助は表面サラサラ内面ドロドロの典型例。

次はアニキの出番です。