――鳥肌がたった。 戦場独特の障気のようなものが立ち込めていた。 久々に感じたそれに、体内で血がたぎり、背筋がゾクゾクとする。 雪に埋もれていた竜が目覚めて暴れ出そうとしている。 「狂っちまいそうだぜ・・・!」 目の前で火花が散っている。 手のひらに馴染む刀の感触。 『帰ってきた』ようなこの感覚。 「Hey guys!Are you ready?」 背後で上がる応える声がさらに気分を昂揚させる。 堪らず刀を鞘から抜き、天高く掲げた。 鈍く光る刃に、鋭くぎらつく隻眼。 「Let's party!!」 我慢出来ず、そのまま熱の渦に飛び込んだ。 何人斬ったか最早分からなかった。 なぜか戦場は無音だった。 ただ、この確かな手ごたえに体が震えるほどの狂喜を感じる。 逃げ惑え、ちっぽけな存在。 ひれ伏せ、力のない存在。 「ひ・・・ええぇっ・・・・・!」 恐慌状態の敵兵が目に入った。 戦意を失っていることは一目瞭然だった。 それでも相手に向かって刀を振り上げた。 「っ―――・・・!」 ふいに脳裏に響いた声が刀を振り上げた腕を止めた。 いや、その瞬間身体中の筋肉が、呼吸が、時間さえ止まった。 声が響けばそこからはあっという間で、彼女の顔が、声が、仕草が、走馬灯のように流れた。 愛しい愛しい、たった一人の女。 ――ああ、俺はただ、アイツに誇れる人間でありたい。 そう思った瞬間、急に政宗の耳に音が戻ってきた。 数多のかけ声や悲鳴が一気に知覚され、血と汗と砂埃の匂いに満たされる。 青い陣羽織にできた赤黒い染みを苦々しく思った。 「Shit・・・!」 完璧に、久しぶりの戦場の瘴気にあてられていた。 我を失ってただただ力を振るうことに狂喜し、酔いしれていた。 自分がやっているのは虐殺ではない、戦だ。 目の前で相変わらず脅えている敵の雑兵から目をそらし、刀を下ろす。 「政宗様!ご無事ですか!!」 「おう、小十郎。」 血塗れた刀を左手に携えた小十郎が駆け寄ってきた。 我を失った自分は小十郎を振り切って刀を振りまわしていたようだ。 さっきまでと様子の違う政宗を見て、小十郎は安心したように少し目を細めた。 「久しぶりの戦場に、少々あてられましたか。」 「言うな、自分に嫌気が差す。」 「・・・やはりと出会ってから変わられましたな。」 戦場に似つかわしくない穏やかな笑みを浮かべた小十郎に、 政宗は居心地が悪そうに眉根を寄せてむすっとした顔をした。 「唐突に何だ・・・? それより小十郎、さっさと終わらせて帰るぞ、着いて来い。」 「ご存分に成されよ!あなたの背中は私がお守りいたします!」 双竜は不適に笑い合うと、ゆらりと刀を構えた。 さっきとは少し違った研ぎ澄まされた感覚がする。 一呼吸置いてから、政宗は駆け出した。 もう大丈夫だ。 確かな澪標が、いつだって自分を導いてくれるから。 |
<戻> <進>
「ひ・・・ええぇっ・・・・・!」 にはゲームで恐慌状態になった敵の雑兵の声をあててください。(笑)
政宗様はやっぱり戦場の人だと思うので、政宗様自身が自分の変化を感じ取れるとしたら、
やっぱりそれは戦場でだと思うのです。
あとこんな話でも政宗様の陣羽織には必勝の刺繍がしてあります か ら !
多分あと2話か3話で終わりです。