「はー・・・月がキレイだなあ・・・。」
夜空を見上げてそう口に出せば、自分の吐いた息で眼前が白く曇った。
昼間は雨が降っていたのに、今では漆黒の中に金色の満月がはっきりと輝いている。
写メでも撮っておこうかとは一瞬考えたが、すぐに思い直した。
以前同じことをして、自分の携帯ではうまく写らなかったのだ。
というより、携帯の機能云々の問題ではないのだろう。
直に見るのがやはり一番美しいのだ。
「お腹すいた。」
月を見上げたまま歩きながら、ぼそっと呟く。
県外の大学進学を機に春に実家を離れて一人暮らしを始めてから、あっという間にもう師走に入った。
未だに自炊はあまり出来なくて、大学に持って行く昼食も専らコンビニ弁当だ。
そして今晩はコンビニに行くのさえなんとなく面倒くさくて、さっさと家に帰ってカップ麺で済ませる予定だったり。
一人暮らしを始める前は「1ヶ月以内に餓死する」なんて大袈裟なことを言っていたものだが、
世の中便利なもので、『買えば食べられる』のだ。
年末には実家に帰って、おふくろの味を味わうとしますか・・・。
「・・・って危な!」
上を見たまま歩いていたせいで、うっかり足元の水溜りを突っ切りそうになった。
今年買ったばかりの新しいブーツを汚すわけにはいかない。
誰だよ、上を向いてあるこうだなんて危険なことを言ったのは。
――と、その水溜りに月が映っていることに気が付いた。
小さな池の中で揺らめきながらも輝きを放つ満月。
「わ、なんか風流だ。」
思わず水溜りのそばにしゃがみこんで、月を覗き込んでいた。
あれだなんだ、某テレビ局のアニメみたいだ。
水面に映った月へ飛び込むと、過去と現代を行ったり来たり出来る話。
それってちょっと面白いよなあと思う。
元の自分の世界に戻れる確証があるのなら、過去に行けるのは楽しいかもしれない。
「えっへっへっ!」
年頃の娘が出す笑い声ではないとは思いつつも、ちょっとした好奇心にかられて、揺らめく月に手を伸ばした。
身体を前に屈めた拍子にマフラーがずり落ちそうになって、もう片方の手で押さえる。
そして冷えた水――月に触れた。


「っ!?」


――唐突に目の前が闇に覆われた。
ガクンと足元がなくなるような感覚がして、背筋がヒヤッとする。
何も見えない。
耳の奥でキンと音がして痛い。
空気がうねるように蠢いていて、急激に気持ちが悪くなった。
怖い。
なにこれ。
早く明るいところへ。

そう願った瞬間、見覚えのある金色に世界が染まった。


――あ、この金色、月の色だ。







<進>







某テレビ局のアニメというのは雅なお子様が平安時代から来るやつです。