一 寸 法 師 ?
〜楽屋裏〜


「おーーーし、カットーーー!! クランクアップだお疲れー!!」
「お疲れー」
「お疲れさま! はー、終わった終わった」
「いや待て!! まだ終わってない! 真の戦いはこれからだッ
「? どうしたロイ。とってつけたように勝利セリフなんか言ってみて」
「あからさまなフォローをどうも。……じゃなくてだな!
 おい、まず父上!」
「おや、どうしたんだい? 息子よ。お互い名演技だったな、ははは」
「自分で名演技とか言ってんじゃねえ!
 ああもうそんなことはともかく、一体何なんだよアレはっ」
「あれ、とは?」
「第四幕の例の場面だ!! あきらかにおかしいだろうが!!」
「ふむ。第四幕か。あれは私もおかしいと思っていたのだが」
「なら撮り直せっ」
「いきなりのアドリブで、よくもまああれほど自然に話が進んだものだと……」
そっちかよ! つーかアドリブだあ?」
「セリフを思いきり忘れてしまってな。私も歳ということかな」
「そりゃーまあ、少なくとも俺の二倍は生きてるだろーしな。
 つーかセリフ忘れたんだったら素直に止めろよ!!」
「私が止めると、色んな人に迷惑がかかってしまうだろう?
 せっかくかわいらしい演技をしてくれていたマルスにも悪いしな。
 というわけでアドリブをしたわけだが、我ながら良かったと思っているところだ」
「全然良くねえよ!! 一体何っ……マルスを押し倒すなんてそんな羨ましい!!!
「ははははは。正直は素晴らしいことだぞ、ロイ」
「てめえはもう少し自粛しやがれ、ったくいい大人が……!!」


「……ロイは何怒ってんだ?」
「んー、何か、例の場面のことで怒ってるみたい。
 自分はいつもやってるくせにねぇー」
「? 例の場面?」
「……ああ、リンクはそっか、ごはん食べてたんだっけ。
 ……言ってもいいのかな」
「……な、何だよ。別にいいから、言ってみろよ」
「…………。
 ……んーと、まずこのたまねぎをマルスさんだとして……」
「何でこの場にたまねぎがあるんだろうな」
「さあ。
 で、僕がエリウッドさんだとしてー」
「うん」
「エリウッドさんが、マルスさんに、こんなふうに、こう……」
「…………………………」
「リンク、リンク。台本潰さないで。
 はい、どうせなら、こっちのたまねぎ潰して」
「……このたまねぎマルスなんだろ? 潰せるかよ……第一もったいないし」
「リンク、混乱してるよね? 大丈夫?
 たまねぎはたまねぎだよ、マルスさんじゃないよ。
 確かにもったいないけどね」
「……マルス! マルスはどこだ!?」
「さっき、ダークさんと二人で着替えに……」
「……ダークと……!?」
「ほら、二人ともずるずる着物だったから」
「…………。……まあ、ダークなら、大丈夫……か……。」
「そうだねえ。どっちもここではおんなのこ役だものね」
「……ダークもマルスも男だろ?」
「こっちの話。気にしないで」


「……くしゅんっ!」
「? 王子?」
「え、あ、うん……。何でも……」
「……かぜ? か?」
「いや、誰か噂をしているんだと思う」
「……うわさ?」
「僕のことを、どこかで誰かが話しているってことだよ」
「…………。
 ……人間は、自分のうわさがわかるのか」
「うーん……。そういうことじゃないんだけど……。」


「大体なあッ、何で俺が一寸法師なんだよ!? この脚本書いたの誰だ!!」
「さあ……。何か、空から降ってきたって、マスターハンドが……。
 で、それを俺がもらったんだ」
「マリオさんが? いやともかくっ、何で俺が一寸法師だったんですかッ!
 あああああ畜生、いつもは俺より小さいピカチュウに頭を撫でられるなんてッ……!」
「『ロイが一寸法師だったら小さいって連呼されて叫んで面白いから』って。
 台本の配役のところに書いてあったけど」
俺は小さくねええぇぇぇーーーッッッ!!!
 誰だそんなこと言ったのはー!!」
「企業秘密だそうだぞ」
「何が企業だ! 誰が秘密だッ! ああああああ腹立つ……!!」
「ところでマリオ、これ、どういう仕掛けだったの?」
「ん?」
「ほら、ロイ、豆粒サイズだったでしょ。どうやったの?」
「ああ、あれはほら、毒キノコの成分を思いきり凝縮したカプセルを」
「……飲んだの? ロイ、マリオのそんな怪しいカプセル……」
『ラストで大きくなるから』って騙されたんだよ!!
「いや、別に騙したわけじゃ……。ロイが勝手に勘違いしただけで」
「くっそ、せっかくマルスをお姫さまだっこできる日が来たと思ったのにッ……!」
「…………そんな場面はどこにもないけど」
「そこはそれ、アドリブだろ!」
「…………」
「……やっぱり親子よねえ、この二人。あー、アホみたい」


「ぴちゅー♪」
「あ、ピチュー。お疲れさま」
「ぴちゅ! おにーたん、ピチュー、びっくりしたでちゅ!」
「? 何が?」
「ロイおにーたん、『ちいさくなる』がつかえるでちゅ!」
(※ちいさくなる……ベトベターとかピッピとか、ポケモンの一部が覚えるわざ。回避率が上がる。)
「……え? いやピチューあのね、あれは……」
「ロイおにーたん、いつも『ちいさくなる』すれば、
 マルスおにーたんの『メガトンパンチ』と『メガトンキック』があたらないでちゅ!」
(※メガトンパンチ、メガトンキック……かくとうタイプのポケモンの一部が覚えるわざ。普通に打撃攻撃。)
「…………うーん……いや、それは……ロイさん的にはどうかなあ……。」
「ちゅー?」
「殴られたり蹴られたりで嬉しいっていうか……」
「……ピカチュウ、それじゃあロイが変な趣味持ってるみたいだぞ」
「いや、でも、あながち間違いだとも……」
「ぴちゅ! だったらロイおにーたん、『カウンター』をおぼえるでちゅ!」
(※カウンター……エビワラーとか、ポケモンの一部が覚えられるわざ。打撃攻撃で喰らったダメージを相手に返す。)
「…………うーん。でも……たぶんロイさん的にはマルスさんに傷をつけるのは……」
「ぴちゅー? ……ぴちゅ?
 ロイおにーたんとマルスおにーたん、ポケモンだったでちゅ?」
「…………。」
「……あのな、ピチュー。人間も、殴る蹴るは普通にできるんだぞ?」
「ぴちゅ! だったら、ポケモンはロイおにーたんでちゅ!
 なんていうポケモンでちゅ?」
「…………。」
「だって『ちいさくなる』つかえるでちゅ! すごいでちゅ!」
「………………あー、いいよ、行っておいでピチュー」
「ぴちゅー♪」

「……いいのか?」
「いいよ……ピチューの言うことだし……」


「それにしても、何でじーさん役とばーさん役がリンクとピカチュウだったんだ?」
「それはそうねえ。何でかしら」
「それについてもほれ、配役のところに説明があるぞ。
 『これくらいしか役どころが余ってなかった』そうだ」
「……余りものかよ」
「そうねえ。まあ、別に、あの二人はいいんじゃないの?
 そういうこと気にしないでしょ」
「まーな。ピーチのばーさん役とか見てみたかっ、……痛っ痛い痛い痛い引っ張るな髪!」
「あらごめんなさい。こっちの方がいいかしら」
「ひひゃっ、ひょ、ひょへっ……ひひゃいっひゅっへんはろ!」
「あらあら何言ってるのかしらー。あたしわかんな〜い」
「はわいほふるは!!」
「いやーねえあたしはいつもカワイイでしょ!! ほらほら減らない口はどれかしら!」


「……って、ゆーか」
「? なぁに? リンク」
「……どうして、マルスがお姫さま役だったっていうことにはつっこまないんだ?」
「…………」
「あきらかに、オレ達の配役よりおかしいだろ」
「…………。それは、ほら……。
 それこそ『脚本の都合』ってやつじゃ……」
「…………。」


と、いうわけで、本当におつかれさまでした。
混乱したまま脱兎。


第四幕

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