〜第一幕〜 |
むかーしむかし。 とある山奥に、一人の若者がおりました。 青い瞳に長い金髪を一つにまとめた彼は、あきらかにニッポンジン離れしていましたが、 別に異人さんというわけではないようです。 山奥にはもう一匹、黄色いねずみさんが若者に寄り添うように暮らしていました。 残念ながら(?)奥さん、ということではないようですが、 一人と一匹はとても仲良く過ごしていました。 さて、ある秋の日のこと。 若者とねずみさんが住む山は、赤、黄色と綺麗に色づき、 秋のおとずれをその全てで知らせておりました。 リスやクマが冬眠前の準備で右往左往する森の中を、一人と一匹は歩いています。 「んーと、……あ、あったー」 「ピカチュウ。枝落ちてるから、怪我しないようにな」 枯葉の中をがさごそ探して、どんぐりやら栗やらを見つけては拾うねずみさん。 枝にぶらさがったりんごを、手を伸ばしてもいでいく若者。 どうやらこの人達も、これからの冬にそなえて、秋の実りをいただいているようです。 リスやクマと同レベルというのも何だか微妙な話ですがその辺は仕方ありません。 悲しい人間のさだめです。片方は人間ではありませんが。 ともあれそんなふうに、毎年の恒例行事をもくもくとこなしていたところ。 ねずみさんが、いつものように、言いました。 「リンク。僕、向こうのほう、見てくるね」 「ああ。山、焦がすなよ」 「はーい」 たたたたたっ。 たくさんの葉っぱの上を泳ぐように、ねずみさんは走ります。 途中、 「ギャオー!!」 「あ、クマ」 どーんっ、ばりばりばりーっ。 「……ギャウー!!」 「さようなら。僕はリンクの苦労話の次に自分の命が大事なの。ごめんね」 行く手に現れたクマを、10まんボルトで撃退しつつ。 ……もちろん、絶命させてはいませんよ? これは良い子のためのニッポン昔話です、そんなマネはできません。 さくさくさくさくさく。 ねずみさんが進み、クマを撃退させるたび、葉っぱが音をたてます。 「んー、何か、めずらしいモノとか落ちてないかなあ」 時々、葉っぱを足で退けつつ、ねずみさんは何かを探します。 が、ここはごくごく普通の山の中、特別なことがあるはずもありません。 ……やっぱり、そんなに珍しいモノは無いかな? と、ねずみさんが半ば諦めかけていた、 その時。 ぎゅむっ。 「!」 何かを踏んづけたような感覚で、ねずみさんは急に立ち止まりました。 きょろきょろと辺りを見回します。 「……良かった。クッパさんのしっぽを踏んづけたとかじゃないみたい」 クッパ、って何だ。そんな、山の中に普通に生息しているものなのでしょうか。 そんなツッコミは届きませんでした。 ねずみさんはほっと一息つくと、おそるおそる足をどかします。 足の下にあった茶色い葉っぱをそっとどけると、 そこには。 「……………………何、これ」 何か、山の中にあるには、異様なものが落ちてました。 短い両手で、つぶれないようにそっと持ち上げます。 それは。 とてもとても小さな、人間のかたちをしたお人形さんでした。 どれくらい小さいかというと、ねずみさんの10分の1弱ほどです。 ちなみに人間で言うと親指くらいです。 「…………??」 そう、親指くらいの、とてもとても小さなお人形さんでしたが。 それはとても精巧に作られておりました。 はねた赤いふさふさの髪。白いハチマキのようなものを巻いてます。 勇ましい武士のようなハカマまで穿いてました。 ちなみに目は、眠っているかのように閉じていました。……珍しい。 ねずみさんは少し、首をかしげます。 「…………んー、なんだろ、これ。人形……だよ、ねえ? ……とりあえず、リンクに聞いてみよう……かなあ……」 お人形さんがつぶれないように、それなりの注意をはらいつつ、 ねずみさんは少しどきどきしながら、元きた道無き道を戻ります。 途中、クマがリベンジをしかけてきて、 うっかりお人形さんを放り投げて応戦したりもしましたが、 腐葉土まみれになっているところを、みごと探し出すことができました。 いいのです、これで。結果オーライです。 ねずみさんは、かなり適当万歳な思考の持ち主でした。 そんなこんなで、山の中。 「リンクー!」 「ピカチュウ」 ちょっと休憩でもしていたのでしょう、 切り株に座ってリス達とたわむれていた、若者の元へ辿りつきました。 ねずみさんの姿を見つけ、若者は立ち上がります。 リスが、いっせいに山の奥へかけていきました。 「あのね、こんなの、拾った」 「?」 けんめいに背伸びをするねずみさんの手から、若者はそれを受け取りました。 左手の指でつまんで、小さな小さなお人形さんを自分の顔の前に持ってきます。 そして。 「……………………何だ、これ」 ねずみさんとまったく同じ反応をしました。 「たぶん、人形だと思うんだけど。小さいよね」 「……そうだな、確かに、人形だな。小さいけど」 「何で山の中に落ちてるんだろうねえ? っていうか、やっぱり、小さいよねぇ」 「ああ、……ちょっと、小さすぎるよな……」 小さい、小さいと。 若者とねずみさんが、率直な感想を言い合っていた、 その時。 かっ!! っと、閉じていたお人形さんの目が、急に開きました。 春の新芽と青空を連想させる、碧色の瞳。 そして。 「うるっせぇ!! 小さいって言うなーーーーーーーーーッッ!!!」 ―――お人形さんが、叫びました。 その、小さい身体に見合わないくらいの、大声で。 「だーっ、だから、小さいって言うなっつってんだろーがッ!!」 誰につっこんでるんですか。 「…………」 「…………」 「ったく、どいつもこいつも小さい小さいって!! 人がどれっっっだけ傷ついてるかッ……!! ……っおい、いつまでも人をモノみたいにつまんでんじゃねぇーっっ!!」 じたばたじたばたっ。と、お人形さんは、若者の指の中で暴れます。 実際は、宙に浮いた状態で、ぶらぶらむなしく揺れるだけでしたが。 「…………」 「おいこらーっっ!! 聞・い・て・ん・の・かー!!」 「……え。……あ、ああ、悪い……」 あまりの急展開にトリップしていた若者が、正気を取り戻しました。 そして、ぱっ。と、お人形さんをつまんでいた指を、離します。 「って、おわあああぁぁぁーーーーーーッッッ!!!」 当然、お人形さんは、地面に落ちていくわけで―――。 登場数行にして死のピンチか!? と思われましたが、 その危険は、咄嗟に頭を突き出したねずみさんによって、回避されました。 「っ、とー。危ない危ないー」 ぽてっ、と、お人形さんはねずみさんの頭の上に落ちます。 「小さくって、よかったねぇー」 「だーかーら!! 小さいって言うなって言ってんだろーがーッ!!」 「……でも、小さいものは小さいしなあ……」 「うううぅぅるっせぇぇぇ!! お前っ、善良そうな顔してさらっと人を傷つけるな!!」 びしぃっ!! と若者を指差すお人形さん。 カッコよく、腰に手などあてていますが、小さいので全然様になりません。 なのに若者はちょっぴり及び腰になりながら、慌てた様子でお人形さんを見ました。 この情けなさが若者のいいところなのです。 「人の気にしてることは遠まわしにしか言っちゃいけません、 って教わんなかったのか!?」 「……そんな言い回しは、聞いたことがないな……」 「ぇえっ!? 何でだよ!」 「……普通、人の気にすることは言うな、だろ?」 「何でだよ、それじゃ言いたいことは何も言えなくなるじゃねーか」 「…………。」 どうやらこのお人形さんを作った(?)人は、ちょっとズレていたらしいです。 もはやつっこむ気にもなれず、若者ははあぁ、と大きな溜息をつきました。 そして、前髪をぐしゃぐしゃとかき乱しながら、困り顔でお人形さんに尋ねました。 「……ところでお前は、何でこんなとこにいるんだよ。 ……人間……、……か?」 「見りゃーわかんだろ」 「いや、人間にしては、ちょっと小さいから……」 「だああっ、だから小さいって言うなー!!」 ちょっと、という単語を付けたのが若者のせめてもの心づかいだったのですが、 お人形さんには伝わりません。 「ああもう、とにかくだな、俺はだなー!」 「うん」 「これも修行のうちだ! とかって、父上に、急に山の中に放り出されたんだよ。 で、どうしようかなーと思ってうろついてたら、走ってたリスに跳ね飛ばされて……」 「…………。」 若者とねずみさんはどうしても何か言いたかったのですが、 ぎりぎりのところで堪えることに成功しました。 「……葉っぱの中に埋もれてたところを、そこのねずみに拾われたみたいなんだよな」 「ねずみって言わないでよ、おちびさん!!」 「だーーーーーっっ!! だ・れ・が、おちびさんv だーーーッッ!!」 「だって、名前知らないんだもん!」 相変わらず、たった一言だけに反応するお人形さん。 ねずみさんはもっともなことを言って、それに反撃をしました。 若者は、この一人? と一匹の言い合いを、 ただ、口も挟めず、黙ってみているだけ。 「……え? 名前?」 「うん」 「…………でもなあ、この得体の知れない連中に、 急に名前を教えんのもなあ」 「別に僕は困らないけれど? おちびさん」 「あーっ、もう!! それを言うなーッッ!!」 ねずみさんの頭の上で暴れていたために、お人形さんはとうとう、ぽてっと落ちました。 葉っぱに埋もれそうになりながら、それでもお人形さんは、 ぎいぃっ、と若者とねずみさんを睨みつけます。 大きさが大きさだけにちっとも迫力はありませんでしたが、 やはり若者だけは、ちょっぴり及び腰になっていました。 やがて、根負けしたのか、これ以上小さいと言われるのが嫌だったのか。 お人形さんは、ぽつり、と言いました。 「………………ロイ」 「え?」 「だから、ロイ、だよ! ……俺の、名前!」 「……ああ……、」 ロイ。 赤い髪、碧の瞳。負けん気の強さ、その小ささ。 それこそが彼の名前でした。 「うるっせえぇー!! 小さいのは関係ねぇーッッ!!」 ツッコミは無視することにします。 ロイ、という名前を聞いて、若者とねずみさんは。 どちらからともなく、言いました。 「……一寸法師、か」 「一寸法師、だね」 「……は?」 二人はまじまじとロイを見て、続けます。 「一寸法師、か。見た目あきらかに剣士なのに、法師なんだな」 「……え? おいちょっと待てよ、俺、ロイって名前が」 「まあ、細かいことは気にしない方がいいんじゃない? 剣士でも法師でも、一寸剣士って何か、すぐ倒れちゃいそうだし」 「……いや、そういうことはどうでも……」 「あー……まあ、確かにそうだな。何かかっこ悪いしな」 「あの……俺の言うこと、聞いてるか? っつーか、聞いてないだろ」 「っていうか、確かそれ、謂(いわ)れがあったよねえ。 何だっけ? 子供は、昔、髪型が法師っぽかったから子供を法師って呼ぶ、とか……」 「ふーん。そうなのか」 「やっぱり聞いてないだろ。ってか、無視されてるよな? 俺」 「まあとにかく、このおちびさんは、一寸法師だね」 「小さいって言うなっつってんだろーがーーーッ!!」 やはりそこには、しっかりとつっこんで。 とてもとても無邪気な顔で、ねずみさんは、爽やかに告げました。 「と、いうわけで。 よろしくね、一寸法師さん」 「ああ、よろしくな」 「…………は…………?」 何が、よろしく、なのかもわかりませんでしたが、 かくして。 お人形さん、改めロイ、改め一寸法師のお話、 はじまり、はじまり――――――……。 つづきます。 |
第二幕 |