好き、嫌いの二つだけに、どうしても収まりきらない。
思うようにいかなくて、うまく伝えられなくて、時々ひどくもどかしい。





「……ッだから、そうじゃねえって言ってんだろ!!」

リビングいっぱいに響き渡る声で、ロイが怒鳴る。
マルスはちょっと及び腰になり、かなり嫌な顔をした。
肩で息をするロイを、ぎ、と睨み返す。

いつもの二人の、痴話喧嘩だとは到底思えない、びりびりとした空気の中で。

「……そんな風に、怒鳴られる覚えは無い」
「あんたがそんな風だからだろ!! ……人の話も聞かないでッ……」
「人の話を聞かないのは、お前の方だろ!
 ……いつも、勝手に付き纏って……、……いい加減、迷惑なんだ!!」
「……ッ……、」

はっきりとそう言ったマルスを見るロイが、一瞬、悲しそうに表情を崩す。
が、それは、本当に一瞬のことで、
すぐにロイは、その顔に、少年らしい怒りをあらわにさせた。

つかつかと歩いて、マルスの真横で、ぴた、と立ち止まる。
横目で睨むマルスを、ロイは同じく、横目で睨み上げた。

「……俺が必要無いなら、……最初から、そう言えばいいんだよ!!」

吐き捨てるように言う。

リビングを抜ける際に、扉を、荒々しく閉める。
マルスの背中から、ばんっ、と、大きな音がした。

急に、広いリビングが静まり返る。

「……」


『……   必要無いなら、最初から   ……』


荒れた声が、耳に焼きついて、離れない。
力無く下げた腕の先、知らない間に汗ばんでいた手のひらを隠すように、
強く、手を握り締める。


仕掛け時計がやけに賑やかに、昼の三時を告げた。


**********

ゼロ・フォーチューン
第一話  

**********


いつもと違う。
何か変だ、と最初に気づいたのは、ピカチュウとダークリンクだった。
その話を持ちかけられたとき、話の内容よりも先に、
ピカチュウはともかく、ダークリンクが気づいた、ということに驚いてしまった。
不覚にも。

でもそういえば最近ダークリンクは、何があったのか、
暇があれば誰かをじっと見ているような気がする。
……他人に興味を持つようになったのは、ひとえにピカチュウのお陰なのだが、
その話はまた別の話。

「……で、いつもと違うって、何がだ?」

組んだ足の上に座るピカチュウに、リンクは問いかける。
それは、単純に疑問、という問いかけ方では無かった。
自分にも考えがあって、それが正しいかどうか、確かめたい。
そういう問いかけ方だった。

ダークリンクをちら、と見、リンクをふっと見上げて、
ピカチュウは小さく溜息をついた。

「ロイさんと、マルスさん」
「……」
「もう、まるまる二日喋ってないんだよ。びっくり」
「……そう、か」

淡々と告げたピカチュウから視線を逸らし、はあ、と大きく溜息をつく。
ピカチュウと、おそらくダークリンクも。
考えていたことは、リンクとほぼ、同じだった。

ロイとマルス。
あの二人の仲の良さは、屋敷中の誰もが知っている。
今まで、
ロイが一方的に怒っているとか、マルスが異常に不機嫌だとか、
そういうことは何度もあった。後者は特に。
けれどそれでも、こんな風に空気が重い、なんて、一度も無かった。

一体何があったんだろう。
下手に訊くと、かえって事態をこじらせてしまうような気がして、
リンクもピカチュウも、訊けずにいる。

「……いつも、好きー、ていう気持ちがいっぱいだから。
 ……だから、それが急に見えなくなると、何だか嫌だねぇ。
 こっちまで、なんとなく、気分悪くなってくるみたい……」
「……そうだな……、」

「……」

リンクとピカチュウが、同時に溜息をついた。
しばらく、沈黙が続く。

「……あ」
「どうしたの?」

やがて、ふ、と弾かれたように、リンクが顔を上げた。
ピカチュウをソファーの上に移動させると、立ち上がる。

テーブルの上の財布とカゴを手に取って、言った。

「買い物」
「買い物? ……あれ、今日の買出しって、」
「ロイとマルス。オレが変わったんだ」
「……。……そう、だね」
「ああ……。……おい、ダーク」
「……?」

頭の上にするりと上ったピカチュウの頭を撫でながら、
不本意そうに、名前を呼んだ。
呼ばれた当の本人は、不思議そうに首をかしげて。

「買い物、付き合ってもらえるか?
 オレ一人と、ピカチュウだけじゃ、無理だから。色々」
「……わかった」

リンクの言葉の意を大して考えもせず、ダークリンクは素直に立ち上がった。

「それ、メモ? ……あれ、何か、いつもより多いねえ」
「ほら、例のアレだよアレ」
「え? ……ああ! そうか、そんな時期なんだね。だから……」

「……」

リンクとピカチュウがのんびりと話している、その少し後ろで、
ぼうっと、何かを考える。


   ******


「……わあ、綺麗でしゅ〜」

女性客でごった返している洋菓子店。
ピンクと金色とで綺麗に包装された、ディスプレイのチョコレートを見ながら、
プリンは思わず、ぽつりと呟いた。
その後ろでピーチが、それを覗き込む。ほう、と溜息をついた後、胸を張って言った。

「綺麗よねぇ。……でもほらっ、気持ちの問題よ!
 食べちゃえば、見た目なんか、わからないんだから!」
「でしゅね! リボンとか、紙とかは、剥がしちゃうでしゅね!」
「そうそう! それでいいのよそれで!」

言って楽しそうに笑う二人の会話は、なんとなく噛み合っていない気がするが。
突っ込んだら突っ込んだで文句を言われそうな気もするし、
突っ込まなければ突っ込まないで、自分の気が、少し収まらない。

目の前で展開される会話を適当に聞き流しながら、マルスは溜息をついた。
その腕には、いっぱいの紙袋が一つ、やんわりと抱かれている。
マルスは抱えた紙袋の中身を見て、不思議そうに首をかしげた。
続いて商店街をぐるりと見渡し、更に不思議そうな顔をする。

紙袋の中には、小麦粉、砂糖、大量のチョコレート。
そして商店街には、あちこちにチョコレートがモチーフのポスターが貼ってあった。

ピンクと金色、白、様々な色で鮮やかに飾られた商店街。
チョコレートの売り場には女性客が殺到している、最近。

マルスには、それの理由が、さっぱりわからなかった。

「……あの、」
「なぁに、マルス? ……ああ、悪いわね。買い物につき合わせちゃって」
「あ、いえ……。それはいいんですけど……」

片腕に紙袋を抱えたピーチは、にっこりと笑う。
マルスはピーチの気遣いに対して、慌てて首を振ると、辺りを見回しながら、言った。

「ん? 何、何か訊きたいことでもあるの?」
「はい。……あの、どうして最近、
 ……商店街は、チョコレートばかりなんですか?」

紙袋を気にしながら、マルスはおずおずと訊ねた。
ピーチとプリンは、きょとん、とした目でマルスを見ると、

「……ふふっ……、」
「……ぷゅ〜……」

やがて、二人で顔を見合わせて、くすくすと笑い出した。

「? あ、……あの、僕、何か変なこと、訊きましたか……?」

その様子を見て、マルスはやはり慌てる。
世間知らずだと思われただろうか。
プリンはふわん、とマルスに近づくと、楽しそうに言った。

「マルスしゃん、もうすぐ、とても素適なイベントがあるでしゅよ」
「……イベント?」
「ええ。そうよ、この“世界”の風習みたいなんだけど」

プリンの言葉の続きを、ピーチがつなぐ。
豊かな金髪を手で払い、その顔は、やはり楽しそうだ。

「自分の好きな人に、想いを込めて、贈り物をするのよ。
 2月14日。
 チョコレートとか、クッキーとか、甘いものが多いみたいね。
 愛は、甘いものだからかしらね」
「……そんな風習が、あるんですか……」
「ええ。知らなかった?」
「はい……。今まで、少しも」

マルスはあまり商店街には出ないので、こういうことには疎(うと)い。
ピーチはゆったりと微笑み、マルスの耳に、そっとささやく。

「マルスも、いるんじゃない? 好きな人とか。
 うまく伝えられない想いなら、このイベントは、いいチャンスだと思うけど?」
「……、」

ぴくん、と、男性にしては細身の肩が、揺れる。
それを見逃すピーチではない。

「……伝えたい、想いなんか、無いです」
「強情ねえー……。……まあ、いいけどねー。あたしには関係無いし」

片手をひらひらと振って、わざとらしく言ってみせる。
マルスは不機嫌そうな顔で、ピーチを睨むようにみた。

でも、と、ピーチが、見透かしたように言う。

「女の子は、恋愛のことなら何でもお見通しなのよ」
「……」

マルスの瞳が、揺れた。
賑やかな外の世界が、一瞬だけ、静まり返ったような。

許してない。
自分に否は無い。
あれはあいつが、勝手に怒っただけ。
何も悪くない。
許す気も無い。


『……   俺が、必要無いなら   ……』


静かな部屋の、言葉がよみがえる。

「……まあ、とりあえず、屋敷の皆に、迷惑はかけないでよね?」

マルスなら、わかってるとは思うけどね。
うつむくマルスの肩を、ぱんっ、と軽く叩いた。
ピーチがドレスをなびかせて、プリンと共に先を行く。


   ******


「……違う、ゼルダ。こっちは、ここに通すんですよ」
「え……? ……あ、こちらですか。……私、また間違えて……」

不器用で、何も出来なくて、どうしようもありませんね、と、
長い金髪を後ろにやりながら、ゼルダははにかんだ。
別にそれでも、いいんじゃないですか? と、軽い調子で言うと、
ロイは、前に広がる茶けた地面に、目をやった。

とことこ、と、小さな子ねずみが、やってくる。
それと一緒に、ピンク色の、まるい生き物も。

「ロイおにーたん、あっちに、きれいなお花があるでちゅ」
「食べられるかなー。ねー、知ってる?」
「花……? ……悪いけど、花のことはサッパリだなー。
 ごめんな、ピチュー…… ……で、カービィ」
「はーい」
「何でも食い物だと思うな。以上」
「えー」

何か、ピチューと扱い違うよう、と、カービィは短い手足で訴える。
ロイはそれを適当にあしらうと、ピチューの頭を撫でてやった。
ピチューが嬉しそうに鳴く。

そんな様子のピチューを微笑ましい気持ちで見ながら、
ふ、と、横のゼルダに目をやる。
慣れない編み物に挑戦しているゼルダの手は、やはりぎこちない。
王族ってこんなもんか、と、誰かを思い出しながら、思う。

そしてその『誰か』を思い出した瞬間、ロイの表情が、一気に曇った。
ひどく不機嫌そうな顔になる。

自分は悪くない。

「……ロイ君?」
「……え、」

どこか、地面辺りを睨んでいたロイに、ゼルダが怖々と声をかけた。
しっとりとした、聞き心地の良い声に引き戻され、
ロイは慌てて、ゼルダの手元を見た。
……また間違ってる。

「ロイ君、……怖い顔をなさっていましたけれど……」
「……何でもないですよ。それより、また間違ってますけど」
「……え?」
「ここ」

ゼルダの手から針を取って、毛糸をすくう。
二、三目、手本だと言わんばかりに編むと、ゼルダに針を返す。

「ここは、こーなるんですよ」
「……ありがとう、ございます……。」

器用に動くロイの手を呆然と見つめ、ゼルダは呟いた。
やがて、ロイを見ると、申し訳無さそうに微笑んだ。

「……本当に。こんなことに、付き合わせてしまって……」
「いいですって。……そういえば、何でまた編み物なんて、始めたんですか?」
「……え……」

ロイが口にした疑問は、純粋にただ、疑問だったのだが。
ゼルダは一瞬言葉を詰まらせると、大きく目を見開いて、ロイを見た。
ひどく慌てた様子で、頬を赤くさせる。

「……そ、それは……」
「? ゼルダ?」
「……ロ、イ君、あの! 商店街に行きませんか?」
「?? え?」

戸惑いを誤魔化そうと、ゼルダは急に切り出した。

「商店街?」
「ええ! 何だか、毛糸が足りないような気もしてきましたし、
 ……それに、ロイ君に、何かお礼をしないと。ケーキか何か、ご馳走いたします」
「……え、本当ですか!? わー、ありがとうございますっ!」

ロイへのお礼に、何が一番喜ぶか、ゼルダは知っている。
子供のように笑うロイを見つつ、ゼルダは、
なんとか誤魔化せた   と、ほっと胸を撫で下ろした。

慣れないことをするのは、全て、心に思う人の為。

「では、行きましょうか?」
「ああ!! っあー、楽しみー♪」

少年らしい、元気いっぱいの笑顔で、ロイは走っていく。

今の時期、商店街の人込みをちょっとだけ後悔する。
少し離れた位置で、ロイがカービィとピチューを抱いてる様子が見えた。


   ******


ピーチとプリンの後ろをゆっくりと歩きながら、
マルスはずっと、何かを考えていた。
できれば早く、ここから立ち去ってしまいたかったが、
ピーチとプリンの手伝いを、途中で辞めるわけにはいかない。

辺りを見回すと、華やかな飾り。
漂う、チョコレートの甘い香り。

甘い匂いは、誰かを思い起こさせる。

「……」

その『誰か』のことは、できれば今、考えたくない人のことだ。
マルスが、口の端を結ぶ。
うつむいて、半分だけ目を伏せて、じっと道を睨む。


自分は悪くない。
あいつが、勝手に怒っただけ。
人の迷惑を、考えないで。
勝手に付き纏ったりして。

自分は悪くない。
だから、自分が気にする必要も、何も無い。


「……」

それなのに、
こんな風に、想い、悩んでしまうのは、

どうしてなんだろう。

両手で抱えた紙袋が、かさ、と乾いた音をたてる。

「……あら?」
「ぷゅ……」

前を行く二人の、間の抜けた声に、思考を中断させられた。
顔を上げる。
ピーチとプリンが、人込みの向こうに、何かを見つけたらしい。

   リンクじゃない!」


      *


声に呼び止められ、頭にピカチュウを乗せたリンクは立ち止まる。
人込みに目をこらすと、自分の方へ向かってくる、
ピーチとプリン   それから、後ろの方にマルスが見えた。

自分の後ろで、ダークリンクが足を止める気配がする。

「リンク! どうしたの?」
「ピーチさん……。……ええと、買い物当番です」
「買い物当番? ふぅん……。……後ろのダークは?」

リンクの横をすり抜け、ピーチがダークリンクに顔を近づける。

「勇者に、手を貸せ、と言われた」
「へえ。……スナオになったのねえ」
「……?」

小さく首を傾げるダークリンク。
……どうやら言葉が上手く、自分の頭の中で処理できないようだ。
リンクが慌てて、仲介に入る。

「ま、まあまあ。ダークがついてきてるのはともかく、
 ピーチさんは、どうしてここに? プリンも」
「あーら。わからない?」

片手に抱えた紙袋を、ぱん、と叩いて胸を張る。
リンクはそれと、後ろのマルスの紙袋と、自分の腕のビニール袋とを見て、
ふ、と情けなく笑った。

「……愚問でした」
「わかればいいの。……それにしても、偶然ねえ」

こんな人込みで会うなんて、と、ピーチは面白そうに笑う。
リンクの頭の上では、ピカチュウと、ふよふよ浮いてるプリンとが、
どうでもいい会話を始めていた。

その後姿を、ぼーっと眺めていたダークリンクの目が、

「……」

ふ、と、同じくその様子をぼーっと眺めていた、……マルスを見つけた。

「……?」

ダークリンクの視線に気づいて、マルスがダークリンクを見返す。
彼には一度、ちょっとした理由で、剣で斬られたことがあって、
マルスは少し、落ち着かなかった。
いつも穏やかなリンクと同じ顔立ちでも、
『影』というだけで、こんなにも違うかと。

ダークリンクが、小さな喧騒の横を通り過ぎて、マルスに近づいてくる。

「……ダー、ク? ……僕に何か、用か?」
「……」

ぎこちなく微笑んでダークリンクを迎えたマルスを、
ダークリンクはただ、見つめる。

マルスの顔から、微笑みが消えた。
無表情   とも言える顔で、ダークリンクを見た。

「……ダーク……?」
「……お前は……、」

勇者と似通った声が、ぽつり、と何かを言いかける。

瞬間   



「……あ、おにーたん!」



「……え……?」

かわいらしい声が聞こえて、ダークリンクとマルス、そして、
その場にいた全員が、声の聞こえた方を向いた。

この声、この呼び方。
思い当たるのは、たった一人。

たたたたたっ、と軽快な足音が聞こえたかと思うと、

「……おにーたーん!!」
「……ピチュー!!」

リンクの頭の上のピカチュウに、がばあっ、と抱きついていった、
こねずみ一匹。
やはりというか何と言うか、ピチューだった。

「うわっ……、」

急に増えた一匹分の重みに、思わずバランスを崩しかけるリンク。
そんなリンクの苦労には少しも気づかず、
ピチューはピカチュウに、嬉しそうにすりよっている。
ちょっとだけ打ちひしがれたような顔のリンクの肩を、
ピーチが、ぽん、と叩いた。

「わーい、おにーたん〜」
「ピチュー。どうしたの? ひとりで来たの?」
「ぴちゅ」

ふるふると首を横に振る。

「いっぱいで来たでちゅ。カービィたんと、ゼルダおねーたんと、」

リンクの頭の上で、自分の走ってきた方角を、手で示した。
全員思わずそちらを向く。
楽しそうに飛んでるカービィと、ふわりと微笑んで挨拶をしてきたゼルダと、

そして。

「ロイおにーたん!」

「……」
「……」

寒いのが苦手なのか、
やたら着込んだ、   ロイ。

「……ロイ……、」

一瞬、マルスをちらっと見た後で、リンクはロイを見る。

「……リンク。どうしたんだよ、みんな揃って。
 こんな大勢で買い物来てたんだ?」

いつものように笑って、ロイはリンクに、話しかけた。
……いつもだったら、多分、ここで話しかけられるのは、
リンクじゃない   彼だ。

頭に寄ってきたカービィを適当に追いやり、
ロイはリンクが抱えたビニール袋の中身を、背伸びして覗く。

「あ、チョコだ。……あれ、お前、甘いの苦手じゃないっけ」
「オレのじゃねーよ。買い物のメモに書かれてたやつを買っただけだ」
「あはは、だろうなあ。
 ……っと、こんなことしてる場合じゃねーんだ」

リンクを見上げ、にっこりと笑う。
その表情が、どこか嘘なような気がした。

「ケーキ食いに行くんだ、ケーキ」
「ケーキ?」
「ああ。ちょっとな」
「……? まあ、いいけど。……じゃあ、オレ達は帰るな。
 ピチュー? お前は? ロイと行くのか、おにいちゃんと一緒か?」
「ぴちゅ……。……えっと、えっと、……おにーたんといっしょでちゅ」
「ん、わかった。
 ……じゃあ、ピチューはオレ達が連れて帰るから」
「まかせた。……じゃ、俺達も行きません? ゼルダ」

くる、と振り返り、何故かリンクをじっと見ていた、ゼルダに問いかけた。
ゼルダがはっと我に返り、慌てて返事をした。

「あ、はい。……それでは」

ロイの横に並び、カービィを腕に抱く。
ゼルダは歩き出し、それと同じ頃、リンクも、ピーチも歩き出した。
ピーチのご一行も、どうやらリンク達と一緒に、帰ることにしたらしい。
用事は済んだから。

「……」

ピーチ達の背中を追いかけたマルスが、ふと足を止める。

「……ぁ……、」

ゆっくりと、振り返った。
複雑な表情で、たった一つ、少年の背中を追いかける。

「……、」

少年が急に立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。

「……」
「……」

睨むような、悲しむような、心の読めない、真っ直ぐな目。
人込みの中で、視線が絡む。

自分は悪くない。
自分はただ、その通りのことを言っただけ。
悪いなら、相手だ。
自分じゃない。
謝る必要も、こんな気持ちを抱く必要も無い。

嘘のように、まわりが静まり返る。


「……な、よ……。」
「……え……?」

ぽつりと、何か、呟きが漏れた。
上手く聞こえなくて、訊きかえそうとするけど、
言葉にならない。

ぎっ、と強く、睨むように一瞥すると、
ロイは再び背中を向けた。
ゼルダの名前を呼んで、小走りに追いかける。


「……」



必要無いなら、最初から、そう言えばいい。



「……」
「……マルスおにーたん?」
「……っ、」

足元から聞こえた声に、思わずびくっ、と肩を跳ねさせた。
ピチューが、不思議そうにマルスを見上げていた。

「どうしたでちゅ? みんな、かえるでちゅ」
「……ん、わかった。ごめん……何でもないから」
「ぴちゅー」

跳んで、マルスの腕の中に、するりともぐりこむ。
すりすりと頭をすりよせるその仕草に、ふんわりと微笑んで、
その頭を撫でてやった。

「……」

ロイの、真っ直ぐな背中が消えていった方を、睨むように一瞬見る。

「……、」

ふ、と自嘲気味に微笑んだ。

そして、リンクとピカチュウ、ダークリンク、
ピーチとプリンを追いかけた。
ごめん、と言いながら。

申し訳無さそうに微笑みながら、集団に溶け込むマルスと、
そして、人込みの向こうに、溶けるように消えたロイとを見て、

「……『好き』……?」

ダークリンクが、ぽつりと、呟いた。


続き→


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