069:天才




天才剣士と謡われた、一人の勇者がいる。

とにかく剣は、恐ろしく強い。
天才にありがちな努力を怠る…ことだって全くせず(むしろ努力ばっかしてる)、
修行を欠かさず、常に冷静で状況をよく見渡す。
気配だって敏感に察知し、…ごちゃごちゃ言ったが、とにかく強い。


そんな彼はとある日、「スマブラ屋敷」に招待された。
初めて見る仲間達の中に、剣士はいなかった。
ちょっと残念に思いつつも、それなりに楽しい日々を少し、数年が経つと、
スマブラ屋敷は改築され、「スマデラ屋敷」となる。
新たに仲間は増え…しかもその中には剣士がいた。3人も。

それぞれと少しずつ話してみた。
一人はまあ、自分の子供時代だから…ともかく。

赤い髪の剣士は、ちょっと背が低かった。そのことを気にしているようだった。
性格はひたすら明るく、で、熱血。
曲がったことが大嫌いで、それなりに面倒見も良さそうで。
一度剣を交えてみたところ、…まだ未熟だが、筋は良さそうだった。
本人の性格がよく表れた形の剣だった。
名前は…ロイ、とかいうらしい。

青い髪の剣士は、背は彼と同じくらい。ついでに美人だった。男だけど。
ロイとは真逆な性格で、とにかく無表情、クール。
こちらはまだ戦ったことは無いが、使っている剣と体格とで判断すれば、
多分…『流麗』な剣なのだろうと、思う。
力に頼らず、素早い動きとやわらかな剣さばきの。
名前は、マルス、というらしい。
どっかの軍神がそんな名前だったなあ、と、ネスは言った。


   ******


ある日。
リンクは剣を鞘に入れて持ち、リビングに向かっていた。
広くなった為、まだ位置がよくわからない。
確かこっちだったよな、と、適当な感覚で進んでいく。

リビングに行く用事は、特に無い。
ただ、暇だから、リビングに行けば誰かいるかな、と、そんな理由だ。

庭からは、かなりうるさい子供達の声が聞こえる。
カービィと…プリンと、子リンクと、…ピカチュウの弟、だと思う。
新しく「お友達」ができたから、嬉しいんだろうな、と思った。

階段をとんとんと下りる。
…良かった、ちゃんとリビングについた。

リビングの扉を静かに開けた。
きょろきょろと見渡す。…誰もいなかった。

「………、」

…と思ったら、扉からは死角になる場所に、いた。
こちらに、背中を向けて。
ソファーに座って本を読んでいる。…例の、青い髪の剣士   マルスだ。

「………ふぅ…、」

マルスの声が聞こえ、思わずそっちに興味が湧く。
彼は本をぱたん、と閉じると、小さく溜息をついた。
その後彼は、ぼーっと辺りを見渡し始める。
…暇なのだろうか、とリンクは思った。
そして、

「(…暇なんなら、手合い誘ってみよっかな…、)」

…なんて思った。
今まで一度も戦ってないし(なんて言っても、出会ってからまだ3週間だが)、
自分がどれだけ出来るのか、確かめるのにちょうどいいとも思う。

彼はまだ、自分に気づいていない。
折角だから、ちょっと驚かせてみようかな、と思った。
あの無表情を少しくらい崩してみたいと、
自分に少し残っている、子供心でそう思う。

彼はぼーっとしてるみたいだし、少しくらい足音たてても、きっと気づかない。
そう踏んで、こっそりと近づく。

彼はまだ、窓の外をぼけーっと見ている。
ああ美人だなあ、などと、斜め後ろからの横顔を見てそう思った。

もうちょっと。
…そぉーっと手を、細い肩に伸ばして。


   なぁ…、」
         っっ!!」


ばっしぃぃぃいんっっっ!!!

…………。


「………………」
「……? …お前…」


今の音は。
マルスが手に持っていた本を、リンクめがけて思いっきり振り上げた音。
ちなみにハードカバーだから、当たるときっと痛いだろう。
でも、
それだけじゃ、あんな派手な音は起きない、…多分。
リンクも、伊達に剣士やってない。
リンクはその見事な反射神経で、その本を、しっかり止めたのだ。

「………剣士の…やつ、だったな」
「…あ…ああ。…そーだけど」

肩で息をしながら、リンクは冷や汗だらだらでその顔を見つめる。
マルスの表情はちっとも変わっていない。

「…後ろから音もたてずに近づくのは、物騒だぞ? 何の用だ?」
「…手合いを申し込もうかなあ、と」
「それならそうと言えばいいだろ。…本を放してくれないか?」
「…ああ…」

半ば放心状態で、ぱっと手を放すリンク。
マルスは本をぱんぱんと叩くと、ソファーに本を置いた。
ソファーに寝かせてあった剣を取ると、リンクに言う。
「で…手合いだったか? …庭でやるのか?」
「…ああ、…じゃあ、庭行こうか…」

相変わらず冷たい物言いで、くるっと踵を返すマルス。
…リンクはその凛とした後姿を、呆然と見つめていた。

「……何つーか…、」

庭からはまだ、無邪気な子供達の声が聞こえてくる。

「……過激な美人だな…」

無責任にそんなことを言って、リンクはマルスの後を追った。


   ******


天才剣士と謡われた、一人の勇者がいる。

ほとんど負けナシの天才剣士が、よもや本との一騎打ちで負けそうになった、
とかいう      

なんとも、間抜けなハナシ。



その後彼が、その『過激な美人』にすっかり惚れてしまうなんていうのは、
また別の話。



039「テーゼ」で、マルスがロイに話してた話を、
実際に起こしてみました。リンクとマルスの出会い? 編です。