021:万華鏡




リンクはよく知らない、とある一件で。
ダークリンクは、よく知らないが、「きれい」というものに興味を持ち始めたらしい。
何かを感じる心が無いのだと言われたダークリンクにとって、
それは大きな進歩であり、新しい世界への、冒険だったとも言える。

が、
そうなれば当然、
被害を被(こうむ)るお人好しがいるわけで   



「…これは何だ?」
「え?」

『リンクを叩き起こして、呼んできてほしい』。

少し前、マリオにそう頼まれたダークリンクは、特に断ったりもせず、
素直にリンクの部屋にやってきた。
文字通りリンクを叩き起こすと、彼に、着替えてから行く、と言われて。
そのまま帰っても良かったのだが、ふと、
彼のベッド脇のミニテーブルに、何か見つけてしまったのだ。

片手におさまる程度の太さの、筒。
両脇にプラスチックの輪がはめ込まれており、筒全体は、
何か、ざらざらの赤い紙…和紙というが、ダークリンクは知らない…で覆われている。

そして、振ると、しゃかしゃかと細かい音が鳴った。

わからないものは訊けばいいと、言われた通りにダークリンクは、
リンクに訊ねる。

「ああ、それ。万華鏡」
「…まんげきょう…?」
「そう。万華鏡。夏祭りの、輪投げだかなんだかで貰ったんだけど、
 なんとなく置きっぱなしだったんだ」

普段そういうものは、大抵はピカチュウにあげてしまうリンクだったが、
ピカチュウは既に、万華鏡を持っていた。
…というかまあ、それもリンクがとってあげたものであり、
要するにつまり、3回投げて2回、当てたのだ。同じ万華鏡を。

「………」

じっと赤い筒を見つめて、そして振ってみる。
…使い方がわからないらしい。

そんな様子を見て、リンクは苦笑しながら、ダークリンクに近づいた。
長い髪を適当に結ぶ。
ダークリンクの斜め後ろ辺りで立ち止まると、
肩越しに、万華鏡に触れた。

「ここに、穴が開いてるだろ。レンズがあって」
「……ああ」
「それ覗いて、筒回してみな。そう使うんだよ」
「……?」

言われて見れば確かに、側面に穴が開いている。
覗くと言うからには、中に何か、あるのだろうが。

不思議に、かつ、ちょっと訝しく思いながらも、
ダークリンクは、側面のレンズを覗いた。


「………」


赤い、小さな筒の中にあったのは、

想像したことも、見たこともなかった、   色だけの世界。

言われるままに、手のなかで筒を回すと、
中の世界は、くるくるとかたちを変える。

「…どうだ? 何か、見えるか?」
「…ああ…」
「綺麗だろ」
「…これが、綺麗、なのか?」
「…そう訊かれると、困るけどな…」

じっと、万華鏡を覗いたままのダークリンクを見て、
やっぱり、ちょっと苦笑する。

「…まあ、オレは、それは綺麗だと思うけど」
「…そうか」
「ああ」

リンクが短く答えた、その少し後に、ダークリンクは万華鏡を覗くのをやめた。
手の中の万華鏡を、しばらく、じっと見つめる。

やがて、返すつもりなのだろう、リンクにそれを手渡そうとしたダークリンクの手を、

「いいよ、」

リンクはやんわりと押し戻した。

「…え…?」
「気に入ったんだろう? それ」
「………?」

気に入った、というのがわからないらしい。

「……。…だから、まあ、何て言えばいいんだろう…。…んっと、
 …それ、もう一回見たい、とか思うだろ?」
「…ああ」
「なら、気に入ったんだよ。お前は、それを。
 気に入ったんなら、やるよ。それ」
「………」

何故か少し不本意そうに、でも、どこか安心したような、そんな顔つきで、
リンクは微笑む。
ダークリンクは、そんなリンクと、手の中の万華鏡とを、交互に見つめた。

「………、」
「オレには必要無いものだしな。
 …お前の方が、大事にしてくれそうだし」
「………勇者、」
「ん?」


ダークリンクにとって、色というのは、まったく新しい世界、そのものだった。
そもそもダークリンクが生まれた、あの場所には、
色という色は、ほとんどなかったのだ。水と、細い木がひとつあるだけの、
無駄に広いだけの部屋。
自分も、影の魔物という、ほとんど黒しかないものだったというのも重なって。


「………その、」
「……。
 …こういう時は、普通は、ありがとう、って言うんだよ。多分な」
「………」

オレはもう、行くぞ?
帽子を被って、ダークリンクを促す。

「…あり、がとう、」
「……どういたしまして。」

ふ、と笑って、リンクは部屋を出た。

それを、ダークリンクは追いかける。



リンダーが好きなんだ     !!!
ロイもマルスもともかく、ダーリンさんのこの性格はあんまりだろう、と、
日ごろ常々思っていましたが、そんなのさえもどうにでもよくなりました。
時オカプレイしていない方申し訳ございません…。

とある一件というのは、095「プリズム」のことです。