ロートレックやゴッホのように「あの頃、モンマルトルに居た人々」が大好きなのですが、その一人ゴーギャンの展覧会です。わたしはロートレックがどんな画家よりも好きで、ゴッホのことは迷惑だけど絵は好きだしかわいい奴だと思っているのですが、ゴーギャンのことはゴッホとの共同生活が破綻したあのエピソードの印象が一番強く、彼のことは今まで脇役のように見ていました。今回こうして彼の展覧会があるのはいい機会だと思い、姉と観に行きました。
とにかく印象は素朴でかわいい絵だなあと言うことです。フランスに居た頃から晩年のタヒチまで、テーマは移り変わって行きますが、素朴なタッチはあまり変わりません。また、絵画の中に必ずと言っていいほど動物が描かれているのがかわいいと思いました。馬だったり犬だったり鳥だったりするのですが…。また、単純な線で踊るように描かれた樹木からも目が離せません(笑)。
展覧会では絵が描かれた年代順に並んでいたのですが、フランス時代からいい絵描いてるじゃん、と言うのが最初の印象でした。ですが時代が段々進んで行き、タヒチまで来ると、テーマと言うものが見えて来ます。フランス時代は、まだ「目に見えるものを」描いていた気がします。それが時が経つにつれて、見えているものより、自分の中から出て来るものを絵に描いている気がして来ました。
動物がかわいいと言う話をしましたが、この展覧会に来ている絵の中だけでも、足先が白い大きい黒い犬が様々な絵に4回くらい現れるのです。他にもタヒチの月の女神、折り畳まれたミイラのポーズなど繰り返し様々な絵に現れるモチーフがあり、ゴーギャンの中でそれらは何らかの象徴だったと思われます。
また、この展覧会で大きな驚きだったのは、彼がヨーロッパでタヒチを紹介するために作った木版画です。こんな仕事があったなんて知りませんでした。油絵のタッチからは想像しにくい細かいタッチで、闇の中からタヒチの神や魔物が寄って来そうな不思議な魔力を持った版画です。この版画を見ていて、以前見たバリ島の画家イ・クトゥット・ブディアナの絵画を思い出しました。
とにかく、この展覧会で今までわたしの中で「脇役」だったゴーギャンが「主役」の一人になりました。いくら彼についての本を読んでも、エピソードを知っても、やはり彼の描いた絵を見ること以上に彼を知ることは出来ないと思います。素朴で、苦悩し、自分の行きつく先について考え続けたゴーギャンと言う画家を、知ることが出来て良かったと思いました。