葦浦迷宮案内06
1階から再び3階の阿郷の部屋に訪れる。
雨は弱まることなく割れたガラス窓から吹き込んでくる。
阿郷の部屋も遺体も動かしていないのでそのままだ。
、須根を先頭に、踝、福武、飛座、とこの部屋に入る。
「くれぐれも不用意に部屋のものに触らないでくださいね」
須根が刑事として念を押す。
「わかってるよ、それより早く調べてくれ」
こんな君の悪いところに居たいものじゃないのは須根たちだって充分理解しているし、同感だとは思う。
しかし電話も通じない、下の町へも行けないこの状況では少しでも犯人に関する情報を得なければ不安で
仕方ない。第二の殺人が起こるかもしれないし、同じ屋根の下で殺人犯と一緒にいたくはない。
早く終わらせてしまおう、と二人は部屋を見て回る。
散らばった書類は雨にぬれ、字も滲んでいることだろう。あまり意味がなさそうなのでその辺りは
無視する。
「金庫が開いてますね」
福武が言う。
「踝さん、金庫には何が入っていたのか、ご存知ですか?」
「ええと・・・多分阿郷さんのことですから、現金は入れていたと思いますよ。なにせ大事なものは
肌身離さずな方でしたから・・・」
須根の質問に踝は少し考えながら答えた。
「なるほど・・・」
その中身が空っぽだということは、犯人が持っていった可能性が高い。
金庫は数字盤のなかから四つの暗証キーを押すタイプ。
「犯人はその暗証番号を知っていたか、特殊な機械を使ったか、もしくは阿郷に番号を吐かせてから
殺害したか・・・」
須根が呟く。
「でも、番号を吐かせるくらいなら、逃げられないように阿郷さんの自由を奪ってからするんじゃないですか?
両手を縛るなり何なり」
「そうだね。阿郷さんには縛られた跡も無いし、散々追い回された後がこの荒らされた部屋の正体だろうからね」
の意見に須根が賛成する。
「あ!須根さん」
次にが何かに気付いた。
そして須根が車から取ってきた手袋をはめ、ひとつの品物を拾い上げる。
それは時の止まった時計。
時刻は6時28分を示したまま動いていなかった。
恐らく部屋が荒らされた時に壊れて止まったのだろう。
つまり、犯行時刻は6時半前後。
その推測を裏付けるように踝が口を開く。
「ブラインドカーテンが上に上がっている、ということは、主人が起きた後に何かあったということで
しょうか」
阿郷は起きてすぐにカーテンを開けるのだという。
犯人が犯行の前後にわざわざカーテンを開けるとは考え辛い。つまり、阿郷が起床してから自分で開けたと
考えるのが普通だ。
聞いてみると平均的に起床時間は六時頃。つじつまが合う。
そう仮説を立ててからこの部屋をもう一度見渡した。
は妙に何かがひっかかり、隅々までしっかりと凝視する。
何か、何かを見落としているはずなのだ。
だが気付いているはずのそれが何か、なかなか意識に上ってこない。
ふと、隣を見ると須根も同じように何か考え込む仕草で立っている。
「何か、発見したんですか?」
沈黙に耐え切れなかったのか、福武が近くへ来てに話しかけた。
きゃv福武さんが話しかけてきたvなどと思ったのは、不謹慎なので、をとめの秘密だ。
「いえ、あの・・・」
「ベッドの下に・・・」
何かがひっかかるんです、とが返事をしようとすると、二人の間に須根が割って入った。
「変な本隠してないかな」
「あるか―――ッ!!」
なんだよなんでよりによって福武さんと話すのを邪魔するのにそんな話を振ってくるんだ!
と、息継ぎナシでは怒る。もちろん心の中で。
睨みつけてやると、須根はにやにやしていた。
確信犯だ、コイツ・・・。
須根マジックに騙されないで、布久萩さん!!
胃痛はこなかったが、代わりにこぶしを握って耐えたので爪の当たった掌が痛い。胡桃を持っていたら
確実に割っていたと思う。それはないか。
5人は、それ以上の収穫を望めない為にホールに戻ることにした。
放っておくわけにはいかない阿郷の遺体を、とりあえず隣の部屋に安置し、布をかぶせてから。
戻る 次へ