ミストの外れで意識を失っていた彼に触れたその理由は、単なる気紛れと小さな好奇心、それだけだった。
あの時。
(あの裂け目に落としてしまえばいいだろう)
そう考え、私は彼に近づいた。
竜騎士はぴくりとも動かずに、大きく裂けた大地の傍に横たわっていて、誘われるように彼の髪を撫でた途端、事は起こった。
荒れた川にも似た彼の感情が、私の胸に押し寄せてきたのだ。
あんなことは初めてだった。
良いものも悪いものも、彼の心の全てが見え、既視感に襲われて私は思わず瞑目した。
彼の心を占めていたのは醜く凝った嫉妬の塊で、ああ、だからか、と頭の隅で私は頷き、嗤った。
おそらく、この竜騎士と私は似ている。
そう思った。
―――自覚したその瞬間、私は彼を抱き上げていた。
●
目覚めたばかりの彼の、白い手首を押え付ける。
彼は信じられないものを見る目つきで震えていた。
「…何のつもりだ。お前は、一体」
きつい眼差しがこちらを睨みつけている。塔の外で光る稲妻に照らされ、彼の瞳がきらきらと光った。
触れている手首から流れ込んでくる感情や思考に、私の胸は酷く高鳴る。
彼がどんな言葉に弱くて、何を欲しがっているのか。私にはその全てが、手にとるように分かった。
「寂しいのだろう?」
と問うてやれば、彼が目を大きく見開く。
彼の心を覆い隠している薄い膜を、一枚一枚剥いでやる。
生きていくのに作るしかなかった、自分を守る為の膜を。
竜騎士の兜の下にある落ち着き払った青い瞳は、寂し気な色を湛えている。
人前では背筋を真っ直ぐに伸ばして立っているが、心の中では膝を抱えている。
『読まれて』いるのに気付いたらしい彼は、かちかちと歯を鳴らしながら必死で身を捩った。
「やめて、くれ……っ」
胸元に手をかけ、所々破れている彼の服を更に引き裂いていく。
彼は両手で顔を覆い隠し、搾り出すように呟いた。
「見るな…見ないでくれ、お願いだから……!」
私は夢中で、彼の心を暴き続ける。
本当は、血に恐怖を感じている。
けれど『それで騎士が務まるのか』と言われることが怖くて、親友にすら打ち明けたことがない。
「や、め…っ」
がくがくと震えているその胸に舌を這わせた。
長く伸びた金髪を切れずにいるのは、自分の中に母の面影を探しているからだ。
私の背を、快感に似た何かが走り抜ける。
それは体の交わりでは感じることのできない位に激しい悦びで、この状態で体を繋げれば、気が狂うのではないかと思うほどだった。
手荒く破いた服の隙間から見える白い肌と赤い傷に私の視線は吸い寄せられ、気付けば彼の萎えている雄を食んでいた。
「…ひ……っ」
暴れる足を大きく割り開き、喉の奥まで銜え込む。太腿には薄く汗が滲んでいた。舌を絡ませ、舐めしゃぶる。
「やめ、ろ…っ……あ、ぁ」
先端を抉り、裏筋を舌で辿る。
「……セシルという男を愛しているのか」
弾む心のままに問いかければ、雄はまた硬くなる。同時に私のものも熱くたぎってくるのが分かった。
今すぐにねじ込んでしまいたいと思う。
早く、この男の全てを私のものにしてしまいたい。
垂れた唾液と先走りの液を指で掬い、後腔に塗りこめる。彼の両足を肩にかけ、怒張したものをあてがった。
彼は自らの髪ごとシーツを鷲掴み、肩を竦めてがたがたと震えている。いつの間にか、彼は眦から涙を溢れさせていた。
「何故、こんな」
青い瞳を絶望の色に染めて、彼は問う。
「…どうして……俺を暴くんだ」
答えずに、のしかかる。
「あ、あああああぁ……っ!」
狭い内壁に締め付けられて、先端しか挿れることができない。焦れた私は、彼を深く貫くために再び体重をかけた。
「う…っ、はぁ……はぁ……」
彼は荒い息を吐き、涎を垂らしている。
奥まで押し入ったところで、括れの手前まで引き抜き、ゆっくりとまた突き入れた。
「うう、う、ぐ……、あ」
脳内に彼の記憶が流れ込んでくる。それは、ベッドに寝そべって自慰をする彼の姿だった。
「…セシルを想って、していたのか?」
「…見、るな……」
彼はゆるゆると首を振る。
「向こうは、お前を親友としか思っていないのに」
「煩い……っ」
「可哀相に」
「…やめろ!……っあああっ」
抜き差しを繰り返せば、いやらしい音が部屋に響く。ただひたすら彼の中を抉った。
「やめ、や、あ、あっ……あっ、あ」
痛みのせいで意識が飛びそうらしい。―――もう限界か。
彼の頬に両手で触れる。洗脳する為に、思念を送った。