「それ,人間には,完全な毒よ」
 女が言ったのはそれだけだった.同時に,現実を知るには十分な一言でもあった.
 カルカルナを見つけたとしてもスヴェーの傷を治せない,それどころか使いようもない毒であると.
この女が嘘をついている可能性もあるが,目的を聞いたばかりの彼女がそうするとは思えない.原因は双子の聞き間違い,あるいは大人たちの無智.それにその事が判らなかった自分(エルア).そちらのほうが的を得ている.
返ってくる答えは分かっているが,それでも聞かずにはいられない.
「…それは本当か?」
「嘘を言う,理由がないわね」
 つい先程こちらを殺そうとした者のいう言葉ではないが,こうも躊躇なく言われては疑いにくい.
「そうか…」
女がどうしたの,と尋ねるが彼の耳には届いていない.口を開かなかった.



テイルズ オブ リザルブ
一話目 「女」 後



「ここだ,いたぞ!!」
 エルアの左側の茂みから,高い声が響く.我に返ったエルアが振り向くと,二人の姿を捉えた野盗が彼らを指差していた.その声を聞きつけた他の野盗が土から生え出たかのように現れ,数秒のうちに十数人の野盗が彼らを取り囲むかたちとなった.
「これなら勝てねぇだろ,このクソ女ぁ!!」
野盗の一人が怒りに満ちた罵倒を上げた.野盗たちの手には多種多様な武器が握られており,今にもエルア達に襲いかからんとしている.
「っ…おい,一体なにをやったんだ,お前は?」
 エルアが毒づきながらも女に背を合わせて構えた.
野盗の数は少なく見積もっても19人,つまり一人につきノルマは9人半.彼女の実力が自分(エルア)と大差がないと仮定すると,この人数差はあまりにも厳しい.
 だが女はエルアの心配をよそに,大きくため息を漏らしてから腕に絡んだローブの裾を丁寧に取り繕いだした.
そしてエルアに聞こえる程度の小声で呟く.
「動かないで」
「…っ?」
「死にたく,ないでしょう」
 それだけ言うと女は武器を手にせず,代わりに袖から赤紫の細くかくばった結晶を取り出して目を閉じた.
 その光景を見た野盗の一部が過剰な反応を示しあとずさる.だが一人の野盗が飛び出したのをきっかけに,十数人の野盗全てが押し寄せた.
エルアは動くことができなかった.最初の野盗が動くとほぼ同時に,女の呟きとともに現れたその光景に目を奪われたからだ.
「プウンディワン ティアン ンエディティア……」
(…――!?)
 左手に結晶を持ち右手でそれを覆うようにし,聞き覚えのない言葉を発する女.それと同時に彼女の足の回りを土色の泡のようなものが覆い始めた.
 その泡のようなものは閃光となり,閃光は霧と化す.霧は彼女の足元に集まり,褐色の円陣を成す.
 女の正面から駆け寄った野盗が彼女へと鉈らしきものを振り下ろすが,先に気付いたエルアにその腕筋を切られてよろめく.
それとほぼ同時に『準備』が完了し,
「グレイブッ!!」
 発せられた叫びとともに,その場にいた者全てが揺れを感じる.ほんの,一瞬だけ.
次の瞬間,そこは先程までと同じ平原ではなくなった.
純緑の芝を荒々しく突き破る石槍の群れに,砕かれた土草が舞う.
次々と現れる石槍に,運悪く出口に立っていた野盗が二人吹き飛んだ.
だが,彼らはまだ良かった.
二人の野盗が吹き飛ぶと同時に,赤と白の何かが一帯に飛び散る.
ほんの少し,静寂が辺りに満ちる.
誰も,なにが起こったのかを正しく理解できなかった.
しかし,この状況が何を意味するのか位は感じたらしい.
「い…ぁ,ぁああああああ!!!!」
野盗の一人の悲鳴.瞬間,群れはちりぢりになっていく.
彼らは必要なことを理解した.
勝てない,ありえない,そして殺される.
あまりに凶悪な牙に,なんの術を知らず挑むのと同じ.
死の運命を迎え入れたくはない.ならば逃げるしかない.
だがもう遅かった.
眠れる大蛇を怒らせた上に何事もなく去ろうというのは虫が良すぎる.
女がちっと舌を打ち,水晶を握りしめる.
再び先程と同じ土色の霧が立ち込めていく.しかも今回はそこまでの動作が無い.
「イムン エグエウム…グレイブ!!」



その後の事ははっきりとは覚えていない.
ただ,俺がなにもする事もなく血しぶきが舞っていただけだった.
逃げる者,抗う者,助けを乞う者,全て同じ姿と化していく.
惨劇と無縁だったのは女を中心とした僅かな範囲だけ.
一通り大地を荒らしたところで音と衝撃が止む.
そこは,少し前のそことは全く繋がりのないトコロだった.
赤と黒緑に染まった芝,朱が滴り続ける灰色の槍.
つい先程まで人であった血肉の破片と塊.
そして額に付いた赤い液体を煩わしそうに払う女に,その前に立つ自分.
何も言えない.何もできない.
顔の血を拭った女がこちらを向いて語る.
「巻き込んで,悪かったわね.私も,この連中が,あんなことをしなければ,ここまでやりたくなかったけど」
あんなこと,というのが何を示していたのかは分からない.
判断力に限界が来ていた.
血を見た事くらい,何度もある.
だが,今回は量がケタ違いだった.
死体,と呼ぶのが随分上品に感じる赤と灰に彩られた人だったモノの群れ.
モノ?モノとはなんだ?
さっきは分かったのに,もう分からない.
理解できない
理解したくない
理解してはいけない
畏怖と逃避と困惑と肯定と
多くの交錯に昏睡しそうになる
しかし,ひとつだけ確認したい.
「お前は…なんなんだ?」
これが限界だった.
女がしばし思案する.そして返された言葉―――
「アトル・リーヴズ.晶霊術師よ」
名前と肩書自体に意味はない,しかし二度と忘れることのない名前.
それを聞いたのは,小屋を出た時とほとんど変わらない眩しいほどの青空の下だった.






久々のリザです.長い間更新できず,ご迷惑をおかけしました.
更新できなかった理由で一番大きかったのは前期試験(一応大学生なので)ですが…もう一つ.
ちょっと暗い描写
慣れないことは大変です.私の得意分野は「穏やか系ギャグ」なのに…
…まぁ,こんなに血がでるのも今回と+αでしょう.

ちなみにアトルの詠唱の言葉は「メルニクス語」というテイルズオブエターニア(リザルブの原作)に登場する(翻訳が面倒な)言語です.それぞれ訳せば,ちゃんと意味のある文章になりますよ

以上,筆者の後書きでした.


蒼來の感想(?)
・・・えー、天災ネタは危険だと思うが。(−−;
あの馬「あのね、魔法は天災じゃあ・・・」
・・・如何見ても天災に見えるのは静岡県人の悪いクセかな?
あの馬「蒼來だけだと思う」
・・・警告ばっかあって他のとこが喰らうと、益々不安になるのだがね・・・
あの馬「それよりも感想を」
うい
謎の女性アトルの目的は解りませんが・・・・エルアを助け&忠告するとこを見ると、味方かな?
あの馬「う〜ん、どうでしょう?まだ解らないけど・・・エルアより実力は上だね。」
うむ、だがな。
多数の山賊を魔法でぶったおす=○ナ・○ン○ー○と一緒で憂さ晴らしで其処に居たとか・・・
あの馬「・・・じゃあ声は林○め○み?」
を希望したい・・・じゃあなくて、何かの目的でここに居たかは次回だな。
あの馬「そーだね。しかしエルア・・・事態についていけなそうかも。」
まあしょうがないさ、いきなり天災にあえば。
あの馬「意外と必こいねえ。あ、題名はこれでよかったのでしょうか?」
続きなので此れにしましたが・・・・違かったら修正します。<(_ _)>
メルニクス語は・・・ご苦労様しかいえません!!>英語も解らんのに(´Д⊂)
あの馬「あのね・・・・」