氷のお城のお姫様

常に誰かに傅かれ

孤独の中に夢を見る。

例えばお城に咲いた花

お水をやれば、育つでしょうか?




高級食材の罠(その後)(Fate/hollow ataraxia)
モード:アヴェンジャ





クリスマスを目前に控えた日曜日――

そんな日は、キリスト教とは関係ない一般人であってもどこかはしゃぎたくなるらしい。

そっちにもこっちにもカップルや親子連れ、そして大きな買い物袋を下げた主婦。

新都の中心に当たる百貨店、ヴェルデには人が溢れ返っていた。

「イリヤ、はぐれるなよ。」

「うん!」

言いながらも、しっかりとイリヤの手を握る。

さすがにこの人ごみの中ではぐれて探し出せる自信は無かった。

ここに到着するまではライダーの長身と髪の色を目印にしていたのだが、彼女はヴェルデに到着するなり戦線離脱・・・もとい自分の買い物へむけての全力疾走で行ってしまったのだ。

同時にサクラも自分の分の買い物をするからといって戦線を離脱している。

「エミヤ様、くれぐれも粗相なきよう・・・ってセイバー様、一体何を!!」

「・・・・お豆腐・・・?」

結果、残ったのはかなり異色な外国人ばかりだった。

アルビノの少女と、純白に黒と白でメイドが二人。

そして・・・

「ふふふ・・・はっ、金華ハムは何処に?」

そして、メイドの片割れの手をひいて歩く・・・というか、人ごみへの突貫を敢行する「元」王様。

ただし、今はどこかに精神を置いてけぼりにしているのでただの夢見る危険物体でしかない。

金髪に白髪に頭巾・・・と、外人とは言え節操無い事この上ないのだが、中でも一番危険なのはあれだ。

幸いにしてバスの中での忠告が功を奏しエクスカリバーを振り回すという事態こそ避けられているものの、鎧は装着したまま、目は虚ろといった有様では止める事もままならない。

この分ならイリヤの酒を飲んで酩酊していたときのほうがまだましなぐらいだった。

がんがんとあちらこちらにぶつかりながら歩くセラが不憫でならない。

「セラ、楽しそう・・・。」

「リ、リーゼリット、これの何処が楽しそうに見えるのですか!!」

一体どれほどの聴覚を有しているのか、彼女は人ごみの隙間から悲鳴にも似た叫びを上げる。

どうやら、まだ聞こえているらしい。

「シロウ、セラ、楽しそう?」

「ん?・・・あ〜、まあ、楽しいんじゃないか?」

「そう。」

首を傾げるリズに対し、適当な相槌を打つ。

「っ!こ、これの何処が楽しげだというのですか、エミヤ様!!って、ちょっと待っ〜〜!!」

即座に返答が返ってきた。

だが、その叫び声も暫くすれば聞こえなくなる。

「は〜、セラもだらしないわね。あれぐらい、魔術で吹き飛ばしちゃえばいいのに。」

そして、俺の肘にぶら下がったまま物騒な科白を吐いていらっしゃる小さなお姫様。

ただ、言葉ではこう言うものの、イリヤが使っているのはただの人払いの魔術である。

どうせ押しのけなければならないということを考えると、相手が勝手によけてくれているという状況は心理的にかなり楽になれる。

反則といえば反則なのだろうが、イリヤをこの人ごみに巻き込ませる事を考えればこれは非常に好条件といえた。

「で、どうする?イリヤ。このまま食料品コーナーに向かうのでいいか?」

念のため、イリヤに確認を取る。

リズはリズで適当に物色して回っているようだが、イリヤが食料品に興味を示すというのは考えにくかった。

「え?う〜ん・・・あんまり興味ない・・・かな?」

案の定、というべきだろうか。

初めから分かっていた事だが、やはり今回のヴェルデ来訪は食材目当てじゃあなかったらしい。

勿論そちらを疎かにすれば怒られそうではあるが、半分とは言え出してもらった分の恩義もある。

結局最後にはセイバーに呼び戻されるのだろうから、それまでは好きなところを回っても構わないと思っていた。

「なら、どうする?」

「・・・うん・・・。」

なんとなく、言い出しにくい。

そんな雰囲気を湛えたまま、イリヤは俺の腕にぶら下がっている。

らしくないが、無理に聞き出そうとすれば逆に怒られる可能性もある。

「Animal Alleyでも行くか?前は結局何も買わなかったし。」

仕方なく、以前ここで一番イリヤが興味を示した店の名前を出してみる。

買わなかった、というか、結局欲しいものが見つからなかったらしいんだが。

ただまあこれだけお金があれば少しぐらいならば出してやろうという気にならないでもない。

「シロウからそんな提案があるって言うのは嬉しいけど、今日はぬいぐるみが欲しい気分じゃないわね。」

「そ、そうか?・・・えっと、じゃあ・・・。」

どうやら外れだったらしい。

あたふたと次の提案を考えようとするが、俺が次の提案を出すよりもイリヤが俺の袖を引っ張るほうが早かった。

「こっち!」

「あ?ああ・・・。」

抵抗する理由も無く、イリヤの動きに任せる。

少し気になって後ろを振り返ってみるが、リズは何も言わず、追ってくる事も無かった。

いつもと同じように、軽く微笑みながら小さく手を振っている。

ならば、これは予定調和なのだろう。

だがしかし、こんな日に、こんな場所で、一体何の用がある?

今日はただ買い物に来ただけで――

――イベントが発生する余地なんて、欠片も残されていなかったはずなのに。

「どうしたの、シロウ?」

「え?いや。」

右に、左に。

イリヤに引かれるに任せ店内を歩き回りながら、そんな事も思う。

だが、人を掻き分けながらいくらかの距離を進むうちに俺たちは外に出てしまっていた。

それでも、イリヤの歩みは止まらない。

ずんずんずんと、まるでそれらの存在を全て避けようとするかのように人ごみから離れていく。

それこそ、人払いの魔術をかけているのは彼女自身だというのに・・・だ。

「ここなら・・・いいかな?」

言われてようやく辺りを見回す余裕ができた。

だが、見回すまでも無く、そこが何処であるかはすぐに分かった。

冬木中央公園。

大火災の象徴として残されたこの地では、現在に至っても――このような日であろうとも、人はいない。

ここにいい思い出は――ない。

「で、何なんだ?イリヤ?」

「ん・・?何?お兄ちゃん?」

小さく首を傾げるイリヤ。

まるで、全てを忘れたとでもいいたげに。

ここにきたことに理由など無かったのだとでも、いいたげに。

だが――

「イリヤ、そのネタは桜のものだ。」

「そうなの?」

この期に及んでそれは、無い。

ここまでつれてきて理由が無いだなんて、ありえない。

「ここなら確かに人はいないけど、ここは――。」

それにここは、魔術師にとってあまりいい空間ではない。

衛宮士郎のような場末の魔術師でさえ感じてしまうのだ。

イリヤが、感知できないわけが無い。

それでも――

「でも、本当に何でも無いんだけどね。」

変なお兄ちゃん――と。

頭を振って小さなお姫様は笑う。

「なら、何で・・?」

「お兄ちゃんに頼みたい事があるから・・・かな?」

設置されたまま使われていないベンチに腰掛け、イリヤはその横を軽く開けた。

その誘いを断る理由は見つからず、俺は素直にその隣に腰掛ける。

臀部に冷えた鉄の感触が伝わり、一瞬身体に震えが走った。

イリヤは冬の城のお姫様。

こういうのには強いのかもしれないが、こちらは冷えには弱い。

「お兄ちゃん、寒い?」

「ん、いや、大丈夫。」

それは明らかな強がりだった。

それでもまあ、言わないよりはましだろう・・・と思う。

感覚的に、この少女に弱い所は見せたくない――

「じゃあ「発熱」の魔術は使わなくてもいいかな?」

「ごめんなさいイリヤさん、少し寒いです。」

・・・・・・秒速で前言撤回。

いや、何で強がりなんていおうとしたのだろうね?

そりゃイリヤが寒さに強いわけですよ。

――例えるなら年中懐炉を持ち歩いてるみたいな感じ。

「・・・あれ?イリヤ、詠唱した?」

下らない事を考えている間にも、周囲の気温は急速に上がっていた。

だが、あの遠坂でさえ必要とする詠唱がなされた形跡が無い。

「何で「発熱」ぐらいで詠唱しなきゃならないのよ。変なの。」

イリヤは、詠唱をしないことこそが不思議な事であるかのように笑う。

だが、一工程の詠唱すら必要としないような魔術さえあるのだろうか?

(・・・ああ、そうか。)

そこまで考えた所で気付いた。

彼女の本質は聖杯。

彼女の魔術は理論を飛ばして結果を出すのだから、その程度の事は造作ないのだろう。

キャスターの高速神言にしてもそうだが、どこか反則じみている。

「で、何なの?」

「うん・・・。」

十分に周囲が暖まったところで、口を開く。

早くしなければ、誰かが来てしまえばイリヤが口を閉ざすのではないかという気がした。

「本当はお兄ちゃんじゃなくてもいいんだけど、サクラやリンには訊き辛いから・・・。」

イリヤにしては前置きが長い。

その上、誰でもいいのに桜や遠坂に訊き辛いというのは、どういうことなのだろう。

「その・・・笑わない?」

「ああ、笑わない。約束する。」

よくは分からないが、浮ついた気分を消して真剣にイリヤと向かい合う。

こういうときに茶化したりするのは、拙い。

「あの・・・クリスマスに何か貰うと、大人でもやっぱり嬉しいのかな?」

イリヤは、それでもどこか恥ずかしそうに頬を染め、そんな事を言い出した。

そのことに、少し拍子抜けする。

もっと重苦しい用件かと思っていただけに、少し肩透かしを食らった気分だった。

「それは・・・あの虎がプレゼントを貰って喜ぶか、ってこと?」

それならば、間違いなく喜ぶだろう。

それが食料品か虎柄のグッズであればなおさら可。

暫くはおやつ代に不自由しないですむ。

「あ、ううん。そうじゃなくて、その・・・セラとか・・・。」

「・・・セラ?」

少し、いや、本音を言えばかなり意外な名前だった。

セラは彼女にとっては使用人でしかなく、彼女から貰う事はあっても、渡すようなことは無い・・・そう思っていたのだ。

そのような考え方を、最も嫌うはずの自分が。

(・・・いや、違うだろう。)

沈思黙考に陥りそうな頭を、無理やり引き起こす。

今は自分について考えるべきときではないのだ。

そんな事のために回せる頭があるなら、イリヤのためだけに回せばいい。

・・・しかし。

「・・・えっと・・・。」

しかし、真剣に考えた場合、それはどうなのだろう。

リズならば素直に喜びそうだが、彼女の反応は少し予想し難い。

感涙に咽ぶか、それとも受け取りを拒否するか。

どちらもありえそうなだけに、迂闊な事をいえない。

俺の助言でイリヤが傷つくなんて事は、あってはならない。

そんな事になれば、殺されてしまう。

「ちょっと、予想できないな。欲しいものぐらい全部自分で手に入れる・・・ってタイプにも見えるし・・・。」

「うん・・・。」

と言うか。

だからこそイリヤも困っているのだろう。

彼女のお城では、手に入らないものなど基本的に存在しない。

お金を出す事によって手に入るものであれば雑貨から魔具まで何でも揃ってしまう。

お金なんて、それこそふって沸いたように出てきてしまう。

「大体、あの二人が何が好きかなんて見当も・・・。」

言いかけて、口をつぐんでしまった。

見当がつかない、なんてのは嘘だ。

少なくとも、セラに関してはかなり具体的に表現できる。

表現できるのだが、ここでそれを教えてしまった事が後日バッドエンドに繋がらないかどうか・・・。

「・・・? どうしたの、シロウ?」

「えっと・・・セラの好みなら・・・結構具体的に出てくる。」

用意できるかどうか、とか、彼女の魔術基盤が崩壊してしまわないかどうか、とか。

結構嫌な想像を働かせなければならないのだけれど・・・。

「えっ?なになに?!」

俺の言葉に、イリヤは敏感に反応した。

目を輝かせ、抱きつかんばかりの勢いで近付いてくる。

「あ〜、その〜、多分だけど、フルールの怪獣級超特大ケーキとか・・・かな?」

目は、合わせられなかった。

自分の尊厳と、今後のために。

「へ?何?それ。」

「前にセラが大喜びしていたもの。」

ちなみに少なくとも直径10メートル以上で何のセンスも工夫も無いクリームホイップがコピーペーストの如く続くやっつけ具合、シンメトリックなんて弁護も通用しない究極のインスタントのやつ。

まあ、嘘だったわけだが。

そんなもの、魔術以外で作れるわけもないのだが。

「そんなもので・・・いいの?」

「そんなもので、と言うか、そんなものが、と言うか・・・まあ、それでいいと思う。」

前者は卑下、後者は強調。

ただまあいずれにせよ、あれだけはイリヤじゃないと作れない。

喜ばせるというだけであれば、アレ以上のものを俺は思いつかない。

それに・・・。

「それに、プレゼントってのは相手を思う自分の心を、形にするもんだろ?イリヤが何を贈ったにしても、それでイリヤを怒るようなら、それはセラの筋違いだ。」

だからこそ、あの槍は彼女にイヤリングを渡した。

彼女はそのイヤリングを、後生大事に持っていられた。

「・・・・・・そうね、シロウ。」

結局、イリヤは暫く考え込むような仕種を見いせた後、大きく頷いた。

「じゃあ、戻りましょう。こんな偽りの中の偽りでいつまでも戯言を繰り返したところで、何にもなりはしない。」

白い髪のお姫様は、そう言い残して雑踏の中へと消えていく。

――――参ったな――――

その後姿を見送りながら、思った。

さて、いつから俺は俺になってしまっていたのだろうか・・・と。





で、今回のオチ、というか、結末。

イリヤ達が先に帰ってしまったため帰りは皆で歩いていく事となったのだが、夕闇に浮かぶ四人の顔色はそれぞれの戦況を如実に物語っていた。

桜とライダーは圧勝ムード、俺はどちらともつかない感じ。

そして・・・。

「シロウ・・・。」

明らかに敗色濃厚な顔のセイバーが歩く。

「ん?なんだ?」

「何故・・・こいつなのですか。」

その手には買い物篭。

その中には明石直送の蛸。

「仕方がないでしょう、セイバー。それしか余っていなかったというのであれば、甘んじてその結末を受け入れるべきです。」

36段変速という化物のようなMTBを押すライダーが、どこか嬉しそうに声をかける。

絶対にかっ飛ばしてさっさと帰ってしまうと思っていたのだが、既に町内を何度か回ったとの事で、おとなしく俺たちの歩みに合わせてくれていた。

ぴかぴかに磨かれた車体と既に異常な磨り減り方を見せているタイヤとのギャップが凄いが、そのハンドルには張り切って大量に買い込んでしまった桜の買い物袋がいくつも吊り下げられている。

「むう・・・不覚でした。まさかキャビアもフォアグラも既に消えうせていようとは・・・。」

よほどダメージが大きかったのだろう。

セイバーの背中にはどこか哀愁も漂っていた。

「ハハ・・・ま、また今度な。」

その姿を笑いながら、ゆっくりと歩みを進めていく。

幸せを噛み締め。

幸せを実感し。

だからだろうか?

この世界の間違いに気付いている自分を、少しだけ嫌いになった。










あとがきがわりのタイガー道場(完結編)


タイガー:さて、イリヤ君、今回は少しシリアスに話を始めてみたいと思うのだが・・・。

イリヤ:却下。

タイガー:って、早ッ!!

イリヤ:だってタイガがやってもぜんぜん似合わないもの。

作者(カンペ):(激しく同意)

タイガー:が〜ん!!

イリヤ:ハイハイ、おとなしく眠っていて頂戴ね・・・っと。

タイガー:しくしく・・・。

イリヤ:あ〜もう、分かったから泣かない!

タイガー:・・・ロリブルマが苛める・・・。

イリヤ:・・・五月蝿いわよ、タイガ。

タイガー:怖ッ!!

イリヤ:・・・で、今回の話なんだけど、何?これ。

タイガー:と言うと?

イリヤ:前回からこんな話だった?何か、話の大筋というか・・・大事な所がいろいろ変わりすぎている気がするんだけど・・・。

タイガー:ああ、それは時間の魔術、最早魔法の域に達しつつある作者の固有結界のせいよ。

イリヤ:固有結界?

タイガー:そ。常人より遥かに進みの速い体内時計で世界を測った結果がこれ。

イリヤ:・・・要するに賞味期限を過ぎました・・・って事?

作者(カンペ):(そうとも言う)

イリヤ:・・・うわ〜。

タイガー;まあほら、一応結末はついてるし?

イリヤ:それでいいと思っているのがこれの限界ね。

作者(カンペ):(こら、端っこを持つな!!何をする!!)

イリヤ:さ〜?どうしようかしら?

作者(カンペ):(・・・お、怒ってらっしゃいます?)

イリヤ:いいえ、ぜんぜん。

作者(カンペ):(絶対嘘・・・きゃ〜!やめて〜!!)

イリヤ:塵は塵箱へ。

タイガー:・・・。

イリヤ:さて、管理人さんには悪いけど、どこの馬の骨とも知れない駄目作家じゃあこんな完全な駄作ぐらいしか出来なかったみたい。それでもいいと寛大な心でもって思うなら、受け取ってやってくださいな。

タイガー:・・・イリヤ、怖い子。

イリヤ:では、良いお年を。

タイガー:・・・またいつかどこかで



蒼來の感想(?)
はい、続きをおと・・・・どけってヒロインがイリヤにチェンジしてる?!!
恐るべし、しろいこあくまなロリブルマ(ヲイw)
で、この後はうまく・・・収まるわけねえなw
こうして正義の味方は、今日もまたお星様になるのでした・・・・憐れだ、えみやん。(´Д⊂)