思えば、これも夢なのかもしれない。

こうなればいいという望みでしか、無いのかもしれない。

だがそれでも、俺はもう一度見る。

あの夢の続き。

あの懐かしき人々と暮らした存在しないはずの四日間の、そのまた後。

望んでも手に入れる術を持たぬ・・・そんな未来。






高級食材の罠(その後(Fate/hollow ataraxia)




その日、外は朝から雪景色だった。

「先輩、寒くないんですか?」

心配そうな顔をした桜が脇から覗き込んでくる。

今いる場所は暖房器具など存在しない土蔵の中。

言われるまでも無く、寒い。

寒いのだが・・・。

「いや、朝から甲冑着込んだセイバーがうろうろしてたからな。とりあえずほとぼりが冷めるまでまとうかと・・・。」

何が起こっているのかはとんと検討もつかないが、万が一にも見つかったら大変な目に逢うのは見えている。

彼女が興奮状態に陥っているときは近づかないほうがいい。

「あ〜、そう言えば、朝から酷く上機嫌で姉さんや先生と話し込んでましたね・・・。」

冬休みでまた久しぶりに帰ってきている遠坂はともかく、タイガーとも?

・・・やはり何の事だかさっぱり分からんが、ますますもって不吉だ。

「えっと・・・というわけで桜、できれば俺がここに隠れている事は・・・。」

「分かりました。・・・と言いたいところだったんですけど、遅かったみたいです。」

言いながら、桜が俺の後ろを凝視している。

その先に、両の眦を吊り上らせたセイバー(甲冑込み)が仁王立ちしていた。

その手に持つ得物は風王結界だろうか?

ひゅんひゅんという風を切る音まで聞こえていた。

「ああ、ここにいたのですか、シロウ。探しました。」

不吉な。

あまりにも不吉で、不気味なほどに機嫌のいい声が聞こえる。

「お、おう、セイバー。どうした?」

しゃがみこんでいるため、仰ぎ見たセイバーの顔には影がさして見えるのだが、そのことが余計に凄みを与える。

かといって立ち上がる勇気などあろう筈も無く、ほうけたようになって彼女の顔を見つめる。

・・・なんか、怒って・・・いや、笑ってる・・・のか?

「どうしたもこうしたもありません。これを見てください。」

言葉と共に、俺の目の前に一枚の新聞折込の広告が突きつけられた。

大きな薄い紙の彼方此方に所狭しと食料品その他の写真が配置され、そのどれもに普段よりもかなり安い値がついていた。

「えっと・・・ヴェルデクリスマス感謝祭・・・。」

「そこではありません、ここです、ここ!!」

そうとう興奮しているらしく、セイバーはそれが何の広告であるのかを理解する時間すらくれない。

俺が読み上げる時間も惜しいと考えているのか、広告の一角、食料品関係の部位に目玉商品として取り上げられている部分をバンバンと指差す。

そこには周囲よりも一際目立つ色で縁取りされた幾つかの商品が並び、特別価格、だの、他では買えない、だのといった売り文句が並んでいた。

ただ、特別価格という割にはそのどれもがゼロが一つから二つほど多い。

「クリスマス特別感謝世界の高級食材大集合・・・ですか。フォアグラ、キャビア・・・あ、ツバメの巣とかトリュフまである・・・凄いですね、これ。一度こういうもので料理してみたいなあ・・・。」

いつの間に覗き込んできたものか、後ろからきっちりと桜が解説してくれた。

ただ、この場合財政の危機について、もう少し考察してから発言して欲しかった気がしないでもない。

「そうでしょう、私もちょうどそのように考えていました。」

案の定、俄然元気になるセイバー。

「というわけで、シロウ!」

「・・・はい。」

凄く嫌な予感しかしない。

いや、これは予感などといった生易しいものではなく、状況予測と既視感(デジャヴュ)からくる限りなく確定された未来と、それに対しての現実逃避・・・。

可能ならば物理的にも逃げ出したいのが、生憎と間合いの取れない風王結界が発動している上に、ここは入り口の一つしかない土蔵の中。

逃げ場は・・・無い。

「これらの品、リンによれば見出しどおり非常にリーズナブルな価格であるとの事。今すぐ買い物に行きましょう。そして今夜はこれらで料理を作ってみてください。一度は諦めていましたが、千載一遇のチャンス!神は我を見捨ててはいなかった。」

一人で異常な盛り上がりを見せるセイバー。

なるほど、それで遠坂と話し込んでいたのか。

恐らくはその価格が安いかどうかを訊ねている所に事件の香りを嗅ぎつけた餓えた虎が引き寄せられてきてしまったのだろう。

居間できししし・・と笑っているであろうリンの顔が目に浮かぶ。

そして、それより何より神様の前にうちの家庭事情が見捨てている事を忘れてはいないか?セイバーよ。

目を輝かせてくれている所悪いのだが、うちにそのようなものを手軽に夕飯に出来るだけの財政力は存在しない。

「却下。」

「なっ!!この機を逃せば勝機はありません。サクラも料理してみたいと・・・。」

「だからと言ってグラム云万円もするような食料品においそれとは手をだせん。・・・前にも言わなかったか?このこと。」

「・・・う、それは聞き及んでいますが、しかし・・・。」

しょぼんとなったセイバーの体から鎧が消え、一瞬で普段の服装に戻る。

よし、とりあえずは武装解除に成功。

まだ諦めていないようだが、それも時間の問題・・・。

「あら、夕食に出るならうちで少し負担してもいいわよ。」

そう思ったところで四人目の闖入者が現れた。

白いドレスと髪が、セイバーの後ろでまるで後光(対象セイバー)のように輝き、即座にセイバーの体力が回復する。

ちっ・・・余計な事を・・・。

「さすがに全部出すといえばセラが怒るでしょうけれど・・・私も食べるのだといえば半分ぐらいなら出せるはずよ。食べた事の無い食材は無いけれど、シロウが作ってくれるというなら食べてあげてもいいわ。シロウだってそれぐらいならば出せるでしょう?」

恐らくはお城から直接いらっしゃったのであろうお姫様はそのような事を仰いながら土蔵の中へと踏み込んでくる。

ただ、半分出してもらったところで出費がかさむ事は間違いない。

それだけのためにヴェルデまで出向くわけには・・・と思ったところで、サクラの事を忘れていた事に気付いた。

「そ、そうだ桜・・・出来れば桜からも・・・。」

「え?・・・あ、でもほら、先輩、他のものも安いですよ。別に松坂牛じゃなくてもお肉とかお野菜とか・・・そう言えばもうクリスマスなのにケーキの材料もぜんぜん買っていませんし・・・。」

最後の砦、崩壊。

どうやら今夜の夕飯は高級食材のオンパレードで確定らしい。

もうすぐ正月だというのに、いったい何日節約料理を作りつづけなければならないのか・・・。

「ン?あれ?ライダー?」

軽く脱力しながら立ち上がろうとすると、イリヤのさらに後ろにもう一人の人影まで見えた。

イリヤがいるせいで入りにくいのか、ちょうど顔だけだ見えるような体制でこちらを覗きこんでいたのだ。

だが、見つかった事に観念したのか、さも今来たばかりだといわんばかりの体制で土蔵の中へと上がってきた。

気付かなかったふりをしつつ、そちらへと相対する。

幸いにも他の者たちは本当に気付いていなかったらしく、中でもセイバーはそちらを見ようとすることすらせずに高級食材の山へと思いを馳せている。

「どうした?ライダー。自転車の修理なら悪いが・・・。」

後にしてくれ・・・。

そう言いかけたところで、ライダーがセイバーがもってきたそれとはまた違う、もう少し小さな広告はがきを有している事に気付く。

明らかに自費印刷で作られたそれは・・・。

「ああ、士郎。新都に行くというならばちょうど良かった。ちょうどある程度お金が溜まったので新しい愛車を買いにいこうと思っていたのです。」

特別ご優待、の文字が躍るそれは、新都の一角にある自転車屋から届いたものなのだった。

ここ数日連日のようにどこかへ出かけている事は知っていたが、そうか、そんな所ともいつのまにかつながりが・・・。

「聞けばかなりの量の買い物になる様子。自転車を買いに出向くついで、お付き合いいたしましょう。」

笑いながら、右手をクッと折り曲げる。

力瘤こそ見えないものの、怪力のスキルを持つ彼女が力持ちであるという点については疑問を挿む余地は無い。

ただ・・・

「なるほど、その申し出はありがたい。」

ありがたいのだがライダーよ、この場合かなりの量になるのはその質量ではなく価格なのである。

「そうでしょうとも。そして士郎とて鬼ではない。私が身を粉にして得た正当な報酬で何を得ようとそれを止めるような事はしないはずだ。」

妖しく笑いながら、しっかりと釘をさしてくるライダー。

つまるところ、後で取り上げられたりする事が無いように桜の前で購入を宣言する事が目的ならしかった。

(ただまあそれにしても・・・。)

じっと、集まった人間の顔を見回す。

そのどれもが、内実はどうあれ新都に行こうとしているらしきことは明らかだった。

そして、ちょっとやそっとの抵抗では崩れそうに無い不思議な連帯感さえ漂わせている。

この場にいる人間だけで、4対1。

今で炬燵に篭もっている人間を合わせれば、総勢6対1・・・いや、セラとリズがいるから7対2ぐらいにはなるだろうか?

いずれにせよ、絶対的敗北を喫するには十分な人数差だった。

「・・・・・・・・・はあ・・・。」

大きく溜め息を吐き、肩を落とす。

「じゃあとりあえず、用意が出来た人間から玄関に集まってくれ。」

結局、最終的にはこちらが折れることとなった。

「ただしセイバー、行ったからといって、買うとは限らないからな。」

最後の忠告に意味は無い。

何せ有頂天のセイバーは俺が口を開くよりも早く土倉の中を飛び出してしまったのだ。

「・・・・・・・・・はあ・・・。」

もう一度だけ、口の中に押し込むようなため息を吐く。

男人口の絶対量の少なさが、こんなときばかりは身に沁みるのだった。







あとがきがわりのタイガー道場(幕間編)


タイガー:は〜い、良い子悪い子普通の子、皆元気にしてたかな?何にも頼んでないのにとっても素敵なプレゼント、そんなあなたのためのタイガー道場の時間だよ〜。

イリヤ:司会はご存知、イリヤお姉さんと〜

タイガー:タイガー兎・・・ってこれ半年前にもやった!

イリヤ:あ〜、そう言えばそうだっけ?ま、作者が前回の分のコピペしてるだけだから、仕方無いんじゃない。

タイガー:うぅぅ。なんて酷い扱い・・・今回も私の出番ないし・・・。

イリヤ:え?タイガに出番が来るときなんてあるの?作者が一番苦手なタイプのキャラなんでしょ?今回も炬燵に篭もってるだけだし。

タイガー:ふ、そのようなもの、超越してこそ真の二次創作作家と呼ばれるのよ!!

作者(カンペ):(だとしても無理なものは無理です)

イリヤ:・・・救われないわね、タイガ。

タイガー:へ?なんか言った?イリヤちゃん。

イリヤ:いいえ、何にも。

タイガー:さて、今回作者がこのようなものを作ったわけですが、動機は主に二つ。

イリヤ:あれ?クリスマスプレゼントのためだけじゃないの?

タイガー:ノンノン、勿論表向きはそうなんだけど、真の理由はこっちにあるわ。

がさごそがさごそ・・・(道場の片隅を引っ掻き回す)

タイガー:ああ、あったあった、これこれ・・・。

イリヤ:何?この大学ノート。

タイガー:作者が高校で授業を聞かずに没頭しているらくがき帳よ。これはそのうちのFate用。内容的には資料用の絵が半分、ホラーチックな絵が四分の一、残りがほのぼの絵ね。

作者(カンペ):(!?!?!?!?!)

イリヤ:Fate用って事は他にもたくさんあるわけね・・・。

タイガー:EVA用・ガンダム用・オリジナル・・・既に全て埋まったノートをあわせれば十冊を超えているわ。で、このページにあるのが・・・。

イリヤ:うわ、何これ・・・「セイバーと高級食材(その後)」・・・?

タイガー:作者の家にスキャナーが無くてお見せできないのが残念で仕方がないのだけれど、授業中戯れに書いたこの一枚絵がこの作品の原点よ。

イリヤ:うわ〜・・・。

タイガー;ちなみに設定的には皆生きているみたい。hollowでは何人かは死んでる、みたいな話になってたんだけど、それじゃあ無理があるとの判断みたいね。

イリヤ:そうなんだ・・・あ、もうこんな時間。次回の結論があけすけになる前にかいさ〜ん。

タイガー:え?こら、待ちなさい!!まだ全然解説しきってない・・・

一同そそくさと道場を後に・・・。

作者(カンペ):(さて、続きが書きあがるのはいつになることやら・・・。)

蒼來の感想(?)
俗に言う、「フルアーマーダブルセイバー(カリバーンとエクスガリバー装備)」降臨!!ですなw
で次は1週間後に頂いた修正版と言うか続きというか・・・そんな感じの短編へどうぞです。