夜に啼く鳥
(1)


※作中の歌は何日君再来です



 そこは、闇から逃れ、夜を楽しむための店が並ぶ通りにある一軒だった。夜鳥という名前の店だ。看板は小さかったが、半地下にある店内はそこそこの広さがあり、カウンターと箱席に別れていた。小さなステージもあって、そこで少人数の楽団が客に音楽を提供することもあった。二月ほど前からは、歌手が立つようになっており、客の耳を楽しませていた。
 ピアノが用意され、その旋律に載せて、歌手は滑らかな声で歌った。上手いという訳でもない、そこそこといった程度の技術だが、人々を惹きつけて止まないものが声には漂っていた。過ぎ去り、もはや戻りようのない黄金の日々を惜しむ郷愁と悲しさが秘められた歌声だった。
 客たちは薄暗がりに身を沈め、あるいは照明に表情をぼやけさせながら、グラスや酒瓶の光に滲んで消えていく歌声に耳を澄ませていた。
 時勢の流れと共に、店の客には、いつしか外国からの人間が増えていったが、グラスの触れ合う音や客たちの密やかな話し声は何も変わらなかった。十八年の時間をおいて、また戦争が始まろうとしていたが、激しい戦火も店にいれば、まだ遠いものにしか思えないほどだった。
 店に来るのは、馴染み客をのぞくと、軍人か新聞記者、そうでなくても、その関係者が多かった。祖国を離れ、家族と別れ、この国にやって来た男たちは、この歌手の歌声にいくらかの慰めを見出しているようだった。
 異国へ旅立った恋人を思う歌、遠い地から家族と故郷を思う歌、子ども時代を懐かしむ歌、幼い頃の初恋の甘さを歌った歌、歌手が歌うのはどれも古い一昔前の歌ばかりだった。どの歌声にも感傷と、そのくせ押しつけがましくない悲しさがあった。
 店の名前にふさわしく、歌手は夜にふさわしい、ひっそりとした影のような佇まいで、小さな白い顔をしていたが、酒場で歌うに似合うような容姿はしていなかった。まだ、子どものような雰囲気があった。
 名前を隠すような歌い手ではなかったから、歌手の名を客たちは知っていたが、黒子テツヤというその名以外のことを知る者はまったくいなかった。店主に尋ねても、さあ、と首を振られるばかりで、何人かの馴染み客が、ある日、歌わせて欲しいと訊ねてきたのを知っただけだ。
 ここからずっと北に下った地方の歴史に詳しい者がいれば、黒子という名に、おや、と思ったのかもしれない。名前が本当ならば、黒子の名はその地方では名家とされる家柄のはずだった。けれど、名前を知る客はやってこなかったし、やって来たとしても、何も言わなかったはずだ。北にあるテレンツは、十八年前、政府軍指揮下にある傭兵たちによって略奪暴行が行われ、多数の死傷者を出した地でもあった。
 過去に触れることはなく、しかし、過去を思わせる歌を黒子は店の終わりまで歌う。どの客の誘いに乗ることもない。酒は少し、口にする。頬がうっすら上気するさまを、幾対もの目が追いかけるが、黒子はどの視線にも見向きしなかった。
 店が閉まるのは夜も遅く、黒子は間に合うときは路面電車か、バスを使い、そうでないときは歩いて帰った。夜の街は、不思議に黒子の姿を闇に溶かし、黒子はそうやって闇に体が馴染んでいくことに恐れを抱かなかった。
 黒子が借りているのは旧市街に位置する家具付きの古めかしいアパートメントだ。建物は、昔、裕福な商人の住まいだったとかで、見かけは立派だが、なにぶん古すぎた。すきま風もひどい。陰惨な殺人事件もあったとかで、借り手は少なく、家賃も安い。
 このアパートメントの静けさと、旧式のエレベータの格子の優雅さ、階段の手すりの装飾が、黒子は好きだった。古き良き時代の様式を模していたからだ。
 黒子が昔、まだ幼い頃、家族と住んでいた邸にも、このような装飾の階段があった。厚ぼったい、数百年分の人々の足音を吸い込んでいた沈んだ赤色の絨毯が敷かれていた。母の腕に抱かれ、父の首に掴まり、兄の手に引かれ、黒子は階段を上り降りして、成長していった。
そうして今は、小さな都市に身を置いている。故郷は遠く、そして、黒子の望む故郷はどこにもない。

 国内は日に日に緊張が高まっていた。あちこちの国境付近で、小競り合いは行われていたが、店のある街には、まだ銃声は届いていない。ただし、軍服姿の男たちの姿は、もうめずらしいものではなかった。この街から国境までは近く、そして国境際ではもっとも大きな街だ。軍の基地も近くにあるから、戦争は遠い話ではない。
 様々な種類の人間が入り込んできて、街は落ち着きない、嵐のような騒々しさに満ちあふれていた。それも、本当の嵐に比べれば、穏やかなといって良いはずのものであっただろうが。
 店に来る客の中には、今の内に疎開した方がいいのだろうかと相談し合うものもいた。隣国ではすでにロドム狩りが始まっているらしかった。この国にはロドム人もその混血も多い。そして、隣国ではこの国に向けての大規模な侵攻用意を行っているという。
「――だが、いざとなれば同盟国の援軍があるだろう」
「そうだ。ユトリア一国で何ができる? こっちは三国連合だぜ」
「だけどなあ、ソマルの首相は、ユトリア寄りだっていうぜ。裏切るなんてことも……」
 このごろではめずらしくもない話だった。人が二人集まれば、同盟国の裏切りと隣国の侵攻に対する会話がなされる。それに加え、民族浄化の名の下に行われているロドム狩りへの恐怖が人びとの不安をかき立てた。風評でしかないからこそ、いっそう恐ろしい。
 そのせいか、このごろでは、黒子の歌やピアノに向けられる拍手もまばらだ。
 今日も、曲を終えて一礼した黒子には、ぱらぱらと、どこか上の空な拍手が送られた。店主はカウンターに戻ってきた歌い手に肩をすくめて見せた。
「みんな不安なのさ」
「やっぱり、戦争になるんでしょうか」
「さあな。こればっかりは成り行きだ」
 沈んだ横顔を見せた黒子に、店主はあながち冗談でもなさそうな表情で言った。
「今の内に国外脱出って方法もあるが」
「行きたい国なんて」
「そうだな。今のご時世、どの国もきな臭い」
 そこで、客から酒の注文が入り、店主は後ろの棚へと向き直った。黒子も客からのリクエストを受け、ふたたびピアノの方へと歩いていった。

 店が営業を終えると、黒子は店主から週払いの賃金を受け取った。
 通りに出ると、冷えは思ったよりも厳しく、白い息が唇から漏れる。襟巻に顔を埋めるようにして、家路を急いだ。冬の静寂にふさわしくない騒ぎ声を聞いたのは、大通りから抜け道の小路に入ろうとしていたときだった。黒子は立ち止まり、耳を澄ませた。
 かなり大勢のようだった。段々と近づいてくる。声の調子からして、誰かを追っているようだった。追われる対象について、新聞やラジオで見聞きした情報が浮かんだが、答えを得ないまま、黒子はまた歩き出した。
 点滅する街灯の下を通り過ぎた黒子は、背後から足音と荒い呼吸の音を聞いた。苦しげな、力を振り絞ってはいるものの、もはや走れはしない、乱れた足音と呼吸の音だった。
 振り返り、黒子は男の姿を認めた。長身で、大柄な男だったが鈍重そうな気配はない。
 彼は暗がりにいる黒子に気づくことなく、ほんのわずかな休息を取ろうとしているようだった。薄汚れたシャツは汗のためか体に張り付き、また点々とした黒い染みが目立つ。左腕の染みは範囲を広げようとしていたし、足も引きずっていた。
 男の荒げた呼吸が落ち着く前に、追跡者たちは迫っていた。黒子は軽い舌打ちを聞いて、思わず笑っていた。それは、本当に悔しげで、同時にこのような危機にあるにもかかわらず、稚気を失っていなかった。まるで、いたずらに失敗した子どものように、邪気がない。
 黒子の漏らした吐息に、男は息を飲み、そちらへ向けて鋭い目を送った。
「誰だ」
 右腕にナイフが光る。黒子は男の前に姿をさらした。拍子抜けしたようなまばたきをして、男は、突然に現れた黒子を見つめた。その気になれば、素手でも簡単に押さえ込めるような相手だったが、男は油断をしてはいなかった。
「こちらへ」
 黒子は言って、男を手招きした。わずかなためらいの後、男は黒子に従った。入り組んだ小路を黒子は男を先導しながら抜けた。追っ手の声は、徐々に遠ざかり、やがて聞こえなくなった。男は無言だった。たまに、苦しそうな長い吐息を漏らす。傷が痛むらしかった。
 黒子は途中から手を貸した。身長差と体格差のある男を支えるのは黒子にとっては楽ではなかったが、男は拒まず、それが手を貸し続ける理由にもなった。男は黙って、黒子に支えられつつ歩いた。
 ゆっくりした二つの靴音が重なる中、男が訊ねた。
「なんで助けた?」
「怪我をしていたようなので」
「……そうか」
 吐息の気配から、男が笑ったのが分かった。黒子はアパートメントまで彼を連れて行った。エレベータの戸を開いて、乗り込む。男は壁により掛かり、ふっと短いため息を吐いた。痛みに歪んではいたが、精悍で引き締まった顔立ちと見て取れる。
 どちらも無言のまま、鳥籠のようなエレベータは上昇した。床と平行には止まらない。その時々の調子によって、上がりすぎたり、下がりすぎたりするエレベータだ。今日は、床よりも上に止まった。男に手を貸して、降りる。
 扉の鍵を開き、黒子は男を部屋に招き入れた。男は顔をしかめ、怪我した腕を押さえながら、入ってきたが、扉を閉める前に、その場にしゃがみ込み、がっくりとうなだれた。額に汗が浮かび、顔色が青ざめている。しゃらりと金属音がしたかと思うと、銀鎖で繋がれた指輪が胸元からのぞいた。
 黒子は早足で台所に行くと、まず湯を沸かした。それから清潔な布と貰いもののウオッカ、薬の入った箱を持って男の側に戻った。膝をついて、壁に背中を預ける男の服を脱がせる。鍛え抜かれたと一目で分かる筋肉のしっかりついた体には、擦り傷や痣が無数にあった。
 腕の傷は銃によるものだった。わき腹からも血が流れているが、こちらはかすめただけらしい。それでもえぐられ、血が滲み出て、火傷とあいなり、てらてら輝いてる。
 男は閉じていた目を開き、うっすらと笑った。
「警察か、軍に知らせれば、金がもらえるぜ」
 男は安いと言えない金額を口にした。黒子はまじまじと男の顔を見つけ、首をかしげ、笑った。
「そんなに頂いても使い道がないですよ」
 湯も沸いたので、黒子は手当を続けた。男は瞼を閉じ、痛みを堪えていた。たまに軽口を叩いた。
「手際がいいな。医者か? 看護士か?」
「歌手です」
「へえ。歌ってくれよ」
「店でしか歌いません」
「ケチだな」
「黙ってください」
 男は黙った。時折、呻いたが、包帯が巻かれると、脂汗の浮いた顔に笑みを浮かべた。
「ありがとうな」
 壁を支えにしながら、立ち上がる。血の気の失せた白い顔で出て行こうとするのを、黒子は止めた。
「駄目です」
「行く」
「駄目ですって!」
 腕を引っ張ると、男がよろけた。
「死にますよ」
「くそっ」
 苛立たしげに舌打ちする男を寝室に連れて行き、寝かせた。水差しとグラスを側に置き、毛布で男の体をくるんだ。
 男はあたたかい寝床に、幾分、表情をゆるめる。 
「歌手ってのは嘘だな。やっぱり、医者か看護士だろ」
「昔、本物の医者に教わりました」
 黒子の笑みに、男は口をつぐみ、目を閉じた。ため息が漏れたかと思うと、すぐに寝息に変わった。黒子は明かりを落とし、部屋を出た。

 翌日も男の名は聞かなかった。男は名乗ろうとしたが、黒子が止めた。包帯を代えて、買い物に出かけると言い置いて部屋を出た。食料品と傷薬、包帯といった医療品を買い、古着屋で洋服も買った。どう考えても、黒子の服では男の体に入りそうにない。
 家に戻り、ベッドから起き上がっていた男に寝間着と下着の替えを渡した。男は情けなさそうに金がないと告げた。
「このくらい構いません」
 黒子は首を振った。
「悪い」
「いいですって」
 男はまだ納得できないらしい。
「だって、これで、お前の金が足りなくなったらどうするだ?」
「何とかしますよ」
 黒子をまじまじと見て、男は真剣な口調で言った。
「頼むから体を売るとか、そんなことは言うなよ?」
 侮辱だ。確かにそう思ったのに、やけにおかしくて、黒子はつい吹き出してしまった。
「僕にも蓄えくらいありますよ」
「なら、いいんだ。安心した」
心からほっとした顔を見せ、男は笑った。
 ――奇妙な男だった。陽気で明るく、追われている者が持ちそうな陰りはどこにもなかった。言葉遣いは歯切れよく、砕けた物言いをしたが、端々に優雅なアクセントがあるのを黒子の耳は聞き取っていた。かすかな痕跡なので、よほど注意深く聞かなければ、分からないだろうが、黒子はそこから男の出身階級をおぼろげに推測した。そして、そこで想像を止めた。一時で終わる出会いだ。想像なら、後から幾らでも出来る。
 黒子は男のために、新聞を毎日、買うようになった。作る食事の量が増え、クローゼットには古着屋を回って、そろえた衣類が下げられ、棚には新品の下着がしまわれた。浴室には剃刀が常備されるようになり、部屋には時折、煙草の匂いが残るようになった。黒子は自分以外の人間が側にいるということを、日々、増える品と消耗品の減りの早さで感じ始めた。
 男は自然に黒子の側にいたから、たまに手を止めて、考えてみなければ、自分が誰かと暮らしているとは思えなかった。この状態が危険だとも思えなかった。
 追われている男をかくまっているわけだが、日々は何事もないように過ぎていく。追っ手の陰は、どこにもなかった。それは、たとえば、このまま、男と黒子が暮らしていけると思わせるほどに。何も異変はなかった。
 だが、そこかしこに、男が身の回りに気を配っている様子はうかがえた。外出は滅多にしなかったし、出て行くときは周囲をよく見極めて、出かけた。帰宅はすぐのときもあれば、一日中のこともあった。昼夜関係なしに出かけてはいたが、朝食時には必ず、戻っていた。
 黒子は男の行動を問わなかった。ある日、ふといなくなってもしょうがないと思わせる男だったから。ほんの少しだけ、出て行くときにはさよならと言って欲しいと思ったが、それは、そう思うだけ男に慣れた証だろう。
 一つ屋根の下では、心も溶け合おうとする。多くを語らないから、いっそう心が重なろうとするのかもしれない。
 流れ始めた感情の気配を黒子は敏感に悟った。だからといって、どうすることもできなかったが、日常にふと過ぎる一瞬、一瞬に、互いの距離が縮んでいくのが感じられた。
 器に静かに水が溜まるように思いが重なる。いつか溢れてしまうだろう。分かっていながら、見ないふりをした。やり過ごそうとした。
それでも、そのときが来る。あるいは、その予兆が。
 三日続けて、男は家を空けた。諦めよりもやるせなく、家にいる間、窓の外ばかり眺めていた。四日目の夜、店から戻ると、男は部屋にいた。戻ったばかりなのだろうか、横顔は厳しかった。
 乱れる感情を抑え、立ちつくす黒子に目を向け、男は口元を笑ませた。引き寄せられるように近づくと、身体から冷たい夜の空気が漂っていた。かすかな血の臭いもあった。
 男は首に懸けた鎖を引いて、指輪を手に取った。眠るときも入浴するときも、決して離そうとしない指輪だが、決して指に填めようとはしなかった。
 指輪を左の親指と人差し指に挟んで、表面をそっと撫でた。過去という時間に触れられるなら、そうするであろう仕草だった。
「――血は繋がってないが兄弟みたいな……いや、本当の兄弟以上の兄貴がいるんだ。頭良くて、何でもできてすごいやつ」
 男は嬉しそうに、楽しそうに笑った。快活な笑みで、なんともいえない朗らかさがあった。
 ここに、と自分の右目下を指して、
「ほくろがあって、小さえ頃は、いっつもそれを馬鹿にして泣かされてた」
「君を泣かせるなんて、相当恐い人ですね」
「優しいけど、怒らせたら本当に恐かったぜ」
 しみじみと男は呟き、表情を陰らせた。
「違う道を行くことになった。どうしようもねえけど、それが……嫌だ」
 黒子は無言で男の腕に手を置いた。男は黒子の顔を見下ろして、ほほえんだ。手を重ねられて、黒子はうつむいた。男がまた笑う気配がして、手を離した。
「ありがとうな、黒子」
 礼を言われながらも、彼に気遣わせてしまったと胸が痛んだ。
 暮らしていく内に、芽生えたものを黒子は否定しなかった。だが、受け入れようともしない。
 もの言いたげな唇や、視線を避けるのは、彼が追われている男だからではない。自分が何かを欲しい、と思う心を捨てているからだった。
 取り戻したいのは一つだけだった。そして、その一つが永遠に戻りはしないことを黒子は知っていた。

 ――写真も手紙も何一つ残らなかった。父の、母の、兄の、三人の存在は今、黒子の胸の中にしか残らない。黒子が持つのは思い出だけだった。
 黒子の父はテレンツ周辺を領地に持つ貴族だった。跡継ぎの兄がおり、兄は父と共に領地を馬で回った。まだ、古風なやり方が何かにつけ、尊ばれていた頃だった。
領民たちは父をお館さまと呼び、母を奥方様、兄を若様、と呼んだ。黒子は、まだ領民たちから親しげに呼びかけられるほどに、彼らに顔を知られてはいなかった。幼い末子として、厳しくも大切に育てられていたからだ。お館さまの秘蔵っ子と呼ばれていたことを、ついぞ知らないまま、黒子はテレンツを去ることになる。
 黒子は弟を溺愛する兄に連れられるがまま、屋敷のあちこちを遊び回って過ごし、仲睦まじい兄弟の様子に館中の者は眼を細めた。健やかに生い育っていき、そろそろ馬術の教師を招こうかという話が持ち上がる頃だっただろうか。
 その頃には、すでに政情不安のうわさが伝わり、貴族党だった父は、いつも苛立たしげに、反対派に対する苦言を述べた。それでも、暖炉前での家族のくつろぎには、ささやかな戸惑いの風を吹き込むだけで、何も変わらなかった。
 変わっていくのは家族を取り囲む世界の方だった。
 収穫祭を控えての秋の深夜、男達がやってきた。彼らが傭兵で、方々で略奪を続けながら、この土地へやって来たことも、黒子はおろか、テレンツの大半の人々は知らなかった。
 それほどに早く、彼らは奪うためにやってきたのだ。
 夜遅くにひどい悲鳴が聞こえ、黒子は自分の寝室で目を覚ました。悲鳴は家畜小屋からのもので、鶏や馬のいななき、羊たちの叫び声、その他、恐怖にまどう獣たちの悲鳴が屋敷にまで聞こえたのだった。
 無法者たちのことを聞き知っていた父と兄は、黒子と母に隠れるように言うと、銃とナイフを持ち、侵入者たちを追い払い、あるいは殺すべく、屋敷を出て行った。眠気は悲鳴で払われ、黒子は震えながら母に抱きついていた。
 ざわめきは大きくなり、銃声が何度も聞こえた。次に火の手が上がり、ガラスの割られる音が夜を引き裂いた。
 父と兄に付いていった使用人の男が、転げるように屋敷へ戻ってきた。
「お逃げ下さい! 旦那様と若様が殺されました!」
 ひっと母は、喉の肉が引きつるかのような声を上げた。黒子の肩に母の指が震えながら食い込んできた。
 父と兄の死体から銃とナイフは奪われ、そのまま殺戮者たちは屋敷へと侵入し、略奪を始めた。絵は剥ぎ取られ、家具がたたき壊され、外に運び出されると火を付けられた。皿が絶え間なく割られ続け、銀器が炎に照らされ、輝いた。何一つとして、破壊と略奪から免れたものはなかった。
 使用人たちはちりぢりになって逃げたが、血に寄った男たちは彼らを追い回し、捕らえると、その性別や年齢によって、殺戮や情欲といった欲望を満たした。
 黒子は母に抱かれ、夜道を走った。追う声は迫り、光が黒子と母を照らし、銃声が響いた。途端、母の手から投げ出されるようにして、黒子は地面に倒れた。身を起こそうともがいて、母の体が自分に重たくのしかかっているのに気づいた。
「母さん、母さん」
 母を呼び、体を叩いてみたが、なまあたたかくぐんにゃりした感触が手に残るだけで、母は起きもしなければ、黒子を抱き返してもくれなかった。
 黒子が母の体の下から抜けだして、そこに取りすがっていると、大勢の男達が近づいてきた。酒でも汗でもない、略奪の興奮に酔う生臭い臭いが彼らからは漂った。
 男たちは幼すぎた黒子に興味なさげな一瞥を与え、母の体を取り囲んだ。うちの一人が足でうつぶせになっていた母を仰向けにして、舌打ちした。
「死んでるぜ」
 楽しみを一つ失った男たちは、別の欲望を満たすために死体に手を伸ばした。互いを牽制する荒々しい言葉が飛ぶ。髪留めが、首飾りが、耳飾りが、指輪が、母が身につけていた品が、次々と奪われていく。
 黒子は立ち上がった。拳を固め、母を取り囲む男たちへとつっこんでいった。
「返せ! 母さんのものだ!」
 わめいた。小さな拳を振り上げ、足を上げ、殴り、蹴った。黒子がした抵抗と同じことを、何倍もの力で男たちは黒子に返した。
殴られ、顔を地面に打ち付けた。冷たく、固い土が頬を跳ね返したと思ったとき、体に何か冷たいものが食い込んだ。氷のようだったが、もっと鋭い冷たさがあった。
 それが離れた後は、火を押し当てられたように熱くなり、体が動かなくなった。目の前に何か動くものが現れた。少しずつ大きくなっていく。何だろう、と黒子はかすむ視界の中で思った。自分が流す血だと、意識を失うまで気づけなかった。
 ――長い闇の後に見えたのは人の顔だった。最初はぼやけ、徐々に像を結び、人の顔が黒子の目に映った。
不精髭を生やした男がのぞきこんでいた。父でも兄でも、あの男たちでもなかった。瞳は穏やかで、あたたかだった。
「まだ眠ってた方がいいぞ、熱があるからな」
 額に手を置いて、男が言った。言葉にうなずいて、黒子は痺れるような眠りに、また落ちていった。  
 もう一度、目覚めたとき、黒子は自分が何を、どういう形で失ったのか分かっていた。ガラスの割れる音、銃声、獣たちの鳴き声、悲鳴と躯にのしかかる母の重み。広がっていく血だまり。切れ切れに浮かび上がり、黒子はそのたびに、唇を噛みしめた。
 思い出たびに、熱が出る。それを繰り返し、熱も出なくなった頃には、口から言葉が消えた。呑み込んでしまったからだ。怖い恐ろしい哀しいことすべてを自分の体の中に呑み込んだから、そうなってしまったのだろう。それでも、この記憶は、家族と故郷の思い出に繋がるものなのだった。捨てきれなかった。
 黒子を救ってくれたのはレジスタンス活動に関わっていた相田という名の医者で、傷が癒えるまで、黒子は彼の元にいた。
 口も態度も悪いが、時折、寂しさを滲ませる優しい手で、黒子を撫でては笑った。
「早く、声が出るといいな」
 相田は仲間たちの隠れ家にもなっている家に、レコードを山ほど持っていて、黒子は日がな一日、それを聞いた。夜になると、男や仲間たちが集まってきて、やはりレコードを聴きながら、酒を飲んだり、小声で話し合ったりした。時折、荒々しい言葉で会話が交わされた。分からないままに黒子は、男たちは怒りながら悲しんでいるのだと感じた。
 男たちが集まるのは夜も更けた頃だったから、たいてい、黒子は眠っていたが、時々、彼らの集まる居間をのぞくときがあった。
 ドアの隙間から黒子の姿を見つけた男たちは、野太いが優しい声で、黒子を呼び寄せた。相田が苦笑してうなずいたときだけ、黒子は扉を大きく開いて、彼らの輪の中へ入っていった。  
 男たちは誰もが、荒れたごつごつした手で、黒子を抱き上げ、頭を撫でた。ざらざらの頬を寄せられることもあった。その荒々しい親愛の仕草に、黒子はいつも胸が苦しくなった。悲しさへの予感とでもいおうか。受け止めきれない複雑な感情は、時折、喉を焼けつかせた。
 やりきれなさに涙ぐむ黒子が寝つくまで、相田はいつも側にいてくれた。枕元にともされている小さな明かりに浮かび上がる彼の横顔を、涙目で見上げながら、黒子はやがて眠りにつくのだった。
 隠れ家に集うレジスタンスたちの会話は段々と激しさを増して、やがては決起を促すそれとなった。細かな計画が立て始められ、そうして、黒子は相田と別れることとなった。
 彼に連れられ、山を下り、列車を乗り継いで、たどり着いた小さな駅には、小柄だが優しそうな老人が相田を待ち受けていた。
「この子かい」
 目尻をいっそう皺だらけにしてほほえみながら、黒子を見下ろした老人は相田に尋ねた。
「ああ。これから頼む」
 隠れ家を出発する前に、目の前の武田という老人に預けられ、暮らすことを黒子は言い聞かされていたから、怯えはしなかった。
 黒子は相田に促される前に、前へ出て、老人に頭を下げた。
 老人が黒子の前に屈み込んで、目線を合わせた。やさしい、やさしい、声だった。
「これからよろしく」
 うなずいた。
 老人が黒子の手を取る。
 相田と向かい合った。さようなら、と黒子は唇でだけ呟いた。こんなときにも言葉が出ないのが悲しかった。
「元気でな」
 黒子を一度、抱きしめてから、医者は去っていった。彼を乗せた列車が小さくなるのを見送りながら、もう二度と会えまいと黒子は悟った。
 それからは武田の元で暮らした。無口だが穏やかで優しい老人は、相田の恩師で、今も村で、医師を勤めていた。声は、武田と共に暮らす日だまりのような時間の中で、ゆっくりと戻った。長い間、出なかった分、たどたどしく黒子は言葉を操って、老人以外では彼が飼う牛や鶏、羊たちに話しかけ、声を取り戻していった。相田自身が黒子とほぼ同い年の娘を戦乱で亡くしていたと知ったのはこの頃だった。
武田が逝ってから、村人は保護者を失った黒子を村に住まわせる条件として、村の独身ものの誰かを選び、結婚するようにと言った。拒んだ黒子は翌日には、荷物をまとめて、駅のホームに立っていた。怖くも悲しくもなかった。やってくるべき旅立ちの日が、この日だったという、それだけだった。
 一度、声を失った自分が、歌声で日々の糧を得るのは、何という皮肉なのだろう。失われた年月の記憶を糸のように吐いているのだと思うこともあった。吐いた糸で繭を紡ぎ、自身を覆い、やがて、閉じられた世界で、羽化することもなく、朽ちていくだろう。
 それは覚悟というよりも諦めだった。一人ならば、自分が消えようが、去ろうが、死のうが、誰の心に残ることも、傷を作ることもない。静かに消え去っていく。それが望みといえるなら、黒子の願望はそれだけだった。
 揺らぐのは、男に見つめられるときだった。炎のように熱く、太陽のように温かい。あたためられて、照らされて、今までに知らなかった思いが芽生える。
 ともに在りたい。側にいたい。欲し、願う心を男は甦らせていく。黒子にとって、追っ手よりも危険なのは男自身かもしれなかった。
 
 思い返せば、日だまりのごとき平穏な日々だった。それは男にとっても同じだったのだろうか。迫り来る戦火の前の最後の休息とでもいうように、男は外出を止めた。一度だけ、店に来て、黒子の歌を聞き、よほど気に入ったのか、帰宅してもその歌を口ずさんでいた。 忘れ得ぬ面影を恋うるその歌を、男は、歌詞に似合わぬ明るい声音で歌い、黒子がやめるように言っても聞き入れてくれず、かえっていたずらっ子めいた目で見下ろされるから、諦めた。男の歌声は長く、耳に残り、色褪せない、鮮やかな記憶として、黒子の身に刻まれた。
 静かに、おだやかに日は過ぎ、その穏やかさがかえって、迫り来る別れを思わせた。彼が去った後、どうなるだろうと思わないでもないが、何も変わらないと自分に言い聞かせた。変わることの方が恐ろしい。
 柔らかな黒子の拒絶に気づいているのかいないのか、男の態度は、出会ったときの頃から変わらず、慣れ親しんだ気安さと思いがけないほどの優しさが混じり合う、朗らかなものだった。
 大きな手で、器用に料理や家事をこなしていくのには感心したが、男はこのところ、黒子の作る簡素な手料理を欲していた。
「君の方がよっぽど上手でしょうに」
 煮込み一つ取っても、男の方が手慣れているし、味付けも上等だ。
 夕食は何を作るんだと訊ねてきた男に黒子が言葉を返すと、まるでいたずらがばれた子どものような顔つきで、男は言った。
「人の作ったもの食べるのが美味いんだよ。自分でなんて、いつでも作れるし」
 言葉に胸つかれたのは、遠からず、一人で食卓に座る日が近いと感じたからだ。
 店に行く前に、夕食の支度を調えようと台所に立った。自分では作らないらしい男は、そのくせ手伝おうと大きな体でうろうろするので居間へ追い払った。
 とくに特別な食材がある訳でもない。買い置きのチーズとハムをパンに挟んでサンドイッチでも作ろう。それから、余ったマカロニとチーズと、野菜の残りで簡単なスープをこしらえて、少し上等のワインがあるから、男に飲ませよう。
野菜を取り出し、チーズを切り分け、マカロニを茹でて、皿を出し、と動き回る内に、前から危ないと思っていた床板のずれにつまずいた。バランスを取ろうと掴んだのがクロスの一部だったのが、運が悪い。倒れ込む勢いは弱まらず、そればかりか、クロスの上に置いていた皿やスプーン、マグカップもろとも、黒子は床に倒れ込んだ。
 テーブルから落ちる食器や食料が落ちる騒々しい音に、隣室にいた男が、慌てた様子で駆けてきた。
「おい、どうした」
「なんでもないです、ちょっと、つまずいて……」
 立ち上がろうとして、黒子は、小さな声を漏らした。足首に思いがけない痛みが走ったのだ。倒れるときに少し捻ったのだろう。
 そろそろと動かせば大丈夫なようだったので、黒子は落ちた食器やチーズを拾おうとして、我が身が抱き上げられたのに気づいた。
「ばか。食い物より、自分のことだろ」
男に抱き上げられ、黒子は驚きのあまり、抵抗を忘れた。抱えられたまま、台所から客間に移動し、ソファに下ろされたかと思うと、男が目の前に膝をついた。そうっと、優しい手つきで靴を脱がされる。靴下留めが外され、当たり前のようにするすると靴下を下ろされていく。
「じ、自分で、それくらい出来ますからっ」
 素足を晒すことに、羞恥を覚え、黒子は足を引こうとしたが、踵を男の手のひらに、しっかりとくるまれてそれも叶わなかった。
「少し、腫れてるな」
「本当に、たいしたことないんです」
 男が黒子の顔を見ずに、足首を見ているのが救いだ。どんな表情を浮かべているか、自分でも分からない。
「冷やしとくか」
 立ち上がった男は、布を水に浸して戻ってきた。立ち上がろうとしていた黒子を椅子に座らせ、足首に布を当てる。ひんやりした感触が気持ちいい。ぬるくなるたび、男は布を冷やしに立ち上がり、また膝をついて黒子の足を冷やした。
 いつもは見上げる男を、見下ろす不思議さが、黒子の戸惑いを薄くした。この背の高い男のつむじを眺められる機会など、滅多にない。いつも無造作に手櫛で梳いている髪は、毛先が強い質なのだろうか、先が少しぴんと跳ねている。
「よし、ちょっと待ってろ」
 男はすでに勝手知ったる部屋の戸棚から、包帯を持ってきた。
「……大げさですよ」
 黒子の足首に包帯を巻きつける男が笑うのが分かった。
「人の事だと、大騒ぎするくせに」
「君の場合は、本当に大けがだったんですよ」
 男の笑いが深くなる。揺れる肩にあわせて、髪も揺れる。無意識に指を伸ばしかけて、黒子は慌てて腕を引いた。その動きを目の端にでもとらえていたのか、男が顔を上げた。
 視線を逸らす。男がまた顔を伏せる。指は離れず、包帯を巻き終えた足首がそのまま手のひらに包まれた。びくりと震えた爪先も男の手のひらに包まれる。
「痛むか?」
「いいえ」
「じゃあ、ほんとに軽く捻っただけなんだな」
「言ったじゃないですか。たいしたこと無いって」
「万が一があるだろ。用心しとけ」
 くくっと笑って、男は黒子に靴下をはかせ、器用に靴下留めを付けてくれた。立ち上がった男は、ほら、と手をさしのべた。あまりに自然で、いつもそうしてきたから、というような無造作な仕草に、黒子も手を重ねていた。
 黒子が立ち上がっても、手は離されなかった。
 咎めずに、黒子は男の手を初めて見るような思いで、見つめた。短く整えられた爪、少しかさつく硬い指先、節のある長い、しっかりした指が、大きな手のひらに続く。
「……指、冷たいな」
 わずかな力が、男の指にこもる。振り払えない。こんなにあたたかい手を離せる訳がない。頬を打たれたような衝撃が襲ってきて、黒子は思わず、顔を上げた。
 男も黒子を見下ろしていた。少し目を細めて、眩しげな、心細げな、眼差しで。
 握られた指が絡んでいく。男の目が今までに見たことない、深い優しい色に染まっていく。きっと、同じ瞳を自分も浮かべているに違いない。
 時が満ちた。あとは、溢れるだけだ。
「黒子」
 それでも、黒子は小さくかぶりをふった。
「……よしてください」
「分かってる。けど……」
目を合わせないようにしたつもりが、視線が絡む。見つめずにはいられない。逸らすこともできない。
 扉に追いつめられた。もの言いたげな唇が歪んで、目が切なげに細められた。伸びた力強い腕が黒子の身体を抱きすくめていた。言葉は持ち得なかった。何を語り、囁けばよいいのか。視線だけでもこれほどに、心溢れているというのに。
 ほどけそうな心を堪えた。降りてきた唇を受け止めるのが、精一杯だった。わずかな触れあいのあと、黒子は身をよじらせ、男の腕から抜け出た。
「お店に……行く時間なので」
 男を振り切って、部屋を飛び出た。道を歩いて、寒いと感じた。外套を忘れていた。黒子は自分の体を見下ろした。
 抱きしめてくれていた腕が消えただけで、体は冷たくなっていた。
 黒子は、初めて恋の歌の意味を知った。だからこそ、店が終わっても黒子はアパートメントに戻れなかった。店主はとくに何も言わず、黒子に店の鍵を渡して、上階にある自宅へ帰っていた。
 蓋を開いたピアノの前に座り、黒子は時々、鍵盤を押さえた。耳で覚えた曲を弾きかけ、止めた。立ち上がり、棚から酒瓶とグラスを持ってきた。グラスに注いだ琥珀色が揺れる。
 懐かしい曲を弾いた。母さん、と呟いてみた。どうしたらいいのか、誰も教えてはくれない。こんなときは、泣くのかも分からない。酒を飲んでも歌えなかった。
 きい、と扉が細く開き、猫科の獣を思わせるようにするりと男が入ってきた。黒子は彼を見つめ、鍵盤に視線を戻した。
 黒子に近づき、その手の側からグラスを遠ざけた男は、静かに言った。
「迎えにきた」
 優しい声だった。響きが一つずつ、体に染みていく。
「帰ろうぜ」
「どこに?」
 黒子はぽつんとたずねた。瞳の端から涙が一滴流れ、床に落ちた。
 男は寄る辺ない子どものような黒子の顔をじっと見つめていたが、静かに近づくと、その頬を両手で包んだ。
「お前が、俺の帰る場所だ。だから、帰ろう」
 抱きしめる男の手は、父になり、兄になり、母になった。
 部屋に辿り着いて、男は誰でもない彼だけの手で黒子を抱きしめ、最後に熱を帯びた恋人の手になった。その手が、あたたかければ、あたたかいほど、黒子の眼から涙がこぼれた。指で、唇で、涙を拭われても、止まらなかった。朝になればもう泣かないから、と黒子は男に呟いた。
 今だけ泣かせてください。抱擁が男の返事だった。
 
 カーテンの隙間から入る朝日に起こされ、目を開くと、すでに男はいなかった。
 黒子はシーツだけ、まきつけて居間へ行ってみた。テーブルに小さな紙片と指輪が置かれていた。
 紙片には、いつの日にか、とだけ書かれていた。指輪には、炎と蔦と花を意匠した文様が刻まれていた。男の筆跡を指先で辿り、黒子は指輪を指先に持ち上げてみた。銀で出来た指輪は冷たい。内側には文字が彫られていた。
 ――火神大我。
 黒子は唇でだけその名を呟いて、指輪を握りしめた。
 
>>>

<<<