きょうはたのしいうんどうかい
どこから聞こえだしたのか。テンポのいい音楽が流れ始めている。幾分、高めの明るい女性の声も、マイクで拡大されてロシウの耳に入ってきた。
「てんとうむしさんとはちさんになりきって、年少組さんがお遊戯します」
年少組、ときいて、ロシウは歩調を早めた。手に持った紙袋がかさりと乾いた音を立てる。角を曲がると途端に音楽が大きくなり、人通りも多くなる。行く人、帰る人といるが、柵が見えている幼稚園が目的だったのは間違いない。ロシウもその一人だ。
団地を過ぎれば、その隣が幼稚園だった。賑やかな声が聞こえ、園庭に置かれた遊具で遊ぶ子どもの姿も見える。
門はロシウが歩く道路を右に曲がったところにあった。角の入り口には、ポールが二つ置かれ、間には『八時半から十四時まで車通行止め』と書かれた紙がぶら下がっている。
門の前にはかき氷の屋台が一店だけ出ていた。後は保護者が乗ってきたとおぼしい自転車が道路に何十台も停められている。
PTAと記された腕章をつけた女性が二人ほど門の側にいたが、とくに見咎められることもなくロシウは園内に入った。
思った以上に人が多かった。青や緑、チェック、キャラクターがプリントされたものと、色も柄も様々なビニールシートが、楕円状に敷き詰められて、そこに座る人々は、カメラを中央の園庭に向けている。
年齢も老若幅広い男女がお喋りする声に、子どもの歓声、忙しく動き回る揃いのTシャツとジャージ姿の幼稚園教諭の姿、ベビーカーを押す父母もいるし、子どもを抱っこして演技に見入っているものもいれば、脇目もふらず、カメラやビデオで撮影している保護者もいて、いかにものどかな運動会の風景だ。
周りを見渡したが、シモンとカミナの姿は見あたらないし、年少組といえば、ギミーとダリーがいるはずだから、ロシウはまず、お遊戯を見ることにした。
しょっちゅう会っているとはいっても、同じ体操着に身を包んだ同い年の子どもたちの中から見つけるのは、なかなか難しい。あちこち視線を彷徨わせ、ようやく、ダリーを見つけた。
いつものように、ふわふわしたウェーブのかかった髪を一つに結んでいるが、髪をくくるゴムが真新しい鮮やかな青い色なのが可愛らしい。かぶった帽子の先から二本、黒いワイヤーが伸びて、その先には黒い目が描かれた紙がくっつけてある。
背中には透明の羽が二つ。黄色と黒の縞模様のスカートをはいて、手首にはふわふわしたぽんぽんが揺れていた。大きく伸び上がったり、飛び上がったり、両手を振ったりと音楽に合わせて、踊るダリーの顔は、いつものはにかみが薄く、真剣なものだった。少し紅潮している頬が、一生懸命に踊っているのを伝えて、なんともほほえましい。
ギミーは、踊っている間は見つからなかったが、退場するときに、一番、後ろでぴょんぴょん飛び跳ねているところを見つけた。頭はダリーとおそろいの帽子、背中には、赤地に黒の水玉が入ったてんとうむしのマントをつけている。腕には、赤いぽんぽんが揺れていた。
微笑して、ロシウは『たいじょうもん』とピンク色のひらがなで書かれた黄色い門の方へ向かった。
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