誰もが忘れられない瞬間だった。
芝の緑は空に映え、声援が空気の中を渡っていく。それを貫く一つの音に、汗まみれの選手達が足を止めた。
笛の音は歓喜と破れた悔しさをそれぞれに呼び起こし、人々の熱気を更に熱くする。勝利者と敗北者が決定されたその時、太陽が雲の影から姿を顕わした。
長い時間を駆け抜けた男たちの名が呼ばれる。喉も裂けよとばかりに叫ぶ観客達に応えながら、彼らはゴール近くにいた一人の男の元へ走った。
誰よりも声高く名を呼ばれる彼は、仲間達に囲まれ、抱き合い、頬ずりされながら、顔中に笑みを浮かべた。目を細め、掴んだ勝利を噛みしめる。痛いくらいに抱かれ、抱き返し、髪を引っかき回された。汗をこぼし、その中に涙も混じらせ、顔を上げた。
鮮やかな色合いの旗の下、無数の手が揺れ、モザイクのように入り組んだ人々の顔が浮かび上がる。風船と紙吹雪が、空や場内を目がけて、投げられていた。
――これが、最後の勝利になるだろう。ようやくここまで、辿り着けたのだった。
大歓声が耳を麻痺させる中、彼を探した。あの人々の中に、彼は必ずいるはずだった。自分を見つめているはずだった。
彼に見えるように、笑った。すべての喜びは、彼と共に。
試合終了直後に彼が見せた笑みは、何よりも晴れやかで眩しかった。太陽よりも、と彼を知る全ての人々が思う笑みだった。
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