デュランからの贈り物の中に見つけた通行許可証を門番に手渡し、確認を済ませる。
 街道や関所で検問もあったが、兵士達は探している人物と同じ容姿をもつクレアとイグニスに対し、なんの疑問を抱くことなく通行を許可した。
 領主の息子が発行した許可証を持っているのだ。手配書と同じ容姿を持っていても別人である、と疑いもしなかった。
 関所を突破するか、山道を抜けていくしかないかと思っていたが、クレア達は思いのほか楽で安全な方法をもってカルバンの領地を抜けることに成功した。
 これからは、ほんの少しだけゆっくりと旅ができる。街道も歩けるし、宿にも泊まることもできるはずだ。

「……ところでイグニス。わたしたち、どこに向かっているの?」

 イグニスといられれば良い、と出奔するイグニスに黙って付いてきたが。とりあえず安全な場所へと逃げのびたら、自分達が何処に向かっているのかが気になった。

「まずは、母の生まれた国に向かっています」

 母の故郷であれば、自分と同じ肌の色をした人間が大勢いるはずだ。そこに紛れこめば、領地から追っ手が出てきても、情報が拡散される。褐色の肌の男など、そこには掃いて捨てるほど存在するはずだ。そうして自分の姿を隠しながら、今度はまた別の国へと向かえば良い。
 クレアを黒毛の馬の背に乗せて、イグニスは改めて見上げる。
 初めて出会った日。クレアは純白のレースがふんだんにあしらわれた産着に包まれていた。
 そして、今は頑丈さだけが取り柄の粗末な外套に包まれている。
 身に纏うものには、天地ほどの開きはあるが――



 ふわりと浮かべる幸せそうな微笑みは、なに一つ昔と変わらなかった。

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