「……違う」

 半日かけて知らせのあった街道に辿り着き、休む間もなく拘留中の二人組みを確認したクロードは、落胆のため息をもらす。
 装飾品は本物であったが、黒髪の女は姫君ではない。これまでに捕らえた黒髪の娘の中では群を抜く美女であったが、美しさの種類がまるで違う。

「……この首飾りを、どこで手に入れた?」

 人違いではあったが、装飾品は本物だった。
 ようやく見つけた探し人の手がかりに、クロードは一言も聞き漏らすまいと喰らいつく。兄と姫君が装飾品を売りながら逃走しているのなら、足取りがつかめるはずだ。

「こっちの旦那様に買ってもらったのよ」

 しなだれかかった男を示し、女は笑う。
 嘘はついていない。
 ただ、ほんの少し言葉を省いているだけだ。
 逃走資金と引き換えに店で引き取った装飾品を、客である男に買い取らせることで現金に変えた。そして、その装飾品を自分に贈らせたことで、身代わりとしても説得力が増す。姫君と女には年齢というどうしても誤魔化せない溝があるが、本物の装飾品がそれを補った。皮肉なことに、カルバンが娘に贈った装飾品は、その逃走に二重にも三重にも手を貸している。

「……どこで買った?」

 女に促されるままに、クロードは男へと視線を移す。
 確かに褐色の肌ではあるが、髪はくすんだアッシュブロンド。体つきも外国人にしては細く、顔も整ってはいない。兄との共通点は肌の色だけだ。
 今回もまた人違いだった。

「さてね。俺は商人だ。あちこちの町で商品を仕入れては売っている。
 女にやった首飾りをどこで手に入れたかなんて、一々覚えちゃいねーよ」

 長く馬車の中に拘留され、男の方も不満がたまっている。騎士や兵士が誰かを探していることはわかったし、それと間違えられて捕らえられたこともわかった。人違いと確認され、すぐにでも開放されるとは思えるのだが、高圧的な青年騎士は、男の反骨精神を無駄に刺激した。

「商人なら、自分が仕入れた商品の購入先を忘れるはずがないだろう」

「商品ならな」

 生憎、女に贈った首飾りは『贈り物』であり、『商品』ではない。
 だから購入先など覚えてはいない。
 そう嘯く男に、クロードは眦を吊り上げた。

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