「うわぁ」
今年、小姓として城にあがったばかりの少年は、運んでいた白い上等の絹を抱いたまま感嘆の声をもらす。
落とされた視線の先には、繊細なレースを贅沢にあしらった産着に包まれ、生まれたばかりの末の姫が眠っていた。
「この子が、姫様?」
少年は好奇心に負け、恐るおそる揺りかごを覗き込む。すると、少年の影が顔に落ち、異変を感じた赤ん坊が目を覚ました。
(あ、泣く……)
そう思って覚悟を決めたのだが、眠っているところを起された赤ん坊は泣き出すこともなく、少年の顔をじっと見つめていた。
丸い大きな目をぱちぱちと瞬かせる仕草が可愛らしい。不意に何かを掴もうと手が伸ばされ、少年はそれに応えるように手を差し出し――手にした絹の重さによろけた。少年は慌てて絹を抱え直すと、改めて小さな姫君に手を差し出す。
「……可愛い」
姫君は小さな手をいっぱいに広げ、少年の指を掴んだ。
(弟も、こんな感じなのかな……?)
いまだ会ったことはないが、二年前に生まれた異母弟(おとうと)を思い、少年は頬を緩める。
誰が産んだ子どもだとか、大人達の都合は関係ない。赤ん坊というものは、そこに居るだけで見る者を幸せにしてくれる。
きゅっと込められた姫君の小さな力に保護欲をそそられ、少年は一つ、心に決めた。
(いつか、姫様の騎士になろう)
家を出るためだけに小姓として城にあがったが、明確な目標がなければ、この先騎士になど到底なれない。
だから、今決めた。
自分の剣は、小さな姫君に捧げる。
死ぬまで側にいて、姫君を何ものからも守る騎士となるのだ。
小さな身体に大いなる決意を込めて、少年は姫君を見つめる。
揺りかごの中の姫君は、少年の想いなど露ほども知らず、無垢な微笑みを浮かべていた。