集会の解散を宣言した村長が礼拝堂を最初に出て行き、ネノフはそれを見送るために続く。
 村長が場を離れたことで本当の意味での解散になり、村人たちは次々に礼拝堂を出て行った。

 カップを重ねて運んでききた盆に載せ、は首を廻らせる。
 ネノフと二手に分けてお茶を持って来たため、盆はもう1つあったはずだ。
 ネノフの座っていた場所を見つめ、神像の脇に盆が立てかけてあるのを見つけると、は燭台の火を吹き消しながら神像の前へと歩き始め――――――あと数歩で盆に手が届くという距離で、は足を止めた。

 気のせいであって欲しいが、神像の影から気配を感じる。

「……誰?」

 村人は全員礼拝堂を出て行ったはずだ。
 ネノフが礼拝堂に戻ってくるのならば、今夜に限っては普段使っている裏口ではなく、正面のドアからのはず。
 の誰何に、気配は僅かに身じろぐ。

 は半歩後ずさると、神像の影を睨みつけ――――――中から現れた人影に瞬いた。

「……ヒックス、さん?」

 神像近くの燭台に照らされた騎士の顔に、は瞬く。
 影の中から現れたのは、『出奔した』と聞いていた騎士ヒックスだった。






「久しぶり、でいいのかね。お嬢ちゃん」

「え?」

 瞬くに苦笑しながら、ヒックスは軽く片目を閉じる。
 いっそ軽薄とも思えるヒックスの気軽な挨拶に、はゆっくりとその言葉を理解した。
 たしかに、色々あって忘れていたような気もするが、ヒックスの顔を見るのは『久しぶり』だ。

「あ、はい。お久しぶりです」

 馬鹿正直にもぺこりと小さく頭を下げ、すぐには首を傾げる。

「え? なんで、ここに……?」

 エンドリューからは騎士を辞めたと聞いていたが、どこへ行ったかは聞いていない。
 いつものように陽気に笑うヒックスの顔に、は『ゲームでは』どこに居たかと記憶を探るが、なかなか思い出せなかった。が、間違いなく彼は『閃光騎士団にはいなかった』はずだ。

「ちょっと野暮用……っていうか、久しぶりにお嬢ちゃんの顔を見に」

 早速ヒックス口から洩れる軽口に、は思考を中断して応じる。

「色っぽい女神様に逢いに、の間違いでは?」

「まあ、それもあるけどな」

 そう答えてヒックスは木製の女神像を見上げた。
 そのどこか晴々としたヒックスの顔つきを、は目を細めて見つめる。
 どうやら以前彼の心を占めていた悩みは、解消されたらしい。
 そう羨ましくもあった。

「今、お茶を淹れますから、ゆっくりしていってください」

「おうよ。悪いな」

「いいえ」

 物陰から現れたヒックスにはびっくりさせられたが、相手がヒックスであれば、が警戒をする必要はない。
 はヒックスをお茶に誘うと、カップの載った盆を持ち上げて裏口の扉を開いた。