村人を門まで送った後、孤児院の建物内へと戻ったネノフは、踏み台を持ち上げ、定位置へと戻しているの後姿を見守る。

 不思議な娘だ――――――今日、改めてそう思った。

 イグラシオが連れてきた娘は、悪い娘ではない。付き合いはたった数ヶ月だが、どこにだって自信を持って嫁に出せる自慢の『娘』だ。
 そう思っている。
 そうは思っているのだが――――――イグラシオ同様、長く自分の手元に置いておける人間ではないだろう、とも思った。

 神話の時代が終わり、早数百年。
 今では神と対話できるほどの信仰心を持った僧侶は少なく、奇跡の力を借りられる人間となると、さらに少ない。
 癒しの奇跡を扱える者がいると知られれば、すぐにでも大きな聖堂や神殿のある町から迎えが来るだろう。そうなってしまえば、飢える心配はなくなるが、神の力の代行者として権威の象徴に祭り上げられてしまう。
 これまでのように、孤児達と暮らすことはできなくなるだろう。

 付かず離れず、一定の距離を保ちながらもの側で夕食の仕込みを手伝うビータとズィータを見つめ、ネノフはそっとため息をはいた。