が孤児院に住むようになり、すでに四ヶ月以上が過ぎていた。
 日本とは違う気候に最初は気が付かなかったが、がここに来たのは春先だったらしい。春にミューが来て、初夏にピクルスを作り、夏に『ここ』が『どこ』なのかを知った。
 そして秋に向かい始める夏の終わり。

 は孤児院の敷地からほとんど出なくなっていた。






 背負い紐でミューを背中に括りつけ、は洗いたてのシーツを風に広げる。ハイハイをするように背中で懸命に足を振るミューに、時々バランスを崩しそうになりながらもシーツを洗濯紐にかけた。パンパンっと手で叩いて皺を伸ばした後、は次のシーツをビータから受け取り、また同じように広げる。

 孤児院ではすでにお馴染みとなった、いつもの洗濯風景だ。

 いつもと違うところは、踏み洗いをする役割が双子ではなくズィータとイオタが行っている事だろうか。珍しいことに今日の双子はから離れ、エプサイランが家畜の世話をするのを見学している。

ママ、デルタが!」

 不意に孤児院の門を指差し、声を上げたズィータには瞬く。すぐにその指差す先を追い、村の畑を手伝いに行っているはずのデルタが丘を駆け上がってくるのが目に入った。

「なにか、あったのかな……?」

 不安気に眉を寄せたビータが、に身を寄せる。

 確かにおかしい。
 デルタは今日、アルプハと共に妊婦がいるため働き手の足りない家の畑を手伝いに行っている。午後になって帰ってくるのならば解るが、まだ正午にもなっていない。一日の畑仕事が終わるにしては、早すぎるだろう。それでなくともアルプハと出かけたデルタが、一人で帰ってくるのはおかしかった。
 身を寄せてきたビータの頭を撫でながらは、門扉を開き一目散に孤児院の中へと駆け込むデルタを見つめる。

 デルタは達に一瞥をくれることもなく家の中に飛び込むと、すぐに前掛けと袖捲くりをしたままのネノフと一緒に戻ってきた。

 その間も、デルタが達を見ることはない。


 ただ手を引かれるままに走るネノフが『心配ない』とでも言うように、一度だけ達を振り返った。