「……うん、順調、順調」
早朝に王都を出立して半日。
行きに道を間違えたレルムの村への分かれ道は、半刻ほど前に通過した。
地図に描かれた太い王都街道を目で追い、細い脇道を確認し、さらにその先に書かれた丸印に、マグナは顔を上げて目の前の建物を見上げる。
地図上の丸印が、目の前の建物だ。
雨風がしのげ、新鮮な水が補給できるこの建物は、ゼラムに向かう際にも世話になった休憩所。
空の真上にある太陽とくつろげる空間に、休憩を兼ねてここで昼食を取ろうという話しに全員一致で決定した。早速ゼラムで買ったお弁当を卓に並べはじめたとハサハを目の端に捉えながら、マグナはぐるりと辺りを見渡す。
何気なく見渡した視界に飛び込んできた物は――――――
「……山賊出没。注意されたし?」
何気なく視界に入ったはり紙に、マグナはピタリと動きを止める。
背後からカチャカチャとが茶器などを用意している音が聞こえたが、すぐにやめさせるべきなのかもしれない。
旅人の為に善意で用意された休憩所ではあるが、確かにここは旅人がもっとも気を緩める場所でもある。当然、山賊や盗賊の類いにとっても、絶好の仕事場であるはずだ。
休憩場所の選択を誤ったか? ――――――そうマグナが僅かに眉を寄せると、辺りを見渡す途中でピタリと動きを止めた主人を不思議に思ったのか、が顔を上げた。
「……この辺りの山賊は、少し前に一掃されたそうです」
マグナの関心を引いている物の正体に気がつき、は心配する必要はないのだ、と口を開く。
そういえば、王都で一人行動している間に仕入れた話がいくつかあったが、全てを報告したわけではなかった、と。
「なんでも、二人組の冒険者と蒼の派閥の召喚師が山賊の根城を突き止めて、
そこを聖王国の騎士が制圧したとかなんとか……」
の聞いた噂の中では、騎士が制圧したのではなく、冒険者と召喚師の4人で山賊を倒したのだ、等という到底信じられない話もいくつかあったが。多くの情報に共通する点と言えば、『山賊の一団は捕らえられた』といことだ。
今、この場で自分達が山賊を気にする必要はない。
――――――まったく気にしないのも、それはそれで問題だったが。
「つまり、今はあまり大きな山賊団はいない、ってことか」
安心しきった微笑みを浮かべるに、マグナは「今の所は」と出かかった言葉を飲み込む。山賊などと言う人種が根絶されることはあり得ないが、それをこの場で指摘して無闇に少女二人の不安を煽る必要はない。
「あ、こら、ハサハちゃんっ!」
ほんの少し視線をマグナに向けた隙に、ぽんっとハサハの小さな口の中へと放り込まれた飴玉に気が付き、は眉をひそめた。これからお昼御飯だと言うのに、お菓子で空腹を満たしてしまってはいけない、と。
お菓子は御飯の後でと切々と躾けると、聞いているようで聞いていないと判る――ゆらゆらと白いしっぽが退屈そうに揺れていた――ハサハのやり取りをしり目に、マグナは身体の向きを変えた。
まずは安全らしいと解ったが、それでも建物の周囲を確認しておきたい。
「一応、この辺りを少し見てくるから……」
「あ、でしたらわたしが――――――」
「はお湯を沸かしておいてよ」
パッと顔を上げて立候補したを、マグナは苦笑を浮かべながら遮る。
安全とは言っても、一応は見回りだ。
こういう事は男である自分の仕事だ、と。
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(2010.10.14)
(2010.10.19UP)