「ふ〜」

 手にした鉄の棒を見下ろして、は息を吐く。

(……やっぱり、教えるの上手いなぁ)

 どこかのイベントで、ジェイドは『教えるのは嫌いだ』『弟子はとらない』と云っていたような気もするが。
 さすがは軍人。
 戦闘のプロ。
 武器の扱い方を他人に教えるのも上手い。なんだ、かんだと嫌味を云いながらも、にしっかりと棍術の基礎を教えてくれた。……とはいえ、護身術レベルの話であったが。今のには、例え護身術レベルであっても有り難い。護身術はおろか、武器の持ち方すらは知らないのだから。

 ほんの少しだけ馴染みはじめた武器の重みに満足し、は顔を上げた。






「……
 何処に行っていたんですか?」

 焚火の側で、の姿に気が付いたイオンが立ち上がる。火の番をしていたらしいガイも、イオンの声にの方を見た。ルークはすでに寝ているのか、いびきが聞こえる。ティアはルークとは焚火を挟んで逆の位置に体を横にしていたが、こちらは寝ているのかは、遠くからでは判らなかった。

「大佐に色々教えてもらってました」

 小走りに近付いてきたイオンに、は鉄の棒を見せる。

「ジェイドの槍ですね。刀身は外されているようですが」

「これなら怖くないだろうって、大佐がとってくれたんです」

「んで、その大佐殿は?」

 火を絶やさないよう、焚火の中に薪を追加しながら、ガイがの後ろを覗いた。連れ立って仲間たちの輪から離れたとジェイド。そのの後ろに、ジェイドの姿はなかった。

「わたしの短剣をしばらく使う事になったから、
 『間合いに慣れるためにもう少し頑張ります』……だそうです」

 槍と短剣の間合いは違う。
 急遽の持っていた短剣を扱う事になったジェイドは、に棍術を教えながら、自分は短剣の間合いを学んで―――思い出して―――いた。戦う事が仕事である軍人のジェイドは、棍の使い方を知っていたように、短剣の扱い方も知っている。譜術と槍術のエキスパートとして知られてはいるが、他の武器が使えないという訳ではない。

 ジェイドの伝言をそのまま伝え、は苦笑を浮かべる。

 ジェイドの行動が、本当に『慣れるため』なのかは判らない。
 あの妙に器用な男ならば、久しぶりに使う武器であっても、鍛練などなしに扱えそうな気がするのだが。それは『ゲーム』を通しての先入観だろうか。
 ジェイドにも『苦手』なものがあるとは、どうしても思えなかった。

 ガイに向かい、苦笑を浮かべたの横で、イオンは微かに眉を寄せる。
 武器を持ったの手に、イオンは自分の手を重ねて詫びた。

「すみません。
 にまで、武器をもたせるようなことになってしまって……」

「イオン君が謝ることじゃないよ。
 いつまでも護られているだけって訳にはいかないでしょう?
 わたしだって、いつかは……」

 ルーク達に付いて旅を続けるのならば、いつか必ず戦う事が必要になってくる。
 にとって、それが今であっただけのことだ。
 むしろ、いつか戦うことになるのなら、『今』『この時点で』『戦闘のプロであるジェイドに』意外にも『丁寧に』教えられ『幸運だった』ともいえる。

「ですが……」

 なおも云い募ろうとするイオンを、は武器に添えられたイオンの手を引いて止める。

「イオン君も、そろそろ休まないと。
 また倒れちゃいますよ?」

「……」

 気にかけるべきに、逆に気を使われ、イオンは顔を曇らせた。
 の云う『また』が『いつ』を指しているのか……それが判らない程に、日中何度もイオンは体調を崩している。そのたびに休憩をいれたり、歩きやすい道を選んだり、と旅程が遅くなり、追跡者に見つかる事がしばしばあった。

「あ、眠れないなら……何かお話を聞かせてあげようか?」

 黙ってしまったイオンをどう捕えたのか、はわざと明るい声で提案する。
 イオンの手を引き、焚火の側に腰をおろしながら、は少しだけ考えるように首を傾げた。

「何がいい? 何がいいのかな……っていうか」

 はたり、と気が付き、は口を閉ざす。

「わたし、読み聞かせするような童話、知らない……」

 ただし『オールドラントの』と付くが。
 日本や外国の童話であれば、当然は知っている。
 自身、それらを聞いて育ったのだから。
 だが、それが『オールドラントの』となると……話は別だ。
 ダアトの図書館にあった『3匹のうしにん』というタイトルを考えると、『3匹のこぶた』をモデルにした名付けであろう、とは想像できるが……その中身までは見当もつかない。
 まさか自分の知っている日本の童話をそのまま話すわけにもいかず、は肩を落とす。しゅんっと俯いたに、イオンが苦笑を浮かべた。

「それも、記憶喪失のせいでしょうか?
 ……なんでもいいですよ、が聞かせてくれるなら」

 子供に聞かせるような童話でも、大人が好むような物語でも構わない。

「そう?」

 『なんでもいい』と云われ、は首を傾げる。
 子供の読む童話でなければ、誰も知らないような物語であっても不自然はないだろう。『オールドラント』にも小説の類いはあるはずだ。

 は首を傾げて考える。
 何か、イオンに聞かせたい物語はなかっただろうか――――――?

 預言を遵守することが『美徳』とされる世界に生まれたイオン。

 預言は可能性の一つだ、と訴えるイオンに伝えたい……『物語』ではなく『伝説』。



「……白き、清らかな、魔女のお話を――――――






  

ネタとしてはともかく、イオンに本気で聞かせてやりたいです。
『白き魔女』
興味がある人は、Win版でも、PS版でも、SS版でも、PSP版でも、PC98版でも、御自由に手を出してみて下さい(爆)
破滅の予言に対し、希望の種を蒔き、最期の瞬間まで諦めずに旅をした魔女のお話です。