合い言葉は、たった一言。
『気軽に夢見ましょう?』
は静かに瞳を開く。
夕闇に包まれたその場所は、の知っている場所。
けれど、そこに咲く花の匂いを、は知らなかった。
花の匂いだけではない。
テレビの画面越しだった『その場所』からは、暗い海が見えた。
当然、今がいる場所でも海特有の潮の香りがする。
『匂い』をもった世界に、はゆっくりと瞬いた。
目の前には、夕闇に誘われて花ひらく白い花。
たしか、名前は……『セレニアの花』。セフィロトに群生することのある、日の光を好まない……日の光が届かない魔界において花を咲かせる、唯一つの花。
群生するセルニアの花の中から身を起こし、は辺りを見渡す。
花と土、潮の香りをのせた風が、の髪をゆらした。
水平線の彼方へ沈み行く夕日。
急速に忍び寄る夕闇と夜の冷気に、は肩を抱き、ぶるりと震えてから立ち上がった。
「……ここは、『タタル渓谷』……?」
少ない情報を元に該当する場所を記憶の中から探り、は軽くめまいを感じる。それから、こめかみを指で軽く押さえた。
足下には赤毛の少年と亜麻色の髪の少女――――――ルーク・フォン・ファブレとティア・グランツ。のよく知る『キャラクター』が倒れていた。
ここはルークにとって『始まりの場所』。
そして、にとっても『始まりの場所』となる。
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