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一見ピオニー夢。


その実、ジェイド夢?

「お? なんだ? やけに珍しい顔が居るな」

 開口一番、目を丸く見開いた皇帝陛下にNoNameはわざとらしく眉をひそめる。
 そのまま『心外だ』とばかりに腰に手を当てて目を細めて、玉座に座る男を睨みつけた。
 睨みつけられた当の本人はNoNameの棘のある視線など微塵も気にならないのだろう。悪びれる様子もなく悠然と玉座から腰を上げた。

「『ジェイドがアクゼリュスで行方不明になった。
  寂しいからおまえもグランコクマに来~い』……とか、
 情けなくも女々しい書簡を恥かしげも無くケテルブルグのお屋敷に送ってきたのは、
 どこの皇帝陛下ですかぁ~?」

「俺が可愛くおねだりした所で、
 素直にケテルブルグを出るおまえじゃないだろ」

「三十代後半独身男性の『可愛いおねだり』なんて、気持ち悪いだけです」

「そこはホラ、アレだ。
 少年時代の可愛らしい俺に脳内変換してだな……」

「見上げなきゃ目も合わせられない相手を、
 可愛らしい少年に脳内変換するのは無理があります」

 実際問題、NoNameが子守メイドとして彼に仕えた当時、ピオニーの身長はすでに彼女の身長を越していた。年齢はNoNameの方が『少しだけ』上であったはずだが、少々特殊な条件下にある身としては、あえてそこには触れない。触れてしまえば、年齢だけではすでに『四捨五入をすれは四十代』などと可愛いことはいえない年齢だ。老いを忘れたNoNameの身体では、少年はすぐに青年に変わり、また青年から老人へと移り変わっていく。時間に置き去られる身としては、他者の幼年期など瞬きにも似た短さだ。
 世間一般に少年とされる時期のピオニーの横にNoNameが立っていたところで、少し年上の子守メイドと見えていただろうが。
 中年期に入ったピオニーの横に立つNoNameを、いったい誰が『少し年上』と見るだろうか。
 事情を知らぬ者からしてみれば、ピオニーの方が一回りは年上に見えるのが普通だ。

 玉座を降りて目の前に立った『かつての少年』を見上げ、NoNameは唇を尖らせる。
 昔から変わらぬ余裕綽々とした態度が少々面白くなかった。
 身体の成長に合わせたかのごとく成長を見せなかったNoNameの精神面は、現在では見事にピオニーと自分の年齢を『見た目どおり』に反転させていた。

「動かざること山の如し! 立っている者は皇子でも使え!!
 ……なおまえがケテルブルグからわざわざ出てきたんだ。
 何か考えがあってのことだろう?」

 そう意味深に微笑むピオニーに、NoNameは小さく肩を竦めて答える。
 確かに、皇帝に呼ばれたからと言ってケテルブルグを離れる自分ではなかった。雪に閉ざされたあの町は、2人の天才を生み出した町としても、人の出入りが多い観光地としても、不老の身を持つNoNameが隠れるのに持ってこいの場所であったし、館守の名の下にお屋敷に閉じこもってしまえば他人との接触は必要最小限に止めることができる最高の場所だ。
 その最高の場所から出てまで、NoNameはグランコクマへとやってきた。
 もっとも苦手とするジェイドに同行してまで。

年齢だけなら60歳越えてる気がする夢主。

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