はぁはぁと荒い息が聞こえて、私は顔をしかめた。
うるさい、なんだろうこれは。
一瞬思って、それからやっと、あぁ、自分の息だと気がつく。
あぁ、そうかそうか。
それはそうだ。
目の前には、氷、氷、氷。
氷漬けの人、氷漬けの銃。氷漬けの火薬。
「は、あは、あはははは!!」
私は高笑いを上げた。
馬鹿笑いかもしれない。
なにしろ愉快で仕方なかった。
あぁ、ざまみろ、ざまあみろ
「ざまぁみろってんだ、織田信長ぁああああ!!」
「貴ぃ様ぁああ!!」
地獄の底から這い登ってくる声。
遠くで、お市様がびくりと震えたのが分かる。
長政様が何か叫んでいる。
その内容は、分からない。分かりたくない。
退けとか逃げろとかもう十分だとか、冗談言ってんじゃないよ、ご主人様方。
OKOK、チャンスだベイビー、分かるだろ?
勝つチャンスじゃない、あんたらが逃げるチャンスさ、マスター。
私は持った薙刀を構える。
私の技で、ここいらに居た織田軍の銃も火薬も氷漬け。
目の前の織田信長は私に夢中。
またとないチャンスだ。
…チャンスって言っても、わかんないかな。わかんないな。多分。
横文字なんて、めったに口に出さない。
視界の端に入る、お市様と長政様の姿を目に焼き付けて
私は一歩踏み出して、そこから先は止まらない。
「死ねっ織田信長ぁ!!」
「躯にしてくれるわぁ!!」
刀が振り上げられる。
お市様が、立ち上がったのを織田信長の後ろに確認して、
私は少しだけ、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。
あんたがそんな表情するこたないんだよ、お市様。