「今日も今日とて楽しい夜勤やきーん」
自作の歌を歌いながら、は制服に着替え仕事に出る支度を済ませた。
明け方帰ってきて、昼間に目が覚め、夕方仕事に出る。
なんて不健康な生活だろう。
今の歌では楽しいと歌ってみたものの
楽しいか楽しくないかで言われれば、全くもって楽しくない。
楽しくないが、その辺りは何とかするしかあるまい。
ももう良い大人であるので。
そう、いい歳なのよね。
は、二十一という、自分の年齢をかみ締める。
…年齢を考えれば、いい加減落ち着かなければならないと
思っているのだが、これがなかなか。
姉のように自分の感情を抑えて生きるのは、には難しいことだった。
いずれ、どうにかなればいいんだけど。
思いながら自室の外に出ると、政宗と小十郎が黙ってテレビを見ていた。
「なんか良い番組ある?」
「ねえが、まぁ、これもstudyだな」
面白くなさそうにテレビを眺めている政宗の、視線の先を見てみると
そこには大昔に流行ったトレンディドラマが映し出されている。
なるほど、確かにこれは楽しくなかろう。
多分、も見ても面白くない。
大した内容もなく、惚れたはれた好いたを
延々のろのろ進行しているドラマ画面を見ながらは思う。
…小十郎など、物凄い渋面を作りながら、画面を眺めている。
そこまでして、これを見なくてもいいんじゃ。
思って、新聞を広げてテレビ欄を見てみるが、これのほかは同じようなドラマか
お笑いバラエティしかない。
は無言で新聞をとじて、画面をチラッと見てため息をつく。
この時間は、ろくな番組がやってないな。
こうもろくなものが無いのなら、外に出て真田主従に混じって鍛錬でもして
暇を潰してくればいいのに。
思ってみるが、帰れば同盟関係にはあるが、友好関係では無いという彼らは
あまり関わりあいを持たずに、この家で生活しようとしているようだった。
日中はおおむね、伊達主従が二階、真田主従が一階・もしくは外で過ごしている。
小十郎は畑があるため、時折外に出て畑を弄っているようだったが
政宗は日中は外に出ず、代わりに夕方から夜、外に出て鍛錬を行っている。
姉が帰って来て、夕ご飯を食べる頃になると、大体全員が二階に集まってくるのだけれど。
ただ、政宗と幸村に限って言えば、時折雑談をしたり一緒にテレビを見たり
たまーに交流を持っているようではあったが。
しかし、幸村と小十郎、政宗と佐助、もしくは佐助と小十郎の組み合わせで
会話しているのは、はお目にかかったことがない。
…まぁ、その辺りはは口出ししないようだし、
も好んで節介を焼きたいところでもない。
彼らには彼らの世界があって、喧嘩や殺し合いをしないのであれば
の世界を押し付けるのは、よろしくないと、は思うのだ。
個人主義個人主義。
心の中で唱えて、は再びちらりとテレビ画面に視線を移す。
「…やっぱり面白くない」
呟くと、政宗がこちらに視線を向けて、そこで不思議そうな顔をする。
「………ところで、あんたなんで制服なんだ?」
「え?今から出勤だからだけど」
「…今日は、休みだといってなかったか?」
小十郎にいわれて、は立ち上がり、台所と居間の境の壁に張ってある
シフト表を慌ててみる。
すると、確かに今日の日付にはでかでかと休みと書いてあった。
「………あれまぁ…」
「あれまぁじゃねえだろ。良かったな。俺達がいて」
「いや、ほんとに」
政宗の言葉に大きく頷いて、は自室に戻って、ぱぱっと制服を脱ぐ。
仕事じゃないのに、こんな堅苦しい服着たくない。
気の抜けたジャージ姿に着替えて、は再びリビングに戻った。
「いやぁ、助かった」
「休みぐらい覚えてろよ」
「や、最近いつにもまして変則的だったからさ」
「普通は、土曜日曜…が休みなんだったか」
「そうそう」
は言いながら政宗と小十郎の間に座り、
食卓に置かれていたチャンネルを手に取ると、無造作にチャンネルを変える。
地上波なのが悪いのだ、地上波なのが。
BSでどうぞよろしくと、チャンネルを回すと、
丁度BSでは旅行番組が流れていて、二人の反応を見て、はチャンネルを食卓に戻した。
テレビの中では、芸能人が冬の日本海の傍近くを歩き、その荒波を眺めている。
「なにしてんだ、この番組は」
「んー?旅行番組。温泉とか、色々旅行スポットを紹介してるの」
「のどかなもんだな」
しばらく、ぼんやりと旅行番組を三人で眺める。
名前も分からない芸能人は、しばしの間色々な観光地を回っていたが
やがて、宿へと場面が移った。
旅館の玄関が映り、天井の高いフロントへ場面が変わったところで
はいいなぁと思わず零す。
「いいなぁ、旅行行きたいなぁ」
「行けばいいだろ」
「行けないんだって、まとまった休み取れないから。
いいなーいいなー旅行いきたーい」
「なんだってそんな仕事に就いたんだ、お前」
食卓にべったり張り付いて騒いでいると、政宗が呆れた顔をしながら突っ込んでくる。
まぁ、確かにその疑問はもっともだ。
時間もまちまちだし、休みも不定期だし、まとまった休みはまず望めないし。
おまけにの職場は、人が休みのときほど仕事仕事、だし。
考えながら、は政宗の疑問に答える。
「いやぁ、なんだってって言われても、ただの消去法。
性格考えると、机仕事は無理だし、営業も説明へたくそだし。
じゃあ、身体動かす仕事ならいいかなぁと思ったんだけど」
答えて、はもう一度旅行行きたい…と呟いた。
大体、旅行自体最後に行ったのは、高校の修学旅行だ。
それから数えて約五年。
「たまにはぱーっと羽を伸ばしたい……」
「おいおい、爺むさいこと言うなよ、」
「爺むさくていいよ。政宗よりかは年上なんだしー?」
「……は?」
…………なぜだか、が言うと、その場に沈黙が落ちた。
べったり張り付いていた食卓から身を剥がして、
は政宗と小十郎の顔を見る。
…二人とも、ありえない言葉を聞いたような顔をしていた。
「………ちょっと、聞きたいんだけど」
「俺も、聞きてぇんだが」
「俺もだ」
「……あんたら、あたしのこといくつだと思ってんの」
「…十代。逆に聞くが、。あんた俺のこといくつだと思ってる」
「十代」
「……………俺は、確かに十代だが、nineteenthだぞ…」
「……………あたしは、残念ながら二十一なのよ。そして何故英語で言った」
「は?!」
は、の声の主は小十郎だった。
そして、政宗も声は上げないながらも、いや、声も上げれないぐらい驚愕している。
ちょっと、どういうことだ、お前ら。
「…………あのさ、とりあえず、殴ってもいいかな。
頬とは言わない。鼻でいい」
「余計悪いだろ!!ちょと待て、というか、本当に二十一なのか?」
「見えないっていうの?」
「Oh,My God!!」
「……俺はてっきり十七かそこらかと」
「俺もだ小十郎。お前は間違っちゃいない」
「間違ってるよ思いっきり!!十七って四つも下じゃない!」
首を振り合い、共感しあう主従に、は声の限り突っ込んだ。
しかし彼らはのその叫びに、揃って頷く。
「二十一って言ったら、普通結婚してる年だぞ」
「テメェのその落ち着きのなさは、てっきり十代ぐらいだからだと」
失礼だ。心底失礼だ。
は、二人を殺さんばかりの勢いで睨みつける。
この場合の、十代に見えるというのは若く見えるじゃなくて
ガキくさいだもの。失礼だもの!!分かってるけど超むかつく。
しかも年下の政宗に言われるだなんて。
「そりゃあ、小十郎さんに言われるんなら仕方ないけどさぁ」
「何が、俺なら仕方ないんだ」
「…だから、十代に見えますね、ガキくさいですねって」
「小十郎ならいいのかよ」
「だって、一回りちょっとぐらい違うでしょ」
政宗の突っ込みに、頬杖を付いてふてくされながら答えると
小十郎の顔が、ぴしり、と凍りつく。
その反応に、無言では政宗の顔を見る。
彼は、あちゃーという顔をしていた。
あからさまにしていた。
……え、三十六ぐらいだと思ってたのに。
そろそろと小十郎の顔に視線を戻す。
すると、彼は地獄の底から出したような声で
「俺は、まだ、二十九だ…」
「………えぇと、ごめん」
オールバックで強面で、顔に傷で苦労人で、がたいが良いのが悪いんだと思うよ
とはは言えなかった。
それをいうと、小十郎のほぼ全てが悪い事になる。
老け顔なのか、それとも全身からにじみ出る雰囲気のせいなのか。
どうみても三十は超えているように見える小十郎を見ながら
は黙ってまぁ、両方だなと思った。
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