わぉ、なんだこれ。
散々悩まされた原因を発見して、は頭を抱えて机に突っ伏す。
nullを文字列判定しようとすると、死んじゃうんだって。
何年この業界やってんのかなぁと思いながら、ぱちぱちとキーボードを叩いてコンパイル。
実行、テスト、OK。
「すいません、修正、テスト終わりました。検収お願いします」
「分かった。悪いねぇ、いつも」
「いいえぇ」
はたはたと手を振って否定する。
来週納品の納品物の開発者が、よりにもよって、インフルエンザにかかって
それがのところに回ってきたのだが、まあ、いつものことだ。
そして、一応作業完間近のはずの納品物から、
大量にバグが出てくるのも、またいつものことだ。
悲しいながらね、と、思いつつも、定時を三十分過ぎた時計を見ながら
は上司に向かって躊躇いながら、切り出す。
「あの、それで申し訳ないんですけど、私帰っても大丈夫でしょうか」
「あぁ、ちょっと待って。じゃあ今すぐ動き見るから。
………………いいよ、帰って」
「はい、じゃあ、お先に失礼します」
ぺっこりと頭を下げ、自分の席に帰って荷物を纏める。
普段ならもう少しやって帰るのだけれど、家にあの四人が居る以上
あんまり遅くなるのもなんだし。
今日はも昼から五時シフトだから、もう家に居るはずと
考えながら、タイムカードを押して
「お先に失礼します」
ぺこりとフロアに向かって頭を下げ、はオフィスを飛び出した。
「燃えよ佐助、燃え滾れ!!」
「無茶言わないでよ、真田の旦那!っていうか、燃えたら駄目でしょ、この状況」
「ふふふふふ、もう…駄目かしら」
「Ah…無残だな」
「………猿飛」
「無茶、言わないでっていってんだろ!
俺をなんだと思ってんだよ!」
「………なにやってるの、みんなして」
「テレビゲーム」
「いやぁ、そりゃ分かるけどね」
一階まで響いていた賑々しい声に、何事かと思って上がってみると
何のことは無い。
居間のテレビにゲーム機を繋いで、全員でテレビゲームをしていたのだった。
テレビ画面をチラッと見ると、所有のパズルゲームが画面には映し出されている。
単純だけど、熱くなるから。と、状況を理解しただったが
いつまでもいつまでもゲームをされていたのでは、ご飯に出来ない。
「…とりあえず、今からご飯にするから。
出来たら片付けてね」
「はーい」
「…あと、お風呂入れてないんなら、入れてきてね。今」
この様子だと、大分前からやっていたようだし、
風呂当番のが風呂を入れていない可能性が高い。
…人数多い分、さっさと入ってもらわないと、後がつっかえると
ご飯を食べて少ししたらすぐ、入れるようにと
を追い立てようとすると、対戦に勝った佐助が軽く手を上げた。
「あ、俺入れといたよ」
「え、猿飛さんがですか?」
確かに風呂の入れ方は昨日教えてけれど、やってもらえるとは思わなくて
多少びっくりしていると、彼はにこりと笑う。
「うん。置いてもらってるんだからそれぐらいはねー」
「あら、ありがとうございます。
じゃあ、ご飯は猿飛さんの分はちょっとおまけしておきますね」
良い子だから褒めてあげましょう位の気持ちで
さらっと言ったの言葉に、佐助の動きが一瞬止まった。
それにつられるように、居間の空気が停滞する。
「おま……」
「え?」
「子供じゃないんだから。っていうか、それ、素なの?
………素なんだよね、あのときのあれ見る限り」
なんともいえない顔で、佐助が言う。
むずがゆいような、困ったような、どうしたものか、反応しかねている顔で。
迷子のときから思っていたけれど、やっぱりそういう人なのよねと
その顔の意味を分かったは、生暖かい顔で視線をそらす。
…それだけなら、まだ佐助にとっては良かったのだが
佐助の反応を理解した政宗が、にっやぁと悪い顔で笑み、佐助の肩をぽんと叩いた。
「猿飛、照れてんのか」
「はぁ?!ちょ、馬鹿なこといわないでくれる?」
「あぁ、照れておるのか、佐助」
「照れてないよ!」
大声で反論する佐助に、政宗はにやにやと笑ったままだし
幸村はうんうんと頷いている。
……照れてるっていうか、戸惑ってるんだと思うんだけど。
面倒見る側というのは、大抵小さなときからしっかり者で。
子ども扱いというのも、中々されにくいものなのだ。
経験者は語る。
そして、やられ慣れてない行為は、どう受けていいものか
戸惑うものなのだ、丁度今の佐助のごとく。
しかし、それを言って、佐助に救いの手を差し伸べていると
ご飯を作る時間が段々延び延びになるのも間違いないし…。
「…私ご飯作ってきますね」
「ちょっと、事を起こしといて逃げないでよ、ちゃん!!」
「えぇと、とりあえず、おかずはおまけしときますねー」
「実は良い性格だよねぇ、あんたさぁ!」
だって助けてると、絶対時間なくなるんだもの。
台所に逃げ込みながら声をかけると、佐助の怨嗟の声が後ろから聞こえて
はお義理で、怖い怖いと呟いておいた。
夕ご飯の献立は、豚のしょうが焼き、ナスの味噌煮、ごはん、みそしる、おつけもの。
それに舌鼓をうった後で、としてはすぐにお風呂に入らせて
…それから、一昨日知った事実の説明をしたかったのだけれど。
幸村にも食後の片づけを手伝ってもらった後、洗い物をしようとして居たは
しかしに居間に引っ張り戻された。
「じゃあ、お姉ちゃんも久しぶりに対戦しようよ!」
「……私、洗い物もあるし、お風呂も入って欲しいし、
説明したいこともあるんだけど…」
「一回やった後でいいから。今暫定最弱決定戦の最中なの!」
「…最下位誰」
「あたし」
その必死な物言いに、嫌な予感がしながらが尋ねると
はまっすぐに手をしゅたっと上げた。
…お願い、躊躇って。
「………ちゃん?」
「だって、皆強い」
の言い訳に、しかし、後ろに居た戦国武将たちは揃ってぶんぶんと首を横に振る。
とても、物悲しそうな顔をして。
「違う、ちゃんは勝手に自滅するんだよ」
「哀れになって、勝たそうと思ったのでござるが」
「…全員負けられなかった」
「信じられんことにな」
「…………」
時折対戦していたが、こういう類のものは物凄く弱いのは知っていたけれど
どうして、今日、初めてやった、昔々の人たちに、惨敗しちゃうの。
やっていたパズルゲームは単純な落ちものゲーで
確かに慣れるのは早いだろうけどいやでもしかし、情けない。
…つまり、あれか。
帰ってきたときに騒いでいたあれは、を勝たせようと必死な状況だったわけだ。
本当に、悲しくなって顔を手で覆うと、がぐいぐいとの袖を引っ張る。
「だから、やろうよお姉ちゃん」
「………じゃあ、一回だけね。すぐ、終わらせるから」
出てきた涙を拭って、ゲーム機の電源を入れて、は悲しげな顔をして微笑んだ。
引導は、渡してやらねばなるまい。
…そして…勝負は、無慈悲に一瞬だった。
「あ、ごめんね」
「あ」
「ふふふ」
「あぁあぁあああ」
「あはは」
「ああああああああああああああああああ」
「じゃあ、そういうことだから」
「…………」
「Ah-………見事な、一方的な虐殺だったな」
情け容赦なく連鎖の嵐を妹に送り、一瞬でお邪魔アイテムで
画面を埋め尽くしたは、ぽんっと妹の肩を叩いて
「ちゃん、あなたこういうゲーム向いてない」
「……はい」
「ところでお姉ちゃん、ちょっと説明したい事があるんだけど
先に皆にお風呂に入ってきてもらってもいいかな?」
「はい…」
「ちゃんも、お風呂入ってきてね」
「…はい…」
がっくりと床に突っ伏すの了解を得たは、
ゲーム機を片付けながら、その場に居る全員に
そういうことですからと声をかける。
「今言ったとおり、説明したい事があるので、ちょっと先にお風呂入ってきていただけますか。
場合によっては長くなるかもしれませんので」
「It has understood」
「ちゃん、一番風呂入っちゃいなよ」
「うぇええ」
「ちゃんと返事をしろ、手前は」
小十郎に立ち上がらせられながら、が自室に戻ってゆく。
は洗い物をしに、立ち上がろうとして。
「…………」
「…………」
幸村と目が合い、はゆっくりと頷いて見せた。
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