「じゃ、先生」
脱衣所においてある洗濯機の前に、全員居並ばせ
はの方をむき、洗濯機を手で示した。
「え、あたし?!」
「だって、が洗濯物当番じゃない」
「えー…………」
不満の声を上げながら、が洗濯機の前に立ち
その横の棚から洗剤を持ち上げて、武将達に示す。
「じゃあ、まず洗濯物を入れます。
で、洗剤を一目盛りいれて、スタートを押すと、回ります。
あとは回り終わるのを待って、干します。以上」
「…非常に簡単な説明ありがとう」
「いいえ?」
じゃ、終わりとばかりに洗剤を元の場所へ戻すに、
嫌味をこめて礼を言えば、彼女は分かっていないようで
いいのよお姉ちゃん。という顔をした。
褒めてない。本当褒めてない。
それじゃあ、説明不足過ぎるだろう。
確かに洗濯機の使い方の説明にはなったかもしれないが
洗濯機自体の説明から入りなさいよ、!
……とは思ったものの、に説明させること自体、間違いだったのかもしれない。
説明能力不足ぎみの妹を、悲しみを込めた目で見ながら
は代わりに洗濯機の前に立ち、洗濯機をぽんと叩く。
「とりあえず、もう一回言っておくけれど、褒めてないからね。
えぇと、この機械、からくりは洗濯を行ってくれるものです。
今言ったとおりの手順を行い、からくりを起動すると
洗濯、すすぎ、脱水まで行ってくれるので、あとは干せばいいだけの状態になります。
それから、説明の中に出てきた洗剤は、
汚れを落とすのに役立つもの……戦国時代は灰汁なんでしたっけ。
あれのすごい豪華版みたいな物だと思えば。
で、物干し場は、外出てすぐの屋根があるところです。
物干し竿があるからすぐ分かると思いますけど」
「お姉ちゃん補足ありがと!」
「…どういたしまして」
説明し終わると、しゅたっと手を上げた。
これで、自分の説明に足りないところがどこだったか、分かっただろうか。
二日連続で外に出たくは無いので彼女に託すが
伊達さんたちを外に連れて行くときには、きちんと説明してよと
祈るように思いながら、は彼女に向かって頷く。
「…言いたくねぇんだがところで」
「うん?」
振り向くと、小十郎が渋面を作ってこちらを見ていた。
「その洗ったものの中の、俺達の分は誰が干すんだ?」
「が当番ですけど」
「あたしが干します!」
を指差すと、しゅたっと、元気良くが手を上げる。
搾り出すような右目の声は気にしない。
すると、全員があっという顔をして、次になんだか慌てて
最後にもの悲しげな表情になった。
そうして、全員の声を代弁するように次に口を開いたのは佐助で
「………………うん、ごめん。俺も右目の旦那が言いたい事が良く分かった。
女中で仕事ならともかくね、未婚の若い女の子が男の下着なんて洗うもんじゃないし
ましてや、干すもんでもないよ」
「えー。だって当番なのに」
彼は諭すようにに向かってそういった後、
不満の声を上げるに、の方をちらちらと見る。
……と、言われても。
そんなにすごいことだっただろうか。
洗濯物干す位、別に気にしないのだけれど。
思ったものの、ノーパンがあれだったのだから、やっぱり駄目なんだろう。
こういうところの意識のすり合わせは、多分無理だろうと考えつつ
は肩をすくめる。ちょっと面倒。
「俺達の分は、俺がやるから。お願いだから、ね?」
水道代勿体無いんだけど。
…正直なところ、そうなのだが。
じゃあここでやっぱり一緒に洗いましょ。
といったところで、聞き分けない気がする。
顔を真っ赤にしながら、今にも破廉恥!!と叫びだしそうな幸村が特に。
女子は苦手だといっていた彼を知っていながら、
良く知りもしない家族でもないそれと一緒に、彼の衣服下着を一緒に洗えというのは
なんだかやっぱり可哀想で。
そうでなくても男性陣は全員嫌そう、というか抵抗があるようであるので
仕方ない、か。とは不承不承頷いた。
「…………そうですね、じゃあ、分けるって言うことで
まぁ、ご自分達で洗濯も干すのもやっていただけるなら
こっちも助かります」
それでも、内心を隠して微笑むのは、大人の気遣いという奴だ。
嫌そうな顔をしながらなんて、とんでもない。
その後、姉妹が遅くなったとき用に風呂の入れ方や
家の敷地の説明や、山の方へ入ると今は猪狩りをしているから危険だという話。
それから、家の裏手にある竹林は、うちの家の敷地だから
鍛錬するならそこでという話を全員にしてから、政宗たちを送り出す。
自室になった場所の掃除をするという佐助と幸村に
必要なものを渡してから、今にも出かけようとしている
を呼び止めて、は一枚のメモを彼女に渡した。
「、悪いんだけど、外出るついでにこれ買ってきてくれる?」
「ん、分かった」
目を通して鞄にメモをしまいこむに、はそれから、と
携帯電話をポケットから取り出して、それも彼女に渡す。
「とりあえず、外に出てはぐれたらいけないから。
片倉さんと伊達さんに、と私の分の携帯を渡しておいてね」
「んー?大丈夫じゃない?」
「だーめ。いいから渡しておきなさい。
はどうにかなるけど、あの二人ははぐれたらどうしようもないでしょ」
休日の人波を舐めてはいけない。
昨日のあれは、手痛かった。
その経験を生かして、には迷子を捜すような真似はさせまいと
楽観視する彼女に厳しく言うと、は少し考えた後、こくんと首を縦に振った。
「わかった。じゃ、行ってくるから」
「はい、いってらっしゃい」
手を振ってぱたぱたと駆けて行くを見送ると、
玄関の辺りから「おまたせ!」「おう。じゃあ、行くか」
などと言ったやりとりが聞こえてくる。
それを聞きながらは、背伸びをしてさてと、と呟いた。
さて、じゃあお菓子作りと掃除でもしましょうか。
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