「とりあえず、あの腕と血については、どれぐらいで消えたわけ?」
麦茶がなみなみと入ったコップを持って、が問いかけると
あーという声を漏らしながら政宗が口を開く。
「そうだな、大体お前らが逃げて、俺達が真田たちに説明を受けてる頃には
いつの間にか消えてたな」
なぁと、政宗が小十郎のほうへ同意を求めると、彼も深く頷いて
姉妹を見る。
「そうですな。政宗様の仰られるとおりです。
前兆も何もなく、気がつくとあそこには無かった」
「俺も注意深く見てたんだけどね、瞬きする間には、もう消えてたよ」
口々にいう彼らの言う通り、たちが脱衣場から出てきたときには
既に血溜りも腕も無かった。
それを確認したときには、酷く驚いたものだ。
思わず前を歩く佐助に片付けたの?!と大声で話しかけてしまった。
かといって、そうじゃなくて突然消えたのだと返されたときにも
それはそれでえぇ!?と結構大きな声で叫んでしまったが。
「…いや、何回聞いても…こわ…」
腕をさすりながら言ったの言葉に、まぁねえと返しながら
それでもは消えてくれて良かったと思う。
もしも万が一消えてくれなかったら、間違いなく達は
あの腕と血溜りを処理をしなければいけなかったからだ。
あんなもの玄関先に放置しておけるわけが無い。
とりあえず、もし仮にまた現れて、今度は消えなかった場合
処理は血を片付けて、ルミノール反応消して、腕はどうすればよいのだろう。
焼けば良いのか?
…本当は考えたくも無いが、誰かに見つかって犯罪者にはなりたくない。
出来ればもう現れませんようにと祈りつつ、は次の議題に移る。
「えぇと、じゃあ次は化け物退治と他の人が落ちてくる可能性について、でどうでしょう」
が発言をすると、しんっとその場が静まり返った。
全員が一様に難しい顔をして、考え込む。
「そりゃあね、あの化け物は言葉も通じないし
多分俺達を襲う可能性もあるけど、残念ながら
俺達を帰せる可能性があるのも、あの化け物っていう悲しい事実があるんだよね…」
「そうでござるな…それを思うと、簡単に退治するという結論も出せぬ。
…かといって、ではこの後、某たちと敵対している者たちが
あの化け物に連れてこられぬかといえばそうとは限らぬ。
それに、皆が皆、冷静に話を聞くような…理性あるものばかりとは限るまい
故に、生かすも殺すも、現状では判断せぬ方が良いと、某は考えているのだが…どうか?」
幸村が問いかけると、全員が一斉に彼の言に頷いた。
「前々から思ってたが、あんた馬鹿じゃないんだよな、馬鹿じゃ。
普段のあのノリは何なんだ」
「旦那は、燃え滾るとああなんだよ」
眉間に皺を寄せる政宗に、佐助が苦笑する。
あのノリも、燃え滾るも分からないは幸村を見るが
彼は少し恥ずかしそうに笑うだけで誤魔化して、ごほんと咳払いをする。
「某の戦場でのあれこれはともかくとして。
とりあえず、一時保留という結論で宜しいだろうか。
殿も、そう思ったからこの議題を一緒に持ち出したのであろう?」
問われては首を縦に振った。
「まあ、その通りなんですが…とりあえず、次に人が現れたら
あなた方に間に入って欲しいし、危険であればどうにかして欲しいんですけど」
「それぐらい当たり前だろう」
大きく小十郎が頷く。
それにふぅっと身体の力を抜くと、が顔の前で手を組んで難しい顔をしているのが見えた。
?」
「ん、怖いなと思って」
「うん」
当たり前の反応だ。
だって怖い。
頭を撫でてやると、ちらっと横目でのほうを見て
それからは考えるように家の中に視線を巡らせる。
「……ていうかさ、なんていうか、家、引っ越すわけにはいかないの?」
当たり前の疑問に、を除く全員があーと声を漏らす。
も、無言で目を閉じた。
とて、考えなかったわけではないのだ。
引っ越せば全部の問題に片がつくのではないかと。
ただ。
「それをすると、真田さん達を帰せる可能性が薄くなってくる上に
あの化け物が、他の誰かを連れてきたときに説明できる人間が居なくなり
かつ、あの化け物がこの家を選んで現れているんじゃなくて
私達を目標に現れている場合、ちょっと困ったことになるっていうか」
一つ目二つ目は黙って聞いていただったが、三つ目を口にした瞬間に
目をむいてを見る。
「可能性よ可能性、あくまで可能性だけど」
ただ、残念ながらありともないとも判別のつかない可能性である。
もし仮に、たちを目指してあの穴、化け物が現れているのだとしたら
引越しをしても意味が無い上に、おそらくここよりも
住宅が密集しているであろう引越し先では後の対処がやり辛くなる。
…例えば、落ちてきたものの事後処理、だとか。
あまり深くは考えたくなくて、首を振って考えを打ち切ると、は顔を上げて
今に居る全員を見渡した。
「ということで、化け物については全て保留。
対処についてはまた後日。
引越しもせず、この家に住むということでよろしいでしょうか」
「………仕方ないよね」
がっくりと肩を落としながら同意するに、政宗が
「心配すんな、居るときには守ってやるよ」
と肩を叩いた。