「じゃあ、第一回どうしてこうなった会議を始めます」
まず宣言したのはだった。
彼女らしい酷いネーミングセンスの会議名には触れずに、
はただ頷き早速口火を切る。
「じゃあ、とりあえず自己紹介から。
遅れましたが私が、この家の家長のと申します」
「妹のです」
「某、甲斐の虎が家臣、真田幸村でござる」
「その忍隊の長、猿飛佐助だよ」
「政宗様の家臣の、片倉小十郎」
「奥州筆頭、伊達政宗だ」
にやりと言った政宗を最後に、一旦言葉が途切れる。
ぐるりと食卓を囲むように座る面々を見回しながら、はさて、と呟いた。
「えぇと、うちのにはまだ一つも説明をしておりませんので
もう一度確認の意を込めまして、昨日の出来事の始まりから
説明をさせていただこうと思います。
よろしいでしょうか」
それにこっくりと全員が頷いたのを確認してから、
は再度口を開いた。
「昨日私が仕事から帰ってきてご飯を食べているとき
…そうですね、夜十時ごろだったと思いますけれども
猿飛さんが、この食卓の上に突如として現れました。
間違いありませんね」
「十時って言うのがいつかは分からないけど、その通りだね。
ちなみに俺は旦那に命じられて、ちょっと越後の方まで
お使いしてきた帰りだったんだけど。
で、その時点で俺は、ちゃんのことを
忍かそれとも妖のものかと思って、結構きつく問い詰めた、と」
「はい。ここがどこかとか、伊達さんと同じようなことを問われました。
…まあ、そこはさておき、そうこうしている内に
あの…化け物の穴が現れて、真田さんがそこから落ちてきて
私が原因では無いらしい、ということを猿飛さんが気が付かれて
まあ、情報交換はしたんですけど、大したことも分からずその日は就寝と」
大したことも分からず、の所では佐助を見てやったが
(お前が情報話さないからという意を込めて)佐助はアハーと笑うだけでの視線を流した。
「で、その後はちゃんが起きる前に、旦那に俺から事情話して
なんとなく納得してもらったところでちゃんが起きてきて
窓から外見せてもらったりしてるところで、妹ちゃんが帰ってきて」
「あとは政宗殿たちも知っての通りでござる」
「Ah-…つーことはだ、あのmonsterについてはこの姉ちゃんたちも何も知らないし、
お前らも何も知らない。
だが、あのmonsterのせいで、俺たちがここにいるのは間違いないっていうのは確定だな」
「まあ、多分」
「OK。で、あの化け物は何なのか云々かんぬんを話し合う前に
はっきりさせておきたいんだが。
ここは五百年後の世界で、俺達は右も左も分からない状況ってのは、
真田と猿飛から聞いてる
で、その状況の俺たちを、praiseworthy(奇特)にもあんたは見捨てる気は無い。
そういう風に俺はこっちから聞いてるが、これは合ってるか?」
「えぇ、まあ」
真田主従を指差しながら言う政宗に頷くと、隣でえぇ?!という悲鳴のような声が上がった。
「お姉ちゃんなんで?!」
「だって、この人たち出て行かせるなんて出来ないよ」
「何で!」
「だって、良心の呵責とかそういうの置いておいて
この人たちこのまま出て行かせたらまず、銃刀法違反で捕まるでしょ?
そしたら君たちどこから来たのって話になるじゃない。
で、この家国道沿いにあるんだから、口割っても割らなくても
間違いなくこの家から来ましたってばれるでしょ。
目撃者多数だよ?
その状態で、関係ないですなんて言い訳が通用すると思う?
思わないよね。だって分かるでしょ。
しかも銃刀法違反だけならまだしも、抵抗して警察の人間に斬りかかってたら、
間違いなく殺傷罪、公務執行妨害罪も追加だよ?
その状態で、警察が来る。
考えたくもないね。
しかも警察が来るってことは取調べされるってことだよ。
その間仕事どうするの?しかも犯人の一味扱いなんてされたら
仕事首になっちゃうよ、そう思わない?
っていうことは、自己保身的には、この人たちの面倒見るより他ないって、そういうことじゃない?」
「で、でも…」
「それに付け加えて、この人たちを外に出て行かせるってことは
凶器を持った人間を外に行かせるって事だよ。
もしもニュースでおかしな格好をした犯人が、刃物で誰かに切りかかったなんていう情報が流れたときに
はもしかしてって、思ったりしない?しかもどんぴしゃだったときに責任取れるの?取れないでしょ。
っていうか、取りたくもないでしょ」
ね?と首を傾げてみると、はもはや反論する気もないようで、うんとか細い声で返事をする。
それによしよしと頭を撫でてやると、政宗が非常に微妙な顔をしてこちらを見ているのに気がついて
は今度は彼に向かってん?と首を傾げて見せた。
「…いや、うん…そういうの、俺らが目の前にいるのに言うって言うのは…どうなんだ?」
「え、だって」
政宗の言に、現れたときには、無礼者と斬りかからんばかりだった小十郎をちらりと見ると
彼は苦々しい表情をして、そっとたちから目をそらす。
しかもこの場では言ってないが、昨日もは佐助に殺されそうになったのだし。
佐助を見ると、佐助もしっかりとから目をそらした。
「うん、ちゃんもちゃんのお姉さんだね。俺様今痛感した」
「私、別にいつでもどこでも言うわけじゃないですけど」
説得に必要だから言っただけで、のようにいつでもこんなに言うわけではない。
失礼なと思いながら、はあらかじめ出しておいた茶を一口含む。
長台詞は喉が渇く。
「じゃあこれで置く置かないの問題は解決したとして、
残った問題は二つ。
あの化け物が何かと、あなた方へのこの時代の説明です。
他に議題ある方いらっしゃいませんか?」
二本指を立てて問いかけると、全員が首を横に振る。
何故だか話を仕切っていることといい、
なんだか仕事をしている気分になってきただったが
深く考えると物悲しくなるので、とっとと話を進めることにする。
運のいい事に、は状況の整理は嫌いじゃない。
「えーでは、あの化け物について。
なにか書籍などで見たことがある、もしく聞いたことがあるという方」
「いや、全く」
「某、存じ上げないでござる」
の問いかけには、全員が揃って首をふる。
のほうもあんな化け物見たことも聞いたこともない。
が、しかし。
「で、あの化け物ついてはともかく、状況についてですが。
昨晩の私と猿飛さんの話し合いの結果、この状況は神隠しであると
結論を出しているのですが、何か異論ある方」
「ねえな。っていうか、神隠し以外に言いようがねぇだろ。
神隠しってのは、普通失踪しっぱなしだが、
二百年前ぐらいに消えた人間が、突如として山中で発見されたってのは
うちの領でも報告されたりするしな。
つーことは、神隠しにあった人間は、
別の遠い時間軸を超えて放り出されるって考えんのが
今の状況を考えるのと一番妥当か?」
「そうでござるな。神隠しと考えれば、まぁ筋は通る」
納得する主たちに、従者の方も
「まぁ、自分が被害にあったんじゃなければ
何寝言言ってんので済ませるけどねぇ」
「………あれは、人間とも思えねぇしな」
非常に嫌そうにしながらも、肯定的な意見の山に、はうんうんと頷く。
実際問題、も自分の人生の中で神隠しなどという言葉を
真面目に使うことになるとは思わなかったが、
現実に起こっているのだから仕方ない。
起きているものは認めなければ。
の方を見ると、も異論は無いようで
こちらに向かって彼女は視線で先を促した。
「じゃあ、この状況は神隠しである。
これについては皆さん見解の一致を得たということで。
では、化け物については、何かは具体的には分からないが
神隠しの原因ということで、結論付けても宜しいですか」
「いいぜ。で、次は?
俺たちの後に落ちてきた腕と血溜りが、いつの間にか消えていた件か?
化け物を退治するかどうかか?
それとも、俺たちの後に誰か他の奴が落ちてくる可能性について、か?」
矢継ぎ早に質問する政宗に、は内心舌を巻いた。
化け物に、五百年後にいきなり連れてこられたくせに
いやに冷静に状況をみているではないか。
政宗の顔を見ると、彼は得意げな顔をして口の端を上げる。
「一国背負ってるんだ。当然のことだぜ?」
それにしてはいやに得意げだが、は「凄いですね」と手放しで彼を褒めた。
賞賛すべきと思ったからだ。
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